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普通の人たち rw+3,629-0217

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先週の土曜日のことだ。

うまく話せる自信はない。ただ、あのときから胸の奥に沈んだままの何かが、少しずつ重くなっている。このまま黙っていたら、たぶん私のほうがあちらに近づいてしまう。

朝七時。灰色の空の下、彼氏の車に乗った。助手席に彼氏。後部座席に私と、美樹。仲宗根は運転席の後ろで、地図を広げていた。行き先は山奥の廃工場。半年で潰れたガラス製品会社。事故も事件もなく、経営者も健在。仲宗根の親戚が勤めていたという、曰くのない場所。

山道は割れ、草が道を呑み込んでいた。最後に人の気配を見たのは、小さな寺と畑。その先には、自販機が一台あるだけだった。

高い塀に囲まれた門は、木のパレットで塞がれていた。車を降り、隙間から中へ入る。

敷地の端は草に覆われているのに、中央の建物だけが妙に整っていた。窓は割れていない。壁も崩れていない。ただ、時間だけが止まっている。休校中の校舎のような静けさだった。

「一周して、入れるところ探そう」

建物の角を曲がったとき、前方に人影が立っていた。心臓が一瞬止まった。だが近づくと、ただの中年女性だった。買い物帰りのような格好。私たちに軽く会釈し、通り過ぎていく。

そのあとも、人は現れた。ハーフパンツの男。子どもの手を引く母親。スウェット姿の若い女。全員、どこにでもいる顔をしている。場違いなのは、軍手をはめて廃墟を歩く私たちのほうだった。

「使われてるんじゃないのか」

仲宗根が言った。

人々のあとを少し距離を置いて追うと、小さな事務所らしき建物に入っていく。私たちも扉を開けた。

中は、机が一つ。埃に覆われた床。壁際に絡まったケーブル。窓はあるが、外の景色は見えない。

そして、足跡がない。

さっきまで何人もここから出てきたはずなのに、床には私たちの靴跡しかなかった。

誰も声を出さなかった。

背後で、ガチャリ、と音がした。

振り返ると、ドアが内側から開き、知らない男が一人、静かに出てきた。普通の顔。普通の服。私たちを一度だけ見て、何も言わず通り過ぎる。

美樹が叫び、走り出した。

私たちも続いた。だが、逃げる方向から次々と人が現れる。肩がぶつかる。睨まれる。いつの間にか敷地内は人で埋まっていた。何十人、いや、もっといたかもしれない。

全員が普通だった。ただここにいる理由だけが、ない。

門を越え、車に飛び乗る。エンジンをかける。だが道も人で塞がれていた。ふらふらと歩く波。クラクションを鳴らしても、誰もどかない。ただ一瞬だけ、こちらを見る。

目が合った。

その目の奥に、私たちの姿が映っていなかった。

美樹が叫んだ。「お寺!さっきのお寺!」

車が止まる。彼氏と仲宗根が飛び出す。美樹も続く。三人は人の間を縫うように走っていく。

私は後部座席で動けなかった。呼吸がうまくできない。視界が白くなる。

気づいたとき、車は国道を走っていた。雨が降っている。周囲に人影はない。山は静かだった。

ファミレスで何度も電話をかけたが、応答はなかった。翌日、二人の家を訪ねても帰っていない。仲宗根は会社を欠勤している。

警察には「山で迷った可能性がある」と言われた。

でも、迷ったのはどちらだろう。

あの敷地の中で、普通に歩いていた人たち。
あの部屋から、何度でも出てきた人たち。

あれは本当に、向こう側の人間だったのか。

それとも、溶けていったのは――

今でも、ときどき背後でドアの開く音がする。

振り返ると、誰もいない。

でも、足跡だけが増えている気がする。

[出典:552: 本当にあった怖い名無し:2011/06/21(火) 21:24:03.81 ID:SHvWLwFC0]

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