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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

ごめんねを言いに来た nw+399-0105

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義姉が死んで、二年が経つ。

それでも私は、いまだにその事実を生活の中に収めきれずにいる。悲しいとか寂しいとか、そういう言葉では足りない。あの人は、私の人生の中で初めて現れた「奪われなかった家族」だったからだ。

兄と私は、いわゆる普通の家庭で育っていない。両親は気まぐれに家を出て、気が向いた頃に戻ってきた。理由は知らされない。説明もない。ただ置いていかれる。私たちは親戚の家を転々とし、そのたびに「ここは仮の場所だ」と学んだ。期待しないことが、一番安全だった。

兄だけが例外だった。兄はいつもそこにいた。私にとって家族とは兄のことだった。

兄が結婚すると聞いたとき、祝福より先に不安が立った。兄が遠くへ行ってしまう気がした。けれど、その不安はすぐに裏切られた。義姉は、私を最初から家族として扱った。気を遣うでもなく、距離を詰めるでもなく、最初からそこにいる存在のように振る舞った。

彼女と一緒に過ごす時間は、不思議と落ち着いた。家族という言葉が、ようやく現実のものになった気がした。

その人が突然いなくなった。

事故だったと兄は言った。交通事故。詳しい話はしなかったし、私も聞かなかった。ただ、納得できない感覚だけが残った。大学を休学して部屋に閉じこもったのは、喪失だけが理由ではなかったと思う。

何かが、引っかかっていた。

暗い部屋で何日も過ごすうち、忘れていた記憶が浮かび上がってきた。子供の頃、東北の親戚に預けられていた時のことだ。

その村は静かだった。人の気配が薄く、声を出すのをためらうほどだった。老人ばかりで、子供は私と兄だけ。私たちはいつも二人で遊んでいた。

その村に、一度だけ若い女の人が現れた。

知らない顔だった。親戚でも近所の人でもなかった。けれど、自然に話しかけてきた。関西弁だった気がする。東北の訛りに囲まれた中で、その響きだけが妙に浮いていた。

私はすぐに懐いた。兄は最初こそ距離を取っていたが、やがて一緒に遊ぶようになった。理由は覚えていない。ただ、その人がそこにいた。

不思議なのは、その日限りで二度と会わなかったことだ。村の誰も、その人のことを知らなかった。

そして、もうひとつ。

遊びの途中、彼女はふとした拍子に「ごめんね」と言った。何に対してか分からない。転んだわけでも、怒られたわけでもない。ただ、唐突に謝る。その言葉だけが、妙に耳に残った。

その記憶を思い出した瞬間、胸の奥で何かが重なった。

義姉の話し方。声の調子。ふとした仕草。関西弁。そして、謝る癖。

飛躍だと分かっていた。それでも、重なってしまった。

義姉が生きていた頃のことも思い出した。兄との馴れ初めを聞いたとき、彼女は笑って言った。「すごい勢いで口説かれて、そのまま流されたの」。けれど、私は違和感を覚えた。兄は、人を口説くような人間ではない。

後から聞いた話では、兄は彼女に「前に会ったことがある気がする」と何度も言っていたらしい。

それ以上は、考えないようにしていた。時間が経ち、私は大学に戻り、兄も日常を取り戻した。あの村の記憶は、また曖昧になっていった。

二年後、ゴールデンウィークに兄と会ったときのことだ。

その席で、初めて義姉の最期の言葉を聞いた。

「先に死んじゃうなんて、○○ちゃんに申し訳ない。ちゃんと謝りたい」

その言葉を聞いた瞬間、体の奥が冷えた。

謝りたい。

あの村で聞いた声と、重なった。

理由は分からない。ただ一致してしまった事実だけが、静かに積み上がっていく。

義姉は、いつも私を気にかけていた。過剰なほどではない。ただ、当然のように。まるで最初から知っていたみたいに。

あの村に現れた女の人も、そうだった。見知らぬ子供に対して、不自然なほど自然だった。

兄には、この話をしていない。誰にも話していない。

けれど、私の中では、いくつかの出来事が一本の線で繋がってしまっている。

優しさだったのか。偶然だったのか。

それとも、あの時すでに、何かが始まっていたのか。

夜になると、ふと思う。あの「ごめんね」は、誰に向けられた言葉だったのか。

私と兄に向けられたものだったのか。
それとも、これから起こることに対してだったのか。

答えは出ない。

ただ、優しさの顔をした何かが、時間を越えて寄り添っていたような気がしてならない。

それを思い出すたび、胸の奥が静かに疼く。

今でも、眠れない夜がある。

[出典:581 :あなたのうしろに名無しさんが……:02/05/27 01:02]

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