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アパートに引っ越した【ゆっくり朗読】

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以前、活力あふれる虚弱体質の母の身に降りかかった怖い話を書いた者です
→ vibrant-frail-mother

636 :本当にあった怖い名無し:2011/12/15(木) 19:16:06.95 ID:XzDmAift0

その中に出てきた私が大事にしているお狐様関連で、ほんのり怖い体験話を文章に起してみましたので、僭越ながら語らせていただきます。

ちょっと長いかもしれません。

今年の7月に、もろもろ事情があってアパートから実家に引っ越したんですが、これは私が実家からアパートに引っ越してきた時の話。

私が住んでいたアパートは2階建ての、最近になって多く見られるようになったカワイイ北欧風の外見で、ドアがすべて1階についている(2階の住人は1階のドアを開けてから中の階段を上っていく)タイプのものでした。
窓は南向きで、北側のドアを出たすぐ目の前が一面田んぼの、すごく開放的でのどかな場所です。

4年前の8月に、私は仕事の事情で、そのアパートの1階の中部屋に引っ越してきました。
ソレまでずっと実家暮らしで引越しの経験がまったくなかった私は、てんやわんやとテンパりつつ、両親に手伝ってもらいながら荷解きを行いました。

その日はとにかく暑かったのですが、休憩するにも家具が運び終わっていないので、(家具がそれほど多くなかったので、業者を使わず両親と私で運び入れを行いました。もう二度とやりたくない)

冷房をつけるわけにもいかず、仕方がないので玄関を開けっぱなしにして座り込み、夏の真っ青な稲穂が風で波のように揺れるのを見ながら、冷たいウーロン茶を煽って一息ついていたときのことでした。

「あれ?どちらさん?」
声に振り返ると、私より少し上ぐらいの女性が不思議そうに首を傾げていました。

彼女は私の部屋の上の階へ続くドアのノブに手をかけていたので、私は上の階の人帰ってきたのかと思い、あわてて立ち上がりました。

「こんにちは。今日こちらに引っ越してきましたもえと申します」

「あら、ご丁寧にどうも。私は上に住んでる井上です。(たぶん私のイントネーションを聞いて)県外から来はったん?」

「そうなんですよ。なんで、ホントに右も左もわからないので、周辺のことなんか教えていただけると助かるんですけど」

暑いしウーロン茶飲みたいし早く切り上げたいなと思っていたんですが、ご近所さんの印象を悪くするのもアレだよなぁ、という思いの方があの時は勝っていたので、炎天下で10分程度は井上さんとお話をしていました。

井上さんはどうやらココに住み始めて3年ほどたっているらしく、また、専業主婦のためかご近所のことに結構詳しく、隣近所のことや何処そこのスーパーが行きやすくていい、などいろいろ教えてくれました。

「そうや、もえさん」
「はい?」
「もえさんがここ来る前に住んどった斉藤さん、なんで引っ越したンか知っとる?」
「…ハ?」

私は恐らくとんでもなくポカーンとした顔で、井上さんを見ていたんだと思います。
井上さんもそれで私が事情をまったく知らないのだと悟ったらしく、ほんの少しだけ苦く笑った後、
「いや、知らンならええよ」とお茶を濁してしまいました。

なんだかすこしイヤな感じがしましたが、とにかくその話しで話を切り上げられそうな間が生まれたので、私はおもむろに、私が話しこんでいる間に母が玄関先に置きに来てくれた、引越しの挨拶のときに持っていくつもりだった粗品を井上さんに渡して、変な雰囲気を残したままそれぞれ部屋の中へ入っていきました。

引越しは、大き目の家具の買出しや生活雑貨を片付けるのに3日ほどかかりましたが、何とかあらかた住める程度には落ち着いたので両親は帰っていき、私は始めてアパートの部屋に一人で寝ることになりました。

なれない環境にちょっと心細くなって、枕元に置いていたお狐様(社に在るようなお狐様ではなく、狐のぬいぐるみ。亡くなった祖母のくれたもので、20ウン年間大切にしているお守りのようなもの)を手繰り寄せて、ギュッと胸に抱きこみました。

お狐様を抱きこむのは昔からの癖みたいなもので、何かいやな事があったり悲しかったり寂しかったりすると、必ず私はお狐様にギュッと縋り付いていました。

そうすると不思議と安心できたので。たぶん自己暗示か何かだと思うんですけどね。
この日もお狐様に縋り付いたら安心できたのですが、なんとなくお狐様を枕元に戻すのがイヤで、お狐様を抱いたまま眠りについてしまいました。

