ゴールデンウィーク、祖母の家に親戚が集まった。
庭と空き地に挟まれた場所で子どもたちが騒ぎ、誰かが「タイムカプセルを埋めよう」と言い出した。年長だった自分が穴を掘る役を引き受けた。庭は駄目だと祖母に止められ、隣の空き地との境目を選んだ。
どうせなら深く掘ろうと思った。途中で硬いものに当たった。石だと思い込んで掘り続け、丸一日かけて引きずり出したそれは、古い石灯籠だった。土台には北東南西の文字が彫られ、その間に「鬼」「呪」という字が交互に刻まれていた。
人が集まり始めた。近所の年配者たちは灯籠を見るなり表情を変え、「騒ぐな」とだけ言って去っていった。その夜、従兄弟三人が高熱を出した。一人はそのまま入院した。大人たちは翌日、灯籠を寺へ運ぶことを決めた。
動かした瞬間、灯籠の下から小さな箱が出てきた。赤かったらしい塗装は剥げ、四隅に奇妙な飾りがある。開かず、結局ハンマーで壊した。中には髪の毛、爪、指輪、和紙に包まれた得体の知れないものが詰め込まれていた。
子どもたちが泣き叫ぶ中、年配者たちは無言でそれらを拾い集め、箱ごと灯籠に戻し、トラックに積んで去っていった。何も言わず、振り返りもしなかった。
それで終わったはずだった。
数日後、弟がテレビの前で突然叫び出した。「音が変だ。鬼が出てくる」画面を指差し、玄関へ走ろうとして転んだ。その夜、自分の顎の奥に針を刺されるような痛みが走った。外傷はない。痛みだけが残った。
家の中が静かすぎると感じるようになった。音が一拍遅れて聞こえる。部屋を移動すると、方角が分からなくなる。北に向かって歩いたはずなのに、同じ部屋に戻っている。壁の隅に黒い影が見える気がするが、振り返ると何もない。
ある夜、玄関のたたきで、砂を踏む音がした。誰もいない。だが、確かに「置いた」音だった。灯籠はもうないはずなのに、家の中に方位が持ち込まれたような感覚が消えない。
今も、ときどき顎が痛む。そのたび、無意識に東西南北を確認してしまう。
確認できないのに、向きだけが、そこにある。
(了)
[出典:245 本当にあった怖い名無し sage 2011/05/20(金) 14:59:47.24 ID:mfYUrxY20]