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祈りの届かない場所 rw+7,487

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今から五年前、高校生だったころの話だ。

俺の家は教会で、親父は牧師をしている。ただし俺自身は、当時は信仰にそれほど重きを置いていなかった。家が教会というだけで、神や悪魔を現実のものとして考えたことはなかった。

夏休みはほとんど家にこもり、ゲームばかりしていた。外に出ない日が一週間続いたこともある。そんなある日、友達に誘われて近所の神社の縁日に行くことになった。教会の家で育った身としては、本来あまり好ましくない。だが親父は「良くないことだと分かっていればいい」とだけ言って許した。

縁日は賑やかだった。屋台で焼きそばを食べ、公園でだらだら話し、浴衣姿の女の子もいて、浮かれた空気があった。その場には六人ほどいて、親友の貞二と、その兄の真一もいた。大学生の真一が、酒も入っていないのに妙に饒舌で、「肝試し行こうぜ」と言い出した。

向かう先は、市内の外れ、山を一つ越えたあたりだった。人家はほとんどなく、母が昔から「気持ち悪い」と言っていた場所だ。具体的な怪談は聞いたことがない。ただ、行きたい理由を真一に聞くと、祖父から聞いた話だと言った。

「たらちね山の中に、廃屋があるらしい。一昨日やっと見つけた」

車を降りたのは、舗装もされていない山道だった。人二人がやっと並べるほどの細道の脇に、不自然に開けた空間があり、藪をかき分けると石段が現れた。夜目には、そこだけ地面が落ち込んで見えた。

懐中電灯を頼りに階段を上る。思った以上に時間がかかり、三十分ほどで、林が切れた小さな空き地に出た。そこに、ほとんど崩れかけた日本家屋が残っていた。

建物そのものより、空気が妙だった。湿っているわけでもないのに、透明な何かがまとわりつくような感覚があった。砂糖を水に溶かしたとき、見えないはずなのに確かにそこにあると分かる、あの感じに近い。

女友達が小さく悲鳴を上げた。廃屋正面の石垣に、腐った表札が残っていた。名前は読めないが、住所だけは判別できた。

市名の下に、地名として一文字だけ「呪」と彫られていた。

真一は気まずそうに、祖父から聞いたという話を続けた。昔、その一帯には独自の宗教を信仰する一族が住んでいて、占いや祓いを生業にしていたこと。昭和の初めごろから人が死に、最後には誰もいなくなったこと。道路整備で多くは消えたが、一部は山中に残ったままだということ。

帰ろうと言ったのは俺だった。だが真一と貞二は、裏に回るだけだと聞かなかった。

裏手には、小さな濁った沼があった。水面は静かで、風もないのに、低いうめき声のようなものが耳にまとわりついた。音というより、意味のない圧迫感だった。

そこから先は覚えていない。ただ、全員が一斉に引き返し、山を下り、車に乗った。帰り道も、耳の奥で何かが擦れるような感覚が続いていた。

家に着くと、親父が玄関先で俺を呼び止めた。

「縁日、行ったんだろ」

頷くと、親父は俺の顔をじっと見て言った。

「じゃあ、それはどこで拾ってきた」

何のことか分からず黙っていると、「変な場所に行ったな」と断言された。廃屋の話をすると、親父はしばらく考え込み、こう聞いた。

「声が聞こえるか。見えるか。痛むところはあるか」

「声だけだ」

親父は少しだけ安堵したように見えた。そして教会へ連れて行き、俺の頭に手を置いて祈り始めた。途中、意味の分からない言葉を低く唱えた。異言だと後で知った。

祈りが終わると、耳の奥の違和感は確かに薄れた。ただ、消えたというより、遠くへ押しやられた感じだった。

翌日、廃屋に行った全員が教会に集められた。親父は険しい顔で言った。

「悪霊がいる。怖がるな。だが、俺の言う通りにしろ」

祈りが終わったあと、全員が何事もなかったように帰された。ただ一人、裕美だけはしばらく居間に残され、俺は外に出された。

その後、真一が祖父に聞いた話では、あの地名は昔「呪い」と呼ばれていた場所だという。それ以上のことは分からなかった。

親父は最後に、俺にこう言った。

「悪魔がやる一番の仕事は、いないと思わせることだ。でもな、いると分かっても安心していいわけじゃない」

あれから五年経つ。

今でも、ときどき夜中に、あの沼の手前で足を止めている夢を見る。
声は聞こえない。
ただ、呼ばれていないのに、そこに立っている感覚だけが残る。

――俺が本当に連れ帰ったのは、あの声だけだったのか、今でも分からない。

[出典:150 本当にあった怖い名無し 2007/05/25(金) 05:05:27 ID:YqmY+fAJ0]

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