俺は、最近各地の都市に増えている地域ラジオ局で仕事をしている。これまで何社かを渡り歩いてきたが、今回は十年前に勤めていた局での体験談だ。
小規模な局ゆえ、常勤スタッフはわずか3~4名。俺は技術を中心に、番組制作から事務作業まで幅広くこなす役割を担っていた。
その1:録音された謎の声
ある日、同僚の若い女性アナウンサーが、地域の団体役員のような人物をゲストに招いてトークを収録していた。少人数の局だから、録音作業もアナウンサー自身が行うのが常だ。その日もスタジオ内には彼女とゲストの二人だけ。俺は別室で事務仕事をしていた。
ところが収録後、彼女が泣きそうな顔で俺のところに駆け寄ってきた。
「ヘッドホンから変な声が聞こえたんです。怖くて確認できないので、聴いてもらえませんか…」
彼女が震える手で差し出す録音済みのMDを受け取った俺は、好奇心と恐怖に駆られながら再生機にかけた。
収録内容はいつもと変わらないアナウンサーの挨拶から始まり、ゲストとのぎこちないトークが続く。そして、彼女が「変な声がした」と指摘した箇所に差し掛かると──。
「ほにゃらら!」
男とも女ともつかない、少し高めのハスキーな声が一言、何かをつぶやいた。言葉は日本語に聞こえるが、意味はまったく聞き取れない。
「マジかよ…」
何度も再生する俺の表情が真剣になっているのを見て、隣にいた彼女の顔はさらに青ざめる。
技術的に確認した結果、その声はどう考えても「マイクのすぐ近く」で発せられたものだった。通常、スタジオにいる二人はリラックスしてマイクから少し距離を置くため、微妙な反響が録音される。だが、その「声」には反響がまったくなかった。
他のスタジオの音や機器の誤作動を疑ったが、配線はつながっておらず、CDも入っていない。技術的に説明するなら「マイクの近くで人が声を出した」としか言いようがない。しかしスタジオには二人しかおらず、その声質は彼女ともゲストとも明らかに違った。
結局、俺が声の部分をカットして編集し、トークは無事放送された。だが、元のMDは今でも俺が保管している。後にPCでデータ化して再検証もしたが、未だに謎は解けていない。
その2:放送に乗った謎の声
前回は録音された声だったが、今回は実際に生放送中に起こった話だ。
その日曜午後、2時間のバラエティ番組が放送されていた。地元の素人男性がパーソナリティを務め、友人がミキサー兼聞き役として参加する形だ。
「こないだの『金八先生』さあ…」「誰にでもウ〇コをチビる経験ってあるよな!」などとくだらないトークがテンポよく進んでいたが、突然──。
「今誰かしゃべった? お前か?」
パーソナリティが聞き役に問いかけ、聞き役も「いや、僕じゃないですけど、何か聞こえましたよね?」と応じる。
俺も最初は気付かなかったが、異常事態だと察してスタジオに向かった。彼らの説明によると、トーク中にヘッドホンから知らない「声」が一瞬聞こえたというのだ。
生放送のため、パーソナリティはうまくアクシデントを笑い話に変えつつ番組を続け、曲に切り替えたところで俺がスタジオに入って確認した。
後で録音テープを再生すると、確かに「声」が入っていた。声は小さかったが、マイクの近くで小声でつぶやいたかのような響き。声質は男性だが、スタジオにいた二人の声とはまったく違う。
原因は不明のままだったが、大きな支障が出なかったため、社内的には「雑音」として片付けられた。しかし、番組スタッフだった彼らとは今でも「あれは何だったのか?」と話題になることがある。
オマケ:技術者の間で語られる怪談
音響・放送業界の技術者には、よく知られた都市伝説がある。
「深夜や無人のスタジオでマイクを入れると、誰もいないはずなのに録音装置のメーターが動くことがある。そして時には人の声が録音されることも──」
マイクは人間の耳には聞こえない音まで拾う。音として感知できる周波数は20ヘルツから20,000ヘルツだが、それ以外の振動も拾ってしまうことがあるのだ。
しかし、完全密閉されたスタジオでその現象が起きるのは、技術者から見ても説明がつかない。人間には感知できない何かを、動物や機械だけが捉えているのかもしれない。
もしかしたら、この話もそうした「何か」の一端なのかもしれない。
(了)
[出典:161 :本当にあった怖い名無し:2016/01/30(土) 03:25:09.18 ID:yu+xMNoT0.net]