私は二十三歳で、海女歴二年のあまちゃんです。
泳ぐのが好き、結構儲かる、という理由でこの仕事をしてますが、不思議な体験をした事があります。
海女になりたての頃、付いてた人に「絶対行ってはいけない」と言われてる場所がありました。
その場所は離れ小島のような所で、岸から距離にして300m位だと思います。
他の海女も絶対そこの小島には行きません。
私は勝手な思い込みで、そこの小島に行く途中で結構潮の流れの速い所があり、海女って結構年寄りが多いので、危ないから行ってはいけない、と言う事だと思ってました。
仕事は潮の満ち引きにもよりますが、ほとんど午前中で終わります。
しかしこの日は、体調もよくまだまだ潜れそうだったので、午後も一人で潜ってました。
そして波も穏やかだった為、ふとあの小島にいってみようかなーと思いました。
潮が速いと思い込んでいたのですが、そんな事もなく、あっさりその小島に到着しました。
なぁんだ楽勝じゃん、などと独り言をいいながら潜ってみると、普段人が来ない為か、もう大きなアワビ、サザエがゴロゴロしてます。
アワビなんて30センチ位、サザエもほとんど20センチ。
もう夢のような光景です。
なに~ここ宝島じゃん、などと思いながら捕りまくっていると、小島の海底のほうに、ぐるりと綱が巻いてありました。
ちょっと気味が悪くなり小島に上がると、小島の側面には数体のお地蔵様が彫ってありました。
なぁに~ここ、なんかヤバイとこぉ?、なんて思ってると、声がしました。
「……ちゃ…」
えっ?何っ?ちゃって……
その声はだんだんハッキリと聞こえて来ました。
「お……ぇちゃん」
「おねぇちゃん」
後ろを見ると、十歳位の男の子が立たっています。
えっ?何処から来たのと思いつつ、かなりビビッた顔してたと思います。
しかし何かが変だ……
話しかけようにも怖くて声が出ませんし、海に囲まれた小島なのに洋服着てるし、しかも濡れてないし……
ヤバイと思った時、男の子は言いました。
「おねぇちゃん何処から来たの?」
私は怖くて叫びたいんだけど、声が出ないで口をパクパクするだけ……
男の子はどんどん話を進めます。
「僕さぁーお家帰りたいんだけど、どう帰ればいいか分かんないし、足も痛いし、頭も痛い、お腹もすいたし喉も渇いたし……助けてよおねぇちゃん」
いままで普通の姿だった男の子が、しゃべった内容に変化していきます。
足が痛いと言うと足が血まみれに……
頭が痛いと言うと顔が血まみれに……
お腹がすいたと言うとガリガリに痩せて……
喉が渇いたと言うと老人のように変化しました……
……ヤバイ絶対ヤバイ!神様ーナンマイダーなどと唱えると、ブチッと音がして自由になりました。
転げるように海に入ると、普段とは違いどんどんどんどん海底に沈んで行きます。
と言うより、引き込まれる感じです。
何よこれーっ!
海って言うのは、黙ってても浮くんですよ、普段は。
実際、浮くよりは潜る方が大変なのに……
結局、海底まで引き込まれました。
すると、そこには小さな洞穴みたいなものがあり、そこに水中眼鏡をした骨の遺体がありました。
恐らくさっき見た少年だなと、直感で分かりました。
そして少し悲しい気持ちになったとたん、ふぅーと吸い込まれる力が弱まり、浮き始めました。
水面まで出ると冷静さを取り戻し、岸まで泳いで帰りました。
岸に着いてからは、あの小島で採ったアワビとサザエを買い取り業者に置いて、すぐ警察に遺体を発見した事を届け出ました。
そしてまた業者のところに戻ると人が集まってきて、
「凄いね~今日は大漁じゃん」などともてはやされました。
そして受け取った金額は、自分でもビックリするほどの額でした。
なんか嬉しいやら悲しいやら……複雑な気持ちで帰路につくきました。
そしてその夜、『あの小島に行ってはいけないよ』と教えてくれたおばさんが来ました。
あがってもらいお茶を出すと、おばさんはこう言いました。
「あんた、あの小島にいったんだって。まったく、あんなに行っちゃいけないって言ったのに、まぁ無事に帰ってきたからいいけどさ……ところで、遺体を発見したのは聞いたけど、他に何か見なかったかい?」
私は経験した事を全て話しました。
すると、「やっぱりかい……」と言いました。
そして、おばさんが話してくれた話はこうです。
終戦後のある夏、男の子三人が海水浴をしていました。
波が高かったせいか男の子達は流されて、あの小島に辿り着いたのです。
しかし、波が高いせいで、なかなか救助の船を出せません。
そして、小島を飲み込む程の波が来て、男の子三人はまた海に……
それを見かねた一人の漁師が船を出しました。
漁師は男の子を一人助け二人助け、三人目を助けようとした時、船が小島に激突して沈没。
男の子三人と漁師は次の日、遺体で発見されたそうです。
海底に巻いてある綱と小島の側面のお地蔵様は、その時のものらしいです。
そしておばさんも昔、その小島の上で遊んでる男の子を見たことがあるそうです。
次の日、警察は捜索したけども、遺体は発見できなかったそうです。
その年のお盆の波の静かな日。
少し怖かったけど、おばさんと二人で船を出し、その小島に線香とお供え物をあげに行きました。
帰りの船でふと、
「ありがとう。おねぇちゃん」
と言う声が聞こえたような、気がしました。
(了)