短編 山にまつわる怖い話 定番・名作怖い話

【定番・名作】山に魅入られた少年【ゆっくり朗読】4747-0115

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小学校五年生くらいの頃の話なのですが、私が祖母の家に遊びに行った時の話です。

当時私は夏休みになると、祖母の家に何週間も泊まりに行くのが定例となっていて、地元の子供達とも、夏休み限定の友人として結構打ち解けていた。

その年も友達との再会に心躍らせ、例年通り朝から晩までそいつらと遊ぶ生活を送っていた。

主な遊び場は祖母の家の裏手にある山で、いつも走り回っていた。

その日も、私は友達と山に登り遊んでいた。

お昼になったので一旦家に戻り、午後はその山の中腹にある神社に集合する事になり、私も家に帰った。

私は昼食を物凄い勢いで流し込むと、午後の集合場所に急いだ。

神社にむかって山道を進む途中、小さな獣道のような道が目に付いた。

山の斜面に垂直に伸びる道は、一直線に神社の方へと伸びていて、近道になってるのかな、と思った私は、その道を通ってみることにした。

獣道を進んでいっても、一向に神社にでる気配がない。

いつもの道を進んでたとしても、とっくに神社に着くだけの距離は歩いているはずなのに。

不安になった私は、走るようにその道を抜けていったが、それでも道は一向に開ける様子がなく、私はもう半泣き状態だった。

しばらく歩くと、水の流れる音が聞こえた。

きっと、いつも水遊びをしている小川だ……

やっと知ってる場所に出られると思った私は、小走りに歩を進めた。

すぐに道が開けて小川に出たものの、知らない場所だった。

私は、この恐怖から開放されると信じていた希望を打ち砕かれ、そこで泣き出した。

しばらくメソメソと泣いていたが、ふと、川の向こう岸に女の人が立っているのに気付いた。

透き通るように肌が白く、とても綺麗な人だったのを覚えている。

その姿を確認したときには私は、その女の人に向かって走りだしていた。

しかし、その人はするすると奥のほうに歩いて行ってしまう。

いくら走っても追いつけない……

私は置いて行かれるのが嫌だという一心で、ひたすらその人の後を追いかけた。

そうしているうちにパッと道が開けて、小さな集落に出た。

その集落はもう人が住んでいないらしく、どの家も廃屋となっていて、酷いものになると、屋根が崩れ落ちているものさえあるようだった。

女の人はその集落の入り口に立って、私が追いついてくるのを待っていた。

私はその人にしがみつき、わんわんと泣き出した。

どうしておいていっちゃったの、と。

その女の人はニコーっと笑顔向けると、私を抱きしめた。

気が付くとあたりは暗くなっていた。

廃屋の内の一つの中にいるらしかった。

目の前には女の人の顔。

私は膝枕をされた状態で眠っていたようだった。

「僕寝ちゃってたの?」

にっこりと女の人が頷く。

この人に僕のママになってほしい、と思った。

女の人は、私の髪を何度も優しく撫でてくれた。

私はその女の人に体をあずけ、とても幸せな気分にひたっていた。

なんとなく自分は、ずっとこの人と一緒にいるんだと感じた。

しばらくして、その女の人の顔が少しずつ苦しそうになっているのに気付いた。

お腹痛いのかな、なんて思っていると、唐突に女の人の腕が落ちた。

びっくりして顔を上げると、女の人の顔はグチャグチャだった。

全身に蟲が湧いていた。

私は叫び声を張り上げつつ、全力疾走で廃屋を飛び出した。

後ろから追いかけてくる音とともに、「待って!!」と言う声が聞こえたような気がした。

どこをどう歩いたのかも覚えていない。気が付くと獣道を下っていた。

少し道を進むと、神社の裏手に出た。

もうすっかり夜だと思っていたのに、まだ夕方だった。

『立ち入り禁止』の札の下がったロープを跨いで神社に出ると、祖母の家に帰った。

泣きながら事情を説明すると、いきなり祖父にどなられた。

訳も分からずにいると、祖父は家の中の祖母に向かって、

「大変だ。坊さん(私のことです)がヤマっ様に魅入られたぞ!!」

大慌てで奥から祖母が飛び出てきた。

その後、私は家の外で、祖父に髪を全部刈られて坊主にされた。

泣いて嫌がったが、祖父は聞く耳をもたず、ずっと険しい顔をしたままだった。

その後で祖母に塩を掛けられて、やっと家に入れた。

そして、「二度と一人で山道に入らないように」ときつく言われた。

私は女の人の見せた悲しそうな声が忘れられなくて、会って謝りたいと思っていたが、祖父が怖かったので、結局山には近づかなかった。

子供の頃の思い出です。

何でも、山に魅入られると後ろの髪を引っ張られるから、坊主にするそうです。

このままでは神隠しにあってしまう、との話でした。

他スレで頭坊主にするって話を結構みかけたので、私のも書いてみました。

ちなみに、私の母はこの時すでに亡くなってましたが、この女の人とは全く似ても似つかないです。

何でママと言ったのかは分かりません。

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後日談

何年かしてその山にまた行った時に例の獣道を登ってみたけど、すぐに神社に出た。

ちなみに、神社の裏の立ち入り禁止の道の方も登ってみたけど、原っぱに出ただけでした。

もう二度と会えないんだな~と子供心に思い、少しだけ爺さんを恨みました。

私は今では、あの人に悪意はなかった、と勝手に思ってます。

思い出は美化されまくりです。

父は私の話を聞いて、

「童でなくなり家にいられなくなった座敷童が、昔遊んだ自分(父)に似ている私を呼んだのではないか」

と語ってました。

何だか唐突だなー、童でなくなった座敷童って何だよーっと思ってたら、酒の勢いでとんでもない事を暴露しやがりました、あの親父。

酒の勢いもあったのだろう。いつになく饒舌だった。

しかし、その内容はあまり軽い話ではなかった。

以前父は、「私が山中で邂逅した女性は、自分が昔遊んでいた座敷童ではないか」と言っていた。

その座敷童との思い出だった。

不思議なようで、それでいて何の変哲もない子供の頃の思い出話にも聞こえた。

今では懐かしい、昔ながらの遊びをしたそうだ。

問題はそこではない。

遊んでるぶんにはいいのだ。いや、ひょっとしたら、遊びの一環だったのかもしれない。

子供の好奇心からなのか、単にマセていたのか、愛し合ってしまったのかは知らないが、とにかくそれは起こったらしい。

その後も、しばらくは少女は現れていたらしいのだが、ある日ぱったりと現れなくなったそうだ。

父はたいそう落ち込んだそうだ。

その話を、「この色親父が」などと思いつつ聞いていた私だが、父が不思議な体験をした私を、その少女と結び付けたがるのも分かる気がした。

父にとって、掛け替えのないのと同時に、悔やまれる思い出なのだろう。

私は考えた。

父の言うとおり、あの女の人がその時の座敷童なんだろうか。

しばらく考えて、私はその説は認められないと思った。

もし、本当にあの女性が件の座敷淑女だったとしたら、嫌な仮説や想像が浮かび上がってくるからだ。

一人であんな廃墟にいたのも、あの崩れ落ちた腕も、父との事のせいではないか?

父の言うとおり、彼女は私が父に似ているから近づいたのか。

もしかしたら、ただ自分の子供に会いたかっただけなのではないか?

私の中に、何か得体の知れない縁が潜んでいるのではないか。

何より洒落にならない事に、私は彼女をママと呼んだ。

そして、もしそうだったとしたら、あの時逃げ出してしまった私を見て何を思ったのか。
あの崩れ落ちる前に見せた、必死に何かを我慢するような苦しそうな顔。

すがる様に後ろから届いた「待って!!」という言葉。

全ての後味が何倍も悪くなる。悔やんでも悔やみきれなくなる。

会って言いたいこと、聞きたいことは山ほどあるが、その道も絶たれてしまった。

私はあの女性は、山の神様か何かではないかと考えている。

965 :あなたのうしろに名無しさんが……:04/05/11 19:38 ID:R94aBabp

(了)

 

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