中学生の頃、友達を失った。
表向きは精神の病と処理されたが、私は別のものを見ている。あれ以来、あの出来事に触れないことで均衡を保ってきた。だが先日、旧友と偶然再会し、封じていた記憶が剥がれ落ちた。書くことで薄まるなら安い代償だと思い、ここに残す。
私を含め五人。海藤、設楽、須藤、菊地。家業を継ぐ予定の者ばかりで、受験に追われることもなく、学校は通過点にすぎなかった。昼から姿を消しても誰も本気では咎めない。時間だけが余っていた。
昼休み、海藤と設楽が噂を持ち込んだ。改築直後に持ち主が首を吊り、そのまま空き家になった屋敷。私たちは即座に決めた。たまり場にちょうどいい。
屋敷は外から内部が見えない造りだった。勝手口の鍵は外れている。侵入は簡単だった。書斎らしい部屋で酒を回し、煙草に火をつける。だが、退屈は長くもたない。
須藤が壁の上を指した。二つ並んだ小窓。横の扉は本棚で塞がれている。
肩車で左の窓を押し上げた瞬間、湿った空気が流れ出た。鼻の奥に刺さる匂い。今もあれが何の匂いだったのか断言できない。ただ、入るべきではなかった。
中は狭く、薄暗い。防音材の上に壁紙を貼った痕跡。湿気で波打っている。家具は小机だけ。上には黒く塗り潰された写真。
海藤が額を持ち上げると、裏から紙片が落ち、束ねた髪がこぼれた。御札だった。束ではなく、剥がされたものを無造作に押し込んだ形跡。
設楽が「出よう」と言い、窓枠に足を掛けた。そのとき、壁紙がふわりと浮いた。内側一面、隙間なく貼られた御札。乾いた音を立ててめくれ、奥の暗がりが露わになる。
須藤が嗚咽する。設楽が窓によじ登る。私と菊地で押し上げる。背後で「いーーー」という音が続く。人の声のようで、機械の軋みのようでもあった。振り返らなかった。
反対側の部屋に飛び降り、須藤を引き上げようとした瞬間、彼が叫んだ。「足、掴まれた」
靴下の踵が丸くえぐれ、濡れている。血はない。だが何かに舐められたように光っていた。
「神社呼べ!」
設楽が裸足で駆け出す。
ほどなく神主が来た。顔色は白く、私の腕を掴み、強引に後ろへねじ上げる。その直後、背後で裂ける音がした。布でも紙でもない、もっと柔らかい何かが破れる音。
「行け」
突き飛ばされ、私たちは逃げた。
海藤はそれ以降、学校に来なかった。須藤も程なく死んだ。見舞いに行き、格子越しに座敷を覗いた瞬間に絶叫し、倒れたと聞いた。
生活指導室で神主が言った。
「海藤はもうおらんと思え。須藤のことも忘れろ。アレは目が見えん。覚えとる奴を探す。何年でもかけて」
そして私の後ろ髪をその場で切った。
「最初に掴むのは、ここや」
私はその足で床屋に行き、丸刈りにした。
卒業後、四人は互いを避けた。話題にしないことが唯一の防御だった。私は県外へ進学し、常に髪を短く保った。
だが祖父の初盆で戻った夜、設楽と菊地の死を知らされた。設楽は部屋を封じ、壁に自分の髪を貼り付けて首を吊った。菊地は後頭部を引き毟り、瞼に刃を当てた痕を残していた。
私は理解した。覚えているのは、私だけだと。
三日間、高熱で寝込んだ。三日目の夜、夢に海藤が出た。骨と皮だけの顔で言う。
「お前一人やな」
「うん」
「須藤が待っとる」
「行かない」
「来んと毎日探しに行く」
目が覚めた。枕元の位牌にひびが入っている。
考えた。記憶している者が増えれば、標的は分散するのではないか。
だから書いた。
アレは目が見えない。だが、知っている者を探す。
あなたが読み終えた今、私は一人ではない。
(了)