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【心霊チョッといい話】最期の手紙 r+3413

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友人から聞いた不思議な話をしよう。

彼が中学二年生だった頃、盲腸で入院した時の体験だという。

ある定期テスト前の早朝、突然の腹痛に襲われ、そのまま救急車で運ばれた。即日入院となり、翌日の手術を待つ身となった。六人部屋の病室はがらんとしており、彼と隣のベッドの患者だけ。病院特有の薬品の匂いが漂う静かな部屋だった。

夕方、母親が見舞いに来た。しばらく話していると、ひとりの老婦人が隣のベッドにやってきた。穏やかで上品な雰囲気を漂わせた人で、隣の患者のお見舞いだと言う。母親が挨拶すると、彼女もにこやかに返した。「若いから、すぐ元気になるわね」と優しい声で言い残し、カーテンの向こうに消えていった。

面会時間が終わり、母も帰宅した後、彼は病室でひとりぼんやりと考え事をしていた。翌日の手術が気になり、なかなか眠れない。すると、隣のベッドのカーテン越しに、声が聞こえてきた。

「久しぶりに隣が賑やかで嬉しいよ。ここ何ヶ月もひとりだったからね。どうして入院したんだい?」

男性の声だった。さきほどの老婦人の夫だろうか。優しい響きに安心し、彼は自然と声を返した。「盲腸なんです」と告げると、学校のことやテストの話まで、思わず話が弾んだ。心細さが薄らいでいくのを感じながら、彼も質問を返した。「おじいさんは、どうして入院しているんですか?」

「もういろいろと悪くてね」と、老人は静かに答えた。声に疲れがにじむ。だが、「話ができて嬉しいよ」と何度も言ってくれた。励まそうと「きっと退院できますよ」と伝えると、老人は笑いながら「ありがとう」と感謝を口にした。そのやりとりは、彼の不安を和らげるものだった。

翌日、彼は手術を受けた。目を覚ますと夕方になっており、ベッドのそばには両親がいた。順調に回復し、数日で退院できるとのこと。しかし、気がつくと隣のベッドは空になっていた。どこかに移動したのだろうと、退院のときに挨拶しようと思っていた。

退院の日、荷物をまとめていると、あの老婦人が涙ぐみながら病室に現れた。「遅くなってごめんなさいね」と言い、彼に一通の手紙を差し出した。手紙には、こう書かれていた。

「最後の夜、一人じゃなくて良かった。ありがとう。どうか元気に育ってください」

老婦人の話によると、隣の老人は彼が手術をしていた日の朝、容態が急変して亡くなったという。話を聞きながら、彼は震えた。声が出なかった。

「でも、あの夜はおじいさんと話しました。安心できました」と伝えると、老婦人は困惑した表情を浮かべた。老人は喉の腫瘍の手術で声帯を損傷し、声を発することができなかったのだという。

静かな病院の廊下に、老婦人の嗚咽が微かに響く。彼はその場に立ち尽くし、あの優しい声と交わした言葉を思い出していた。

──それは確かに、こころの底に残るような温もりのある会話だった。だが、あの声は一体何だったのだろうか。

(了)

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