短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

犬畜生【ゆっくり朗読】3400

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去年の話。似た住所の同姓の人の郵便物がたまに誤配送される。

いつも黙ってポストに投函し直していたが、ある日、誤配送された封書を自分宛と思い込み開封してしまった。

中身は結婚式の招待状だった。

が、案内状は真っ二つに破られていた。

そして、メモ帳に

「犬畜生 お母さんに謝れ」

と書かれたものが入っていた。

宛先も送り主も同じ苗字の女性。

手紙の方を読んだら、もう少し事情を知れたかもしれないが、

怨念のこもった犬畜生の文字が恐ろしく、そのまま郵便局に届け出た。

その夜、眠っていると物凄い雨音で目が覚めた。

と言うか、雨に打たれていた。

気が付くと私は真っ暗な中で雨に打たれながら

「〇子ー!〇子ー!」

と知らない名を怪鳥のような声で叫んでいた。

すると遠くから、別の女の声で

「オカァサーン!オカァサーン!」

と叫ぶ声が聞こえて来た。

そして二人の声が一気に呼応して次の瞬間、破裂した。

グワァァァァァン!と凄まじい余韻。

気が付くと目の前に仏壇があり、リンが共鳴している。

でもうちに仏壇はない。

今度こそ目が覚めた。

真っ暗な部屋。右隣に主人が寝ている。

良かった……

なのに左隣にもいる。

左の耳もとに中年女の声

「くやしい……お母さんがどれだけ苦労したか……」

今度こそ気絶した。

朝になっても部屋の中が薄暗く感じられて恐ろしかったが、三日くらいで嫌な空気は消えた。

なんとなくだけど、しがらみ背負った結婚式だったんだろうなと思う。

ちなみに、誤配送の相手の家とは今でも面識はない。

(了)

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