夜半、急に意識が浮上しました。
暖かい夏布団の感触が異様に不快で、急に気持ちが悪くなりトイレへ行こうとしました。
が、起き上がれません。目も開けられません。指一本も動かすことができません。
人生初・金縛りです。全然うれしくありませんが。
しかし如何せん、このままでは私は嘔吐してしまいます。
ソレぐらい切羽詰って、気持ちが悪かったと記憶しています。
真新しい部屋での寝ゲロはさすがに無いだろうと思いながら、私は必死で指を動かそうと意識を集中させました。
というのも、前に何かの番組もしくは本で、金縛りは体のどこかが一部でも動けば解けるとあった気がしたので、とにかく指を動かそうと躍起になりました。

どのぐらいがんばったのかあまり覚えてませんが、たぶん一瞬のことだったんだろうなと、今となっては思います。

兎にも角にもがんばった結果、右の人差し指がピクッと動いてくれました。
私は心底安心して、知らずつめていた息を吐き出しました。
その瞬間、部屋の中の環境音が一切聞こえなくなり、
「おぉおおおぉおまぁああぁああええぇえぇええがあああああぁあああぁあああ・・・」
というどこか悲鳴染みた、けれど地を這うような低い男性の声が、枕元の辺りから耳元を掠め、戸口のほうへ駆け抜けていきました。

私は心臓が口から出るんじゃないかというぐらいビックリして、けれどもビックリしすぎて硬直し、
「お前がってなんですか!?私に用なんですか!?はっきり言えよ畜生!!」
と心の中で吐きすて、(さすがに声に出すには勇気が足りなかった)
寝る前に抱いていたお狐様を再度抱きしめようと腕をギュッと抱きこみ、そこで初めて気がつきました。
腕の中にお狐様が居ません。
私は勢いよくバサァッと夏布団を跳ね除けました。
さっきの声の主がもしかしたらいるかも知れない、という恐怖感も少々ありましたが、今はソレよりお狐様です。

寝相の比較的良い私ですが、時たまに寝崩れることだってあります。
もしや蹴ったりしてあらぬ所へ行ってしまったかもしれない、ああもうだから枕元に戻して置くべきだったのに、と立ち上がって、若干涙目で電気をつけました。
お狐様は私の枕元にいました。
ええー…と思ったのですが、もしかしたら寝ぼけて元の位置に戻した可能性だってありますし、まあ自力で定位置に戻ったとしても、お狐様だからそういうこともあるでしょう、と変な風に納得して、その日はさすがに怖かったので、電気をつけたまま寝てしまいました。

次の日、仕事場での移動手続きやら引継ぎやらも滞りなく済み、約一週間ぶりの仕事をこなして、心持ボロボロになりながら帰宅しました。
お風呂にゆっくりと浸かったあと、急に眠気が襲ってきて、読みたかった本をあきらめ、そのまま寝ることにしました。

そしてまたしても夜半、意識が浮上しました。
ああもう!!またですかまたなんですか!!と若干怒りながら、けれども今度は気持ち悪くならなかったので、無理に金縛りを解こうとせずに、いわゆる“されるがまま”状態で布団に転がっていました。

どのぐらい経ったのかわかりませんがしばらくして、昨夜のように部屋の中の環境音が一切聞こえなくなりました。

何かくるのはわかっていたので、一瞬身構えた後、
「ィギャアアアアアオオォオアアアアアアアアアア」
という、猫が喧嘩する時の声が枕元から聞こえてきて、ギョッとしました。
その瞬間に金縛りも解けたので、とにかくちょっと枕元確認しようと思い、バックンバックンうるさい心臓を押さえながら立ち上がって電気をつけました。

枕元には目覚まし時計とお狐様がいるだけで、ほかは何もありません。
ホッとしたような、釈然としないような、変な気持ちになりましたが、明日もお仕事ですのではやいところ眠らないといけません。
私はお狐様を一度ギュッとしてから、枕元に戻して眠りにつきました。

あれからアパートでそういう経験は無くなりました。
あのときの男性の声と猫のような声は、なんだったのか未だにはっきりとはしませんが、なんとなく、お狐様が変なものを威嚇して追っ払ってくれたんじゃないかなあ、なんて思うこのごろです。

ああ、そうそう、NHKの徴収書が前の住人の斉藤さん名義で届くので、大家さんに問い合わせたら教えてくれたんですが、私の前の住人だった斉藤さんという方は、夜逃げか失踪かもしくは事件に巻き込まれて行方不明になり、未だに発見されていないらしいです。

という、真冬に真夏の体験談でした。

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