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短編 r+ 集落・田舎の怖い話

被猿 rw+5,607-0103

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これは、四国の片田舎で生まれ育ったある男性から聞いた話だ。

彼の育った町には、今では信じられないような価値観と沈黙の掟が残っていた。町は小さく、家系と血縁が重なり合い、誰がどこの家の人間かを皆が把握している。そこで「普通であること」は、努力目標ではなく前提条件だった。

生まれつき身体に障がいのある子や、双子のように数が合わない子は、表立っては何も言われない。ただ、町の空気が変わる。会話が途切れ、視線が逸れ、用事が後回しにされる。年配の者たちは、そういう子どもを小声で別の呼び方に置き換えた。名前ではなく、性質で呼ぶための言葉だ。彼は幼かったが、その言葉が使われる家の前では、誰も長居をしないことに気づいていた。

町が狭い分、噂は早く、そして深く沈む。ある家に「普通でない子」が生まれたという話は、数日で全域に行き渡り、その家族は少しずつ町の中心から外れていく。誰かが追い出すわけではない。ただ、声をかけられなくなる。席が空かなくなる。それだけだ。

そんな町で、妊婦たちが密かに頼っていたものがあった。《被猿》と呼ばれる、小さな木彫りの猿だ。

猿は粗末な作りで、量産されたものではない。誰が彫ったのかは分からず、家から家へと渡されることもなかった。妊婦の部屋や産院の片隅に置かれ、何も語られず、ただそこにいる。触れてはいけないとも、拝めとも言われない。ただ、置く。それだけが決まりだった。

役目を終えた被猿は、必ず町のどこかに埋められる。燃やしてはいけない。包んでしまい込んでもいけない。理由を詳しく聞かされることはない。ただ、そうしなければならないということだけが、奇妙な確信として共有されていた。

埋める場所は決まっていない。同じ場所に集めることも禁じられていた。庭先、畑の隅、空き地、道端。町の土の下には、どこにでも被猿があるかもしれない。彼は祖母からその話を聞かされて以来、地面を踏むこと自体に、言いようのない気味悪さを覚えるようになった。

ある夜、幼い彼は祖母に尋ねたことがある。
「埋めたら、それで終わりなの」

祖母はすぐには答えなかった。しばらく囲炉裏の火を見つめてから、こう言った。
「見つけたらね、埋め直しちゃいけないよ」

理由は教えてくれなかった。それ以上聞いても、祖母は黙っていた。

それから数年後、彼の友人のAが、家の庭に花壇を作ろうとして土を掘り返した。スコップが硬いものに当たり、土の中から木彫りの猿が現れた。顔はひび割れ、目の窪みには土が詰まり、長い間そこにあったことだけははっきりしていた。

Aは猿を手に取らなかった。ただ見つめて、しばらく動けなかったという。理由は分からない。ただ、触れてはいけないものを見てしまったという感覚だけがあった。

その夜、Aは夢を見た。庭に立っている。足元の土が盛り上がり、次々と猿の頭が覗く。どれも同じ顔で、同じ方向を向いている。目が合った瞬間、身体が動かなくなった。

目覚めても、視線の感覚が消えなかった。Aは猿を元の場所に戻し、今度は深く土をかけた。何もなかったことにしようとした。

それから、Aの様子は変わった。背後に気配を感じる。名前を呼ばれた気がして振り返る。誰もいない。ただ、見られているという感覚だけが残る。外に出るのを嫌がり、庭に近づかなくなった。

ある晩、近所の者がAの家の前を通りかかったとき、庭に猿が座っているのを見た。掘り返された跡はなかった。ただ、土の上に、最初からそこにいたかのように。

彼がその話を祖母に伝えると、祖母は何も言わなかった。ただ、小さく頷いただけだった。

翌朝、Aの庭には何もなかったという。ただ、土だけが、少し柔らかくなっていた。

[出典:389 :本当にあった怖い名無し:2011/06/06(月) 11:13:19.38 ID:r56vx3RrO]

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