俺は各地の都市に最近増えている地域ラジオ局で仕事をしている。
161 :本当にあった怖い名無し:2016/01/30(土) 03:25:09.18 ID:yu+xMNoT0.net
これまで何社かに関わっているが、十年前まで勤めていた局でのこと。
俺はいずれも技術を中心として番組制作から事務までをこなす役割だった。
小規模な局なので常勤の従業員も三~四名しかいない。
その1…録音された謎の声
ある日、同僚のアナウンサーの女の子が、地域の団体役員だったか、そんな人をゲストに迎え、スタジオでトークを収録していた。
なんせ少人数なので、通常はアナウンサーが録音の作業もやってしまうことがほとんど。したがってスタジオの中にはアナウンサーとゲストの二人だけ。
その時俺は社内の別室で事務作業などしていた。すると、収録を終えたアナウンサーが、泣きそうな顔をして俺に近寄ってきて、
「今の収録中にヘッドホンから変な声が聞こえた。録音に入っているかどうか、怖くて聴けないので確かめて欲しい」と。
臆病なくせにそういう現象に興味ありありの俺は、彼女が震える手で差し出した録音済みMDを受け取り、検聴(確認)用の再生機にかけてみた。
数日後の生放送に使う予定のその収録は、彼女のあいさつから始まり、なんの異変もなく進んでいった。
ゲストは一般の人だったのでトークはぎこちなく、しばしば会話に間ができる。まあそれはよくあることなので、場合によっては編集で詰めてしまったりするのだが。
そして恐怖の中で彼女がメモった、その「変な声」が記録されている箇所。相変わらずぎこちない間を作るゲストが黙ってしまい、話を繋ごうと彼女が声を出す直前。
「ほにゃらら!」
男とも女ともつかない、やや高めのハスキーな声で一言、何かつぶやいた。
日本語には聞こえるが、何と言っているのかは全く聞き取れない。
これはマジだ…何度も聞き返す俺。
不安そうに隣で見守るアナウンサーの彼女も、普段おちゃらけ系の俺がマジな表情になったのを見て一層不安げになっている。
何度聴いても何と言っているかはわからない。
しかし確実に、彼女ともゲストとも違う「何か」が声を発している。
彼女はその声よりずっと高く声質も違うし、ゲストは低音ボイスのオッサンだ。
それに何より、技術的に見たら、「その声」は明らかに本来の二人よりもマイクに近い位置で発せられている。
マイクから音源までの距離というのは、音の大きさだけでなく微妙な反響でわかる。
本来の二人はリラックスした姿勢であるためかマイクからはやや離れていて多少の反響が見られるが、「その声」には反響がない。
もちろん、マイク以外、例えばCDなどを誤ってかけてしまったとか、他のスタジオの音が混入したとか、可能性としてはなくはない。
しかし彼女が収録を終えた状態を確認したが、CDなどは機器に入っておらず、他のスタジオとの配線もつながってはいなかった。
俺も日本音響研究所のような専門家ではないから完璧な答えは出せなかったが、技術的に言えるのは「マイクのかなり近くで人が声を出した」だった。
そんなことありえない、と俺もわかっていたが、結論としてはそうとしか言えない。
技術面では社の柱である俺がそう結論づけたものだから彼女もそう受け取るしかなく、「自分の収録中のスタジオに得体の知れない何かがいた」という事実に一層泣きそうな顔をしていたのが気の毒だった。
俺としても、怪現象が起きたことを興味深く…いや内心喜んでいたが、よく考えれば自分の属する社内でのことであり、稲川淳二の怪談を聞くのとはわけが違うと気付き、今さらながらにガクブルしたのであった。
そのMDだが、せっかくのゲストトークをお蔵入りにするわけにも行かず、別のMDにコピーした上で、「もう気持ち悪くて嫌だ」と半泣きの彼女に代わってその声の部分を俺がカットした上で、無事に放送された。
元のMDは今でも俺が所有しており、後年PCにデータ化したりして改めて検証してみたが、何もわからずじまいである。
機会があればどこかにアップしてもいいのだが、今でもその局で活躍中の彼女の声が入ってしまっているので、公開をはばかってしまっている。
放送局の怪談って一般的に身近でないと思って少し詳しく書いてみました。
その2…放送に乗った謎の声
前回は録音されたものの放送はされなかったが、今回は実際に放送された謎の声の話。
前回と同じ局で、今度は隣のスタジオでのこと。
日曜の午後、二時間の生放送のバラエティ番組があった。
地元のお笑いを目指す男性(素人)が自分の知人をミキサー兼聞き役にすえ、日常のくだらない話題をネタに曲を交えてトークする、まあそこそこに定評のある番組だった。
ある日曜、俺はその番組の責任者でもあるので、別の作業をしながら番組を聞き流す程度にチェックしていた。
パーソナリティは「こないだの『金八先生』がどうだった」とか「ウ〇コをチビった経験は誰にでもあるはず」などとくだらないトークをテンポよく進めていた。
すると突然トークが止まり、
「今誰かしゃべった?お前か?」
と聞き役にたずねた。聞き役も気付いたようで
「いや、僕ではないですけど、誰かしゃべりましたよねえ」
などと言っている。
俺はじっくり聴いていたわけではなかったので気が付かなかったが、異常事態と認めてスタジオに向かった。
パーソナリティは生放送ということで
「なんかね、聞こえたんですよ声が。僕ともミキサーさんとも違う声がね…みなさんは聞こえました?」
とアクシデントも上手くふくめて番組を進めている。
「なんだったんだろうね?まあいいや、とりあえず曲!」
と曲に変わったところで俺はスタジオに入った。
事情を聞いてみると、トーク中、ヘッドホンから知らない声が一瞬、一言分程度聞こえたのだという。
とっさのことで声の特徴やナニを言っていたのかはわからないが、あれは人の声だったとスタジオについていた二人が口をそろえて訴えた。
この頃、このスタジオでも異音が聞こえるという事態が多発していたので「またか」と思ったが、はっきりと「人の声」というのは前回をふくめて2度目、しかも今回は生放送中である。
後でテープで確認するから、とりあえず番組を進めるように指示してスタジオを離れた。
放送局では放送した内容を確認するため生放送もふくめ、自分とこの放送を一日中録音しているのである。当時はビデオテープに三倍速で音だけ録音していた。
さっきの時間帯の放送が録音されたテープを聴いてみる。確かに何か言っている。
声量は小さいがマイクからはそう遠くない。
マイクの近くで小声で一言つぶやいたという感じ。
声質は、どちらかといