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短編 r+ 洒落にならない怖い話

ピンクの小さなボール r+4160

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これは、知人の由美子さん(仮名)から聞いた話だ。

夏休みのこと、友人に誘われ、彼女は生まれて初めて「お見合いパーティー」なるものに参加したらしい。会場には年配の参加者も多く、裕福そうな人もいない。それは世間一般でいうパーティーのイメージとはほど遠く、彼女と友人は、いささか拍子抜けした気持ちで早々に引き上げたそうだ。

しかし、3日後の日曜日に奇妙な出来事が起こった。友人との買い物の予定が急にキャンセルになり、家でひとりのんびりしていた時だった。朝ごはんの食器を洗っていると、背後で「ガチャ」とドアノブが回る音がしたのだ。心臓が一瞬止まるかのような恐怖に襲われたが、気を取り直し、台所にあったおたまを握りしめて玄関へとそろりと向かった。

ドアの向こうには、黒い服を着た痩せこけた女が立っていた。チェーンがかかっているにもかかわらず、その隙間から女がこちらをじっと覗き込んでいる。驚きのあまり体が固まってしまった。震える声で「何をしているんですか?」と問うと、女は目を大きく開き、上目遣いで答えた。

「あの、中にボールが入っちゃったんですけど…」

指さした方向には、確かに蛍光ピンクの小さなボールが転がっている。それは今まで見たこともない、異質な色合いのボールだった。「どうしてボールが…?鍵はちゃんとかけていたはず…」と呟くように言うと、女は「あの、パーティーで…」とだけつぶやいた。さらに「ちょっとでいいからチェーン外してくれませんか?」と懇願してくる。

だが、その要求に応える気はなかった。「いいえ、できません」と断ると、突然、女は冷たい目で言い放った。

「今日、出かけるはずじゃなかったの?」

背筋が凍りつく一言だった。混乱しながら「警察呼びますよ」と言いかけた瞬間、女は「死ねばいいのに」と低く呟き、ドアを閉めた。

すぐさま飛びつき、外鍵をかけたが、その後、警察が来ても大した対応はされなかった。あっさりと「怖かったら防犯対策でもしたら?」という冷たい一言で終わってしまった。

だがその後、電話機を調べた際に小さな盗聴器が見つかったのだ。さらに、玄関の鍵も簡単に外されていた痕跡があり、恐怖はさらに増した。急遽、引っ越しを決め、部屋を後にした。

引っ越しから2週間後、前のアパートの管理人から電話があった。話によれば、あの女が何度も管理人室を訪れ、「前に住んでいた女性の住所を教えてほしい」としつこく尋ねてくるというのだ。最初は「家族だ」と言い張っていたが、次第にしびれを切らしたようで、ついには「殺す」と小声で呟いていたらしい。

以来、彼女は家族と共に暮らすようにした。しかし、あの女が再び現れるのではないかという不安が、未だに消えないという。


後日談

その後、由美子さんが引っ越してから数ヶ月が過ぎたある日、友人とSNSで何気なくやり取りをしていると、以前住んでいたアパート近辺で起こった不可解な事件についての話題が流れてきた。

それは、由美子さんが引っ越した直後に、彼女の旧アパートの近隣で黒い服を着た痩せこけた女性がたびたび目撃されていたというものだった。無言で立ち尽くしているだけならまだしも、住人たちが「家の中の配置が変わっている」「誰かが入った形跡がある」といった報告を続々と警察に届け出ていたらしい。

由美子さんも薄々感じていたことだが、あの女が自分にだけ執着していたわけではないのかもしれない。彼女が去った後も誰かに付きまとうかのように徘徊し、ある部屋では住人の知らぬ間に置かれていた家具が微妙に動かされていたり、窓際に置かれた小物が並び替えられていたりしたらしい。

さらに、旧居のアパートの管理人がある夜、不審に思って監視カメラを確認すると、午前3時過ぎの真っ暗な廊下に女の姿が映り込んでいた。その女は、どう見ても以前由美子さんが目撃した女性と似ており、カメラ越しにじっとレンズを覗き込み、まるで誰かに気づいてもらいたいかのように「ここにいる」とばかりに存在を誇示していた。

それから、彼女のいる家族宅にも、偶然かはわからないが見知らぬ番号からの無言電話がしばしばかかるようになったという。だが、それ以上の動きはなく、警察に届け出ても対応は鈍いままだった。

そんな中、由美子さんの胸に響いたのは、ネット掲示板で「座敷女」を思い出したというコメントだった。「座敷女」。知らないうちに入り込まれ、すぐ近くで見られている感覚。由美子さんは、あの蛍光ピンクのボールが、これまで築き上げてきた平穏の隙間に入り込んできた、得体の知れない闇の象徴だったのかもしれないと感じずにはいられなかった。

以来、夜になると、今の住まいの玄関チェーンを確認する癖がついた。しかし、いくらしっかりと鍵をかけていても、あの視線のような気配だけは消えないように感じるという。

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