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中編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2026

未処理 nc+

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いつもと同じ時間に、同じバス停に立っていた。

街路樹の影が歩道に滲み、濡れたアスファルトの匂いが夜気に混じる。六時四十五分。仕事終わりの身体は、時刻だけを頼りに動いている。

頭上の標識には二つの行き先が並んでいた。
A路線 東雲団地行き。
B路線 西海埠頭行き。
私は迷わない。毎日A路線だ。

バスは定刻どおり滑り込んできた。青みがかった車体。ドアの空気音。見慣れた光景。
乗車券を発券機に当てる。「ピッ」。
その音を聞いたところまでは、覚えている。

後部座席に腰を下ろし、目を閉じた。
揺れは規則正しく、思考はすぐに散った。

次に意識が浮上したのは、肩が窓枠に触れた瞬間だった。
車内の空気が重い。暖房のせいではない。息が、まとわりつく。

アナウンスが流れた。

聞き慣れない声だった。
機械音声ではない。人の声だ。

「……次は、三ノ瀬墓苑前」

その言葉で、完全に目が覚めた。
そんな停留所は知らない。

車内には誰もいない。
座席も手すりも、見覚えのある配置のままだ。
だが、窓の外は違った。建物が低く、光がない。街灯が点滅し、黒い塊が連なっている。

携帯電話を見る。七時五十六分。

私は、そんなに寝ていない。

バスは停車し、ドアが開いた。
降りるつもりはなかったはずなのに、身体は立ち上がっていた。
足元は、土だった。湿った匂いが立ち上る。

バス停の標識には、確かにこう書かれていた。
三ノ瀬墓苑前。
B路線。

バスはすぐに走り去った。
振り返ると、道路は暗く、どちらの方向にも人影はない。

ポケットに手を入れたとき、指に紙の感触が触れた。
取り出すと、乗車券が二枚あった。

一枚は、いつものA路線。処理済み。
もう一枚は、B路線。処理されていない。

その瞬間、バスの窓に映っていた自分の顔を思い出した。
眠っていたはずの顔。
だが、あの表情には、疲労とは別のものがあった。

安堵していた。
目的地に着いた人間の顔だった。

私は、帰宅に安堵しない。

遠くで、別のエンジン音が近づいてくる。
低く、湿った音。

手の中の未処理の乗車券が、冷たかった。

私は、誰がこのバスを降りたのかを考えないようにした。
考えなくても、ポケットの中に残されたものが、それを示している。

土の上に立ったまま、私は待っている。
次に来るバスが、どの路線なのかを。

[出典:688 :本当にあった怖い名無し:2018/10/13(土) 22:34:17.63 ID:/0DfR1Db0.net]

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