これは、大学時代の友人から聞いた話だ。
十年ほど前の夏、彼は実家に帰省していた。特に予定もなく、思いつきで釣りに行こうと思い立ち、地図を眺めていて目に留まったダム湖へ向かったという。地元でも釣り場として名前を聞かない場所だったが、水があるなら何かはいるだろう。その程度の動機だった。
ダムサイトに着くと、小さな駐車場があり、その脇に短いトンネルがあった。湖の奥へ進むには、そこを通るしかないらしい。
車を降り、何気なくトンネルを見た瞬間、足が止まった。
入口の向こう側が、異様に暗かった。
短いトンネルだ。目測で十メートルもない。緩くカーブしているとはいえ、出口の光がまったく見えないのはおかしい。ただ暗いのではない。光が届かないというより、そこだけが塗り潰されているように見えた。
近づいて覗き込んでも状況は変わらなかった。天井や壁に照明はない。入口から差し込むはずの昼の光も、数歩先で消えている。境界線でもあるかのように、暗闇が始まっていた。
不思議なのは、怖さよりも先に「入ってはいけない」という感覚が来たことだと彼は言った。理由はない。ただ、これ以上近づくと何かが成立してしまう。そんな直感だった。
結局、彼はトンネルを通らず、車を転回させて帰った。釣り道具も出さなかった。その判断を後悔したことはないという。
数年後、ふと思い出して再びそのダム湖へ向かおうとしたが、途中の道路が崖崩れで通行止めになっていた。復旧の目処は立っていないらしく、立ち入りは禁止されていた。
彼はそのとき初めて、あの場所について調べたそうだ。
だが、調べれば調べるほど、あの暗闇と結びつく話ばかりが出てきた。
「でもさ」と彼は言った。「一番気持ち悪いのは、俺が何も知らない状態で引き返したってことなんだよ」
知識は後から手に入れた。理由も名前も、全部あとだ。
それなのに、あの瞬間だけは、誰かに教えられたわけでもなく、自然に足が止まった。
「あそこ、今も暗いままなんだろうな」
そう言って、彼はそれ以上何も語らなかった。
[673 :本当にあった怖い名無し@\(^o^)/:2017/03/23(木) 22:21:47.83 ID:cxG48M9j0.net]