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変わった隣人 r+2600

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私が住むマンションのお隣の家族は、一般的な枠に収まりきらない存在だった。

お隣には、お婆ちゃん、母親、娘の三人が暮らしていた。父親の姿は見たことがなかったが、その不在が家族の奇妙な雰囲気を強調しているように感じた。誰も父親について聞こうとはせず、その存在は触れてはならないタブーのように感じられた。

お婆ちゃんは物静かで、時折古いオルゴールを窓辺で巻いている姿が印象的だった。その音色は懐かしいようで、不気味なようでもあり、不思議な感覚を抱かせた。母親は少し疲れた様子で、髪は乱れがちだが、その目には何か決意のような強さが宿っているようだった。

そして娘は、ほとんど学校に行っている様子がなく、夕方になると必ずベランダで空を見上げていた。彼女の視線は何か特別なものを捉えているかのようで、その度に不思議な気分になったものだ。

エレベーターに向かう際、お隣の部屋の前を通ることがあったが、頻繁に彼らが段ボール箱を運び出している場面に出くわした。その段ボールは小さめで、Amazonで雑誌を注文した際に使われるようなサイズだ。しかし、彼らはその段ボールを手で運ぶのではなく、空中に浮かせて、ゆっくりと横に移動させて運んでいた。

いつもお婆ちゃんと母親が室内にいて、娘が外でその箱を受け取るのだが、どう考えても手で運んだ方が効率的だ。それにもかかわらず、彼らはあえて箱を空中に浮かせて運んでいる。最初は「超能力か?」と思ったが、彼らが昼間から普通にその作業を行い、挨拶をすれば普通に返してくることから、手品か何かの練習かと思った。しかし、その箱が全く揺れず、滑らかに宙を移動している様子はどうにも不気味だった。速度も非常に遅く、亀が歩くように慎重で、高さは私(160cm)の目のあたりだった。

ある日の夕方、娘に話しかける機会があった。「いつもベランダから何を見ているの?」と尋ねると、彼女は一瞬驚いたようにこちらを見て、少し戸惑ったように答えた。「太陽の動きを見ているの。母がいつも言うの、太陽の力が私たちを導いてくれるって」。その言葉が気になったが、それ以上は踏み込まなかった。彼女の目にはどこか儚いものが宿っていたからだ。

そんなある日、大学生くらいの若い男性が私の家のインターフォンを鳴らした。何か用かと思って聞くと、お隣の一家が交通事故で亡くなり、遺品整理に来たという。彼はお隣さんの息子だというのだ。

突然の知らせに驚きつつ、詳しく話を聞くと、一家は車で移動中に激突事故に遭い、三人とも即死だったらしい。その男性は、家族との距離感があったようで、特に暗い様子も見せず、私に「昔のことを少し聞きたかっただけだ」と言った。

息子と共に隣のドアの前に立ち、彼が管理人から借りた鍵で玄関を開けた。部屋に入ると、私たちは言葉を失った。室内には、テレビ台とその上に載せられたテレビ、そして部屋の中央に無造作に置かれた大きな段ボール箱が一つだけあった。その段ボールには細々とした雑貨が入っていた。

息子は眉をひそめ、「どうしてこんなに片付いているんだろう」と呟いた。私も全く同感だった。生活感がまるでない。まるで、ずっと誰も住んでいなかったかのようだった。

段ボールの中を見てみると、テレビのケーブルのようなものや封筒がいくつか入っていた。その中には現金と手紙があり、手紙には『太陽の力を信じて』や『解放の時を待て』といった意味深な内容が書かれていた。封筒にはそれぞれ高額な現金が入っており、息子は驚いた様子でそれらを見ていた。

さらに、部屋の片隅で古びたDVDが見つかった。息子はプレイヤーにセットし、再生を始めた。映像には、お隣の家族が写っていた。母親が淡々と説明をしていた。「太陽のエネルギーは無限であり、その力を用いることで物体を動かし、時間を超えることができる……」。まさに彼女たちが信じていた教えそのものだった。

映像が再生されている間、ふと周囲を見回すと、息子の姿が見当たらないことに気がついた。「あれ?」と思った瞬間だった。

「帰れ帰れ帰れ帰れ帰れ」

少年の声がすぐそばから聞こえた。振り返ると、部屋の隅に見知らぬ少年が体育座りをしており、じっとこちらを見つめながら「帰れ帰れ帰れ」と機械的に繰り返していた。

突然の恐怖に駆られ、私はその場を飛び出した。隣の自分の部屋に戻ることすら恐ろしく、マンションを飛び出して近くのファミレスに逃げ込んだ。そして友人を呼び出し、夜に友人と一緒にマンションへ戻った。

マンションの入り口で管理人に会い、事情を話すと、管理人は驚いた様子で「隣の息子さんなら、すでに遺品整理を終えて帰ったよ」と言った。そして、「そんなに親しいわけではないと思っていたが」と、私については何も息子に伝えていないと言う。

それ以降、特に奇妙なことは起きていない。ただ、隣の部屋はまだ空いたままだ。夜に玄関を開けるたび、どこかから聞こえるはずのないオルゴールの音や、ベランダで空を見上げる娘の姿が頭をよぎる。

そして、またあの段ボールが空中を移動している場面に遭遇するのではないかという不安が拭えず、私は外出を避けがちになってしまった。

(了)

[出典:536:2011/12/23(金) 13:06:13.55 ID:A6pULbQ/0]

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