短編 洒落にならない怖い話

ラフレシア、のようなもの。【ゆっくり朗読】3800

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四、五年ほど前に、取引先の人から聞いた話。

171 本当にあった怖い名無し 2006/10/26(木) 05:11:25 ID:cQYTHW9f0

その人が言うに、もうだいぶ前の出来事とのことだから、少なくとも十年以上前のことと思われる。

インドネシアに藤木氏(話してくれた人)、佐々木氏、梅山氏の三人で仕事に行った。

仕事といっても、半分は遊びを兼ねたような旅行だったらしい。

そんなわけなので、仕事が終わってから十日近い暇ができ、最初の二~三日はのんびりと観光を楽しんでいた。

三人とも現地は初めてではないので、なんとなく退屈さを感じていたところ、佐々木氏が

「ラフレシアを見てみないか?」と言い出した。

ジャングルに入るには、やはりガイドが要る。

梅山氏が伝をたどってガイドをさがしたところ、幸いにも引き受けてくれる人が見つかった。

翌日、三人はガイドのいる町へ向かった。

そしてガイドと落ち合い、装備を調達すると、その町の安ホテルで一泊した翌早朝、ガイドを含めた四人はジャングルへと分け入った。

念のためにラフレシアについて書いておくと、巨大な寄生花であるこの植物は、数が少ない上に開花する時間も僅かで、なかなかお目にかかることは困難である。

ガイドにも「期待はしないほうがいい」と予め念を押された。

まずは蕾を探し出し、その蕾が開花するまで待って花を見るというのが普通だが、日帰りで何日かジャングルに分け入っても、まず無理だろうとのことだ。

それでも、偶にはジャングル探検も悪くない、何かの話の種になるだろう。

三人はそんな気分であったということだ。

一日目

何の成果もなく終わった。

藤木氏は、ジャングルに分け入るということがこんなにも大変だとは思わなかったという。

何と言っても蒸し暑く体力の消耗が酷い。

おまけに害になる生き物にも常に注意を払わなければならない。

おそらく、他の二人も同じ気持ちであったろう。

二日目

昨日とは方向を変えたが、これまた成果無し。

疲労困憊でホテルに帰る。

もう、いい加減嫌にはなっていたが、せっかく来たのだからと、明日もう一日がんばってみることにした。

そして……三日目

当然、一日目、二日目とは方向を変えて分け入る。

しかし、やはりというか、蕾さえ発見できぬまま時間は過ぎてゆく。

幾分早い時間だが、かなり疲れもあって、諦めて戻ろうということになった。

ガイドにその旨を告げると、四人は道を引き返した。

二時間半ほど歩いたころ、列の最後尾にいた佐々木氏が声をあげた。

佐々木氏が指差すほうを見ると、遠くに何やら赤茶けた塊が見えた。

「あれ、ラフレシアじゃないのか?」

ガイドは目を細めるようにして見ていたが、突然、顔を引きつらせた。

「急ごう!黙って付いてきなさい!」

ガイドは小走りに進み始めた。なおもそれを気にして足の進まない三人に振り向きざま言った。

「命が欲しいのなら、急ぎなさい!」

只ならぬガイドの雰囲気に、三人は慌ててガイドの後を追った。

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しばらくすると、生臭い臭気が漂ってきた。

ふと振り返った藤木氏の目には、赤茶けた物体がさっきより確実に近いところにあるのが映った。

動いているのか?

あれは!

この臭いがあの物体から発せられているとしたら、あれはラフレシアではない。

実際に臭いを嗅いだことはないが、ラフレシアは肉の腐ったような臭いのはず。

なのに今漂っているのは生臭さである。

藤木氏はあれがラフレシアではないどころか、何か得体の知れない『嫌なもの』であることを確信した。

自然に足が速まる。

ガイドはもちろん、佐々木氏、梅山氏もそれに感づいたようで、自然と一行の足は速くなった。

生臭い臭気は徐々に強くなっている気がした。

後ろを振り返ってみようと思うが、恐怖でそれもできない。

後に続く佐々木氏、梅山氏の二人も、藤木氏を追い抜く勢いでぴったり付いてくる。

普通の道ではないから、全力疾走というわけにはいかないが、可能な限り速く走った。

ようやく自動車の通れる道が見えてきた。

ふと振り返ると、それはもう十メートルに満たない距離にいた。

その距離で分かったのだが、それは大きさは二メートル近く、直径七〇~八〇センチもある寸詰まりで、巨大なヒルのような感じであった。

道に出ると、ガイドが足を止め荒くなった呼吸を整えている。

三人も立ち止まった。

「もう大丈夫だと思います」

ガイドが息を切らせながら言った。

藤木氏は安堵のあまり、その場に座り込んだ。

他の二人も真っ赤な顔をしてしゃがみこんだ。

落ち着いてみると、もうあの臭いはしない。

ジャングルの中を見たが、木々が日光を遮っているせいで様子は分からない。

「あれは、何なのか?」

ガイドに尋ねたが、首を振っただけで何も答えてはくれなかった。

結局、ホテルに着いても「あのことは忘れてください。私も詳しくは知らないし、忘れたほうがいいですよ」と、あれが何かは教えてもらえなかった。

後日、梅山氏が仕事でインドネシアに行ったとき、かなり方々でこの件を聞きまわったようで、いくらかの情報を得ることができた。

それは『人を喰うもの』で、人をみつけると執拗に追いかけ、人が疲れて動けなくなったとき襲い掛かってくるという。

太陽の光が好きではなく、あのときもし早めに切り上げていなかったら、ジャングルを抜け出しても追ってきて、逃げ切れなかったかもしれなかった。

それを見たら、現地で言うお祓いを受けなければならない。

お祓いを受けなければ、それは追いかけた人間を忘れず、執拗に狙ってくる。

三人はお祓いはしなかったが、すぐに日本に帰ったので難を逃れたのではないか。

そして、その名前は分からない、というよりも口にしない、ということであった……

(了)

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