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縄跳びの少年 r+3,805

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数年前、郊外の一戸建てに住んでいた時のことだ。

あの家に暮らしていた頃の私は、毎日の生活をただ機械的に繰り返していたはずなのに、今でも脳裏に焼き付いて離れない出来事がある。夢だったのか、それとも現実だったのか、いまだにはっきりと区別がつかない。けれども思い返すたび、背筋が粟立つような寒気に襲われる。

ある晩、私は奇妙な夢を見た。舞台は住んでいた住宅街。私の家の近くには小さな公園があり、その横には短いけれどとても急な坂があった。日常の中では特別な場所ではないはずだったが、夢の中の私は、その坂を自転車で立ち漕ぎしながら必死に上っていた。前かごには通っていたそろばん塾の鞄。小学生の頃の記憶と混ざったような光景だった。

そのとき、後ろから小さな歌声が聴こえてきた。
「黄色い傘が……」
はっきりとは思い出せないが、そんな歌詞だった気がする。甲高い幼い男の子の声。妙に抑揚がなく、空気の底を這うように響いていた。

夢の中の私は、その坂にまつわる怪談を思い出した。現実にはそんな話は存在しないはずなのに、私は確信していた。
――その坂を赤い服を着て通ると、後ろから歌声が聞こえてくる。その時、振り返ってしまうと一生追いかけられる。
ありもしないはずの怪談。けれど私は震える手で自分の服を確かめた。赤いトレーナーだった。くまのイラストが散りばめられた、お気に入りの一着。

恐怖に駆られて必死にペダルを踏み、残りの坂を一気に駆け上がる。家に向かって右へ曲がるはずだったが、どうしても好奇心に抗えず、左肩越しに後ろを振り返ってしまった。しかも二度も。自転車に乗ったままではうまく見えなかったからだ。

そこにいたのは、白いTシャツに黒い短パンの男の子。顔は影に隠れて見えなかったが、手に持っていたのは縄跳びだった。彼は無表情のまま、縄を跳びながら私のすぐ後ろを追っていた。からん……からん……と乾いた縄の音が夜の坂に響いていた。

恐怖に駆られ、私はさらにスピードを上げた。三度目に振り返ったとき、確かにその姿があった。息が荒く、全身が粟立つ。やっと家に辿り着き、ガレージに自転車を突っ込み、鞄も投げ捨てて車の陰に潜り込もうとした、その瞬間で目が覚めた。

心臓は破裂しそうなほど高鳴っていた。夢にしてはあまりに生々しく、起きてからもしばらく動悸がおさまらなかった。

だが、悪夢で終わってくれていればよかったのだ。数日後、私は再び夢を見た。今度の舞台は自分の家の中だった。家族全員が寝室として使っている八畳の和室。その隣の部屋を通りかかったとき、誰もいないはずの和室から、ぼそぼそと声が聞こえた。低く、湿った声。気配に導かれるように、半開きの引き戸を開けて中を覗いた。

誰もいない。静まり返った畳の匂いだけが漂っていた。
おかしいなと戸を閉めようとしたとき、視界の端に異様な影が映った。サッシと障子の間。通常なら人ひとり入れない狭い隙間に、何かがいた。障子越しに小さな指が押し当てられ、透けて見えていたのだ。ぞわりと背筋を走る寒気。その瞬間、障子が音もなく開き、間から幼い男の子がするりと出てきた。

目の大きな男の子。息を整える間もなく、彼は口を開いた。
「僕は狼少年だ」
その声は妙に澄んでいて、耳の奥に突き刺さる。言葉と同時に、彼は私に飛びかかるような勢いで走り出した。恐怖に支配され、私は必死で逃げた。廊下を駆け抜け、階段を滑り落ちそうになりながら駆け下りる。心臓の鼓動が耳の奥で爆ぜたところで、目が覚めた。

またもや心臓が狂ったように打ち続けていた。汗で全身が濡れていた。夢が夢でしかないなら、なぜここまで身体に影響を与えるのか。

さらに数日後、私は三度目の夢を見た。今度は自分の部屋。だが不思議なことに、その場面を私は第三者の視点――まるでカメラ越しの映像のように眺めていた。部屋の中に立つのは、例の男の子だった。縄跳びは持っていなかったが、無表情でじっと部屋の隅に立っていた。その姿を映像のように見つめているうちに、ふっと夢は途切れた。

起きてからも腑に落ちなかった。気味の悪さを拭えず、母に今までの夢のことを話した。坂でのこと、和室でのこと、そして自室に現れたこと。母は黙って聞いていたが、最後にぽつりと口を開いた。
「その男の子ってさ、結局……あんたの部屋まで追いかけてきたんだよね」

その瞬間、血の気が引いた。頭の奥で再びあの言葉が蘇った。
――その坂を赤い服を着て通ると、後ろから歌声が聞こえてくる。その時振り返ってしまうと、一生追いかけられる。

母の言葉で確信した。あれはただの夢ではなかったのだ。私が振り返ってしまった瞬間から、すでに現実は侵されていた。
それからの夜、あの家で眠るたび、耳の奥にあの縄の音が響く気がしてならなかった。

私はいまも、ときどき夢の中で彼を見かける。声変わりもせず、背丈も変わらぬまま、あの日のままの姿で。

――まだ追いかけられているのかもしれない。

(了)

[出典:4 名前:あなたのうしろに名無しさんが…… 投稿日:2001/03/01(木) 23:21]

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