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短編 r+ 怪談

首の重さ rw+1,622

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川本という男がいる。

アウトドアが趣味だと豪語するが、その実態は、キャンプと称して女を口説き、酒と肉で場を温め、あわよくば一晩を共にするためだけに山へ入る男だった。

川本はダム湖を好んだ。人が少なく、夜は静かで、月と星が勝手に雰囲気を作ってくれる。面倒な演出がいらない。

その夜も、川本は新しく引っ掛けた女を連れ、地元でも小さなダム湖のほとりにテントを張った。酒を飲み、肉を焼き、二人は早々にテントの中へ入った。湖面には満月が揺れ、あたりは異様なほど静かだった。

途中で、違和感に気づいた。
対岸の暗がりに、人影がある。林の隙間に立ち、こちらを見ているように見えるが、まったく動かない。

「覗きかよ」

川本は笑い、わざと声を張り上げ、テントの中で派手に動いて見せた。相手が人なら、嫌がって去るだろう。そう思った。

影は動かなかった。

やがて酔いと疲れで眠りに落ちた。
真夜中、冷たい風が頬を撫で、川本は目を覚ます。テントの入り口が、少し開いている。

その瞬間、闇が動いた。

影ではない。闇そのものが形を持ち、ぬるりと近づいてくる。頭から長い髪が垂れ、白っぽい顔には目も鼻もなく、口だけが横一線に裂けている。その裂け目から、「クッ…クッ…クッ…」という湿った音が漏れていた。

川本は息を殺し、瞬きすらできずにそれを見ていた。
巨大な顔は、しばらく川本の上に留まり、やがてゆっくりと遠ざかった。

その直後だった。
隣で寝ていた女が、突然、短く悲鳴を上げた。

闇が、戻ってきた。

「クッ…クッ…」

音と同時に、何かが強く捻じれるような鈍い音がした。川本は目を閉じ、耳を塞ぎ、時間が過ぎるのを待つことしかできなかった。

気がつくと、夜明けの薄い光がテントの中に差し込んでいた。
恐る恐る隣を見る。

女は、普通に横になっていた。
眠っているようにも見える。

だが、顔が見えない。

首から上が、見当たらない。

川本は悲鳴を上げて外へ飛び出した。湖畔にも、対岸にも、血はない。足跡もない。ただ、昨日までいたはずの女の首だけが、どこにもなかった。

川本はテントを畳み、そのまま逃げるように山を下りた。

数日後。

川本は警察に呼ばれた。女が、別の県で保護されたという。記憶が曖昧で、数日間の行動をほとんど覚えていないらしいが、外傷はなく、首も、当然ついていた。

川本は何も言えなかった。
あの夜、隣にあったものが何だったのか、説明できる言葉がなかったからだ。

話を終えたシゲジは得意げだったが、聞いていた女たちは明らかに引いていた。
「最悪」「意味わかんない」そんな声が飛ぶ。

それでも、俺は笑えなかった。
川本がよく使うダム湖は、俺の地元の近くだ。

最近、その湖の周辺で、行方不明者が出ている。
しかも、見つかった人間は皆、こう言うらしい。

「首が、重かった気がする」と。

(了)

[118 名前:ノブオ ◆x.v8new4BM [sage] :04/07/30 15:43 ID:H2N3QmhC]

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