ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 r+ 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

定刻通りに来ない駅 rw+2,732-0109

更新日:

Sponsord Link

京急大師線に乗っていた日のことだ。

あれが現実だったのか、それとも眠気に引きずられて見た夢だったのか、今でも自分では判断がつかない。判断できないまま、あの時間だけが記憶の底に沈まず残っている。

午前中の、まだ頭が完全に起ききらない時間帯だった。京急川崎から川崎大師まで、ほんの短い区間だ。座席が空いていたので腰を下ろした瞬間、身体が揺れに身を任せる形になり、気づけば意識が途切れていた。

目を覚ましたとき、車内には誰もいなかった。扉が開き、無人のホームが見えた。終点の小島新田だった。

大師線は終点に着けばすぐ折り返す。だから降りる必要はないと思ったが、車掌がこちらを見て「回送になりますので降りてください」と淡々と言った。その声に逆らう理由もなく、私はホームに降りた。

ベンチに腰を下ろし、スマホを取り出して時間を潰した。だが、いくら待っても次の電車が来ない。十数分おきに来るはずの列車が、三十分近く経っても姿を見せなかった。掲示板には定刻の表示が出ている。遅延や運休の表示はない。

ホームには、自分以外の人影がなかった。

胸の奥がじわりと冷えた。気味が悪くなり、駅員に訊ねようと事務室へ向かった。だが扉の向こうには誰もいない。机も椅子もある。書類も開いたまま置かれている。それなのに、人の気配だけが抜け落ちていた。紙の端が、どこからか入り込む風でわずかに揺れているのが見えた。

事故でもあったのか、そう考えても、この静けさは説明できなかった。待ち続けるのが怖くなり、歩いて川崎大師まで行くことにした。距離は知れている。

駅前はもともと賑やかな場所ではないが、その日は異様だった。人の気配が、完全に消えている。産業道路に出たとき、その違和感は決定的になった。

車が一台も走っていない。

信号は正常に動いている。赤から青へ、青から赤へ、規則正しく切り替わる。だが、渡るべき車が存在しない。普段ならトラックや乗用車が途切れなく流れる道路が、干上がった川底のように空っぽだった。

背中に、ぞわりとした寒気が走った。

三十分ほど歩いた間、すれ違った人は一人もいなかった。道沿いの商店も、シャッターは開いているのに中は無人だ。商品は整然と並び、値札も貼られている。それなのに、そこに立つべき人間だけが、最初から存在しなかったかのようだった。

東門前駅、産業道路駅も通り過ぎた。改札は開いている。ホームも見える。だが、客も駅員もいない。

世界は壊れていない。壊れているのは中身だけだ。電線に吊るされた旗は風に揺れ、看板の文字も、道路標識も、いつも通りそこにある。表面だけが、日常を装っていた。

唯一の救いは、スマホが普通に動いていたことだ。試しに友人へラインを送ると、数秒で返事が返ってきた。冗談めいたスタンプまで届いた。その軽さが、かえって現実感を削った。この街に誰もいないのは、自分の側だけの問題なのかもしれない。そう思えてしまった。

心細さは増す一方だった。このまま家に帰ったらどうなるのか。玄関を開けても、誰もいないのではないか。そんな想像が頭から離れず、気づけば足は川崎大師へ向いていた。

参道に入っても、状況は変わらない。飴を叩く音が響くはずの老舗も無人だった。のれんは揺れているのに、中に人はいない。自分の足音だけが、やけに大きく響いた。

本堂に辿り着いたとき、呼吸が浅くなっているのが分かった。額に汗が滲み、喉が乾いていた。理由は分からない。ただ、ここで立ち止まらなければいけない気がした。

両手を合わせ、目を閉じた。

祈った内容は覚えていない。助けてほしいとも、帰りたいとも、はっきり言葉にした記憶がない。ただ、自分の心臓の音だけが、耳の内側で異様に大きく鳴っていた。

どれくらいそうしていたのか分からない。目を開け、振り返った。

そこには、人がいた。

ほんの数秒前まで空っぽだった境内に、参拝客が溢れていた。子どもの声、線香の煙、土産物を選ぶ人のざわめき。焼き団子の甘い匂いまで、はっきりと漂ってくる。

頭が追いつかなかった。足元の石畳が、急に重さを取り戻したように感じられ、身体がふらついた。

そこから先は、何事もなかったかのように日常が流れた。産業道路には車が走り、人々は普通に生活していた。誰に話しても、首を傾げるだけだった。

家に帰ってからも考えた。夢だったのか。幻覚だったのか。あるいは、知らない層に迷い込んで、偶然抜け出しただけなのか。

今でも分からない。

ただ一つ、引っかかっていることがある。あの日以降、京急大師線の時刻表を見ると、理由もなく不安になる。定刻通りに電車が来ても、どこか信用できない。小島新田で降りる夢を、何度も見る。

人の消えた街の静けさは、今も耳の奥に残っている。戻れた理由が分からないままだからこそ、あの場所は、完全には終わっていない気がしている。

[出典:36 :本当にあった怖い名無し:2019/09/07(土) 09:12:50.64 ID:+yoypliG0.net]

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2026 All Rights Reserved.