短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

小さな花壇【ゆっくり朗読】800

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何度かタクシー運転手さんに怖い話はないか尋ねたことがある

345 :本当にあった怖い名無し:2022/01/26(水) 00:06:27.48 ID:icuE+6v90.net

たった1回だけ、貴重な体験談を得ることができた。

その運転手さんのAさんは、車両のある社屋までは徒歩で向かう。
通勤路はいつも同じだ。

Aさんの通勤路には道路に面して小さな花壇を置いた家がある。

ある日通勤時にその家を通り過ぎようとした時、種類はわからないが見慣れない植物が花壇から生えていた。

茎は太く元気に50cmほどは伸びており、花のツボミなのか実なのかわからない物がなっていた。

特に気にもせず出社したそうだ。
帰宅時にもそれは残っていた。

翌日、例の植物の実の様な物……
花が開かないところを見ると実だったのかもしれないとAさんは言っていた……

が少し大きくなっているのがわかった。

成長してるんだなぁ程度の感想しかなく通り過ぎた。

翌日、翌々日と日を追う毎にその“実”はシワや窪みをだんだんと増やしながら育ち続けて、最後には人の頭ほどの大きさに育った。

そうなってやっとAさんはあることに気がついた。

「嗚呼、人の顔だ。
それも自分が知っている人の顔だ」

しかし誰の顔だったかまでは思い出せずその日は帰宅した。

帰宅すると奥さんから訃報が届いていることを知らされた。

どうやらAさんの中学時代にクラスメイトだった人物が亡くなったとの内容だった。

葬式に参列してお焼香で故人の顔を拝見してハタと気がついた。

「嗚呼そうだ。
あの植物の実はこの、彼の顔そっくりだったんだ」

「でも変ですよねぇ。
彼とは中学時代ほとんど話したこともないし、卒業後なんか一切交流がなかった相手だったんですけど……
虫の知らせって言ったって、なんで縁の薄い彼の顔が私の前に現れたんですかねぇ」

Aさんは困り笑いを浮かべてそう締めくくった。

例の植物は、葬式後の通勤時にはまるごとなくなっていたという。

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