今から五年くらい前、俺は学生アルバイトでテレビゲーム屋の店員してた。
125 名前:あなたのうしろに名無しさんが…… 投稿日:03/02/09 21:33
その時店内には、店長ともう一人のバイトの人間がいた。
その日は休日だったが客の入りは良くなかった。
しばらく店内の雑用をこなしていたら、ツナギを来た中年のおっさんが入ってきた。
「いらっしゃいませ」
店長がそう言いきる間もなく、その男はカウンターレジにやってきた。
男「あ、あの……」
店長「はい、何か?」
男「メロン買いませんか?」
俺たち『はぁ!?』
話によると男は東北の方からやってきた業者だという。
メロンを安く売るから買わないか?とのことだった。
店長は最初はそんなの結構ですと断っていたんだが、そのうち男は
「じゃあ試食だけでもしてくれ。美味しかったら買ってくれ。そうじゃなかったら買ってくれなくていいから」
そんなことを言い出した。
「じゃあ試食だけだったら……」
店長が折れるのを確認すると、その男はちょっと待っていてくれ、と一旦外へ出てメロンを取りに言った。
俺は何がなんだかわからず、ポカンとしていた。
正直メロンが好きじゃなかったからどうでも良かったんだが……
ただ、その男の様子がどこかぎこちないところだけは気になった。
数分後男が戻ってきた。
メロン一箱とまな板、そして大きな包丁を引っさげて。
さすがに刃物を見た店長の顔も固まる。
バイト君だった俺も、背中に冷たい汗が走った。
そんな俺たちをよそに男は箱の中からメロンを一個取り出すと、おぼつかない手付きで、その場で切りはじめた。
その手付きはどこかぎこちない。
ただメロンにすぅーと入っていくその包丁の切れ味は確かなものだと分かった。
その切っ先を見ていると、なんか俺は嫌な予感がしたんだ。
「さぁ食べてみてくれ」
一口サイズに切られたメロンを口にする店長とバイト君。
メロン苦手な俺も場の雰囲気に逆らえず、しぶしぶ口にすることになった。
メロン嫌いの俺が言うのもなんだが、それはお世辞にも美味しいとはいえないメロンなんだろうな。
口に中に入れた瞬間にピリピリとしびれてくる感じがした。
俺だけがそんな感じかと思ったら、他の二人にとってもいまいちだった様で、結局買わないってことになったんだ。
「美味しかったら買ってくれるって話だったよな?」
そう言う男の手にはずっと包丁が握られている。
目がだんだんとすわってきていた。
店長「いえ、ちょっと口に合わなかったものですから……」
男「一個3,000円でいいんだ。一人1,000円ずつ出せば買えるだろうに」
店長「だから口に合わなかったんですってば」
店長はほとほと困り果てた顔をしていた。
そんな店長の顔色とは対照的に、包丁を持った男の顔はだんだんと昂揚して赤くなってきていた。
俺も隣のバイトも恐怖でかちこちになっていた。
男の様子からキレられると言うことが余裕に想像できたからだ。
しかし意外にも「分かった」と、ものわかり良く男はそう言ったので、俺たちは内心ホッと胸をなでおろしていたんだがその後、男は意味不明な事を口にした。
「俺は帰る。その代わりメロンの箱を外まで持ってきてくれないか」
男はそんなことを言った。
持ってくる時は全部自分一人で持ってこれたやん?帰りも一人で持っていけばいいのに???その場にいた三人ともそう思っていた。
俺たちは動かなかった。
男もまた、俺たちが動くまで動かなかった。
そのまましばらくすると店の中にお客さんが入ってきた。
小さい子供だ。
変なことになると大変なので、「店長、俺が持っていきますよ」
そう言って早くこの男に帰ってもらうことに。
俺がメロンの箱をかかえて歩き出すのを確認すると、男は後ろから付いてきた。
心配になった店長がその後に続く。
店の前にはよく見かける、ありふれたバンが止まっていた。
これが男の営業車らしい。
「車に積んでくれ」
男が後ろのハッチを空けると、中にはメロンの箱の山が詰まれている……
かと思いきや、中はもぬけの殻で、代わりに同じくツナギを来た男がいた。
目つきの悪い男だった。
「ここに置いておくよ」
なるべくその男の顔を見ないように車の中に置くと、逃げるように車を離れた。
俺の背中でハッチドアを閉める音がする。
その直前に車の中にスタンバっていた男の「チッ!」という舌打ちする音が確かに聞こえた。
彼らはそのまま素直にバンに乗り込むと車を急発進させ、町の中に消えていったのだった。
(了)