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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

光の役目 ncw+201-0120

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今でも、あの夕方の空の色をはっきり思い出せる。

雲の切れ間から漏れた光が濡れた地面に反射し、町全体がぼんやりと金色に染まっていた。夏でもないのに空気はぬるく、草の匂いに混じって、線香に似た焦げた匂いが漂っていた。

神社の鳥居の前で、それを見た。
拳ほどの光の玉だった。白とも青とも黄ともつかない色で、見つめようとすると色だけが逃げる。地面から少し浮き、風もないのにゆらゆら揺れていた。

息を吸い込んだ瞬間、喉の奥が熱くなった。怖いというより、呼ばれている感覚に近かった。家まで走り、台所にいた母の腕を引いた。
「光がある。ほんとだよ、早く」
母は半信半疑のままついてきた。

鳥居の前に戻ると、光はまだそこにあった。
母は私の肩越しに覗き込み、立ち止まった。
「……何、これ」
指先を伸ばしかけたとき、光がふわりと母のほうへ近づいた。
その瞬間、母は息を呑み、私の腕を強くつかんだ。
「帰ろう」
理由は言わなかった。ただ、痛いほどの力だった。

夕飯の席で話すと、兄が笑った。
「嘘だろ。そんなのあるわけない」
私は母を見た。
「お母さんも見たよね」
母は箸を止めたまま黙っていた。
兄がからかい続けると、母は突然怒鳴った。
「いいから早く食べなさい」

それきり、その話は家の中で出なくなった。

しばらくして伯母が訪ねてきた。母より少し年上で、香水ではなく、いつも線香のような匂いをまとっていた人だ。
伯母は私の首に小さな布のお守りをかけた。
「病気や事故に遭わないようにね」
中に何が入っているのか聞いても、教えてくれなかった。
「なくさないようにね」と言うときだけ、目尻が少し湿っていた。

私は風呂とプール以外のときは、ずっとそれをつけていた。

それから、光の玉を見ることはほとんどなくなった。
たまに視界の端を横切ることはあったが、目をこすれば消えた。
ただ、消えるたびに、お守りの中で何かが動いたような気がした。

ある日、帰宅すると伯母がまた来ていた。
「お守り、どうしたの?」
首に手をやると、紐ごとなくなっていた。
「……どこかに落としたのかな。学校かも」
外に出ようとすると、伯母が私の肩を押さえた。
「いいの。もういいよ」
「またくれるの?」
「ううん。もういい」

母はその間、何も言わず、鍋をかき混ぜ続けていた。

その夜、寝る直前に部屋の隅が白く光った。
音はないのに、耳の奥で高い“しん”という音が鳴った。
目を開けると、光の玉がそこにいた。前より小さく、白さが濃い。
怖さより、なぜか懐かしさが先に来た。

翌朝、布団の上に小さな焦げ跡が残っていた。
匂いは甘く、線香に似ているが柔らかく、胸の奥に残った。
母に見つかる前に、私はシーツを裏返した。

その頃から、同じ夢を見るようになった。
夢の中で、私はいつも神社の前に立っている。空はあの夕方の色だ。
鳥居の向こうから光が浮かび出て、顔の高さで止まる。
中に、何かがあるように見えることもあった。

ある晩、夢の中で母の声がした。
「近づいちゃだめ」
振り向くと、母は鳥居の外に立っていた。口は動いていなかった。

目覚めたとき、胸のあたりが温かかった。
手を入れると、そこにあるはずのない布の感触があった。
焦げたお守りだった。紐は切れていた。

次の日、伯母が亡くなったと聞いた。
眠るように息を引き取ったらしい。
母は長い間、椅子に座ったまま動かなかった。

葬儀の日、伯母の枕元で線香の煙が私のほうへまっすぐ伸びてきた。
胸の奥が、かすかに震えた。

それから何年も、光を見ることはなかった。
高校を卒業して家を出る前の夜、母が言った。
「お守り、まだ持ってる?」
私はうなずいた。
母は少し黙り、それから小さく笑った。
「……そう」

その笑い方が、伯母によく似ていた。
ふと見ると、母の首元から薄い布紐が覗いていた。
焦げ跡のある、小さな布だった。

その夜、久しぶりに夢を見た。
鳥居の向こうで、光が揺れていた。
近づいてくる気配だけがあり、姿ははっきりしない。
目を閉じると、遠くで線香の匂いがした。

——ただいま。

そう聞こえた気がしたが、それが誰の声だったのかは分からない。

[出典:760 :本当にあった怖い名無し:2008/02/29(金) 23:56:45 ID:fccql5f90]

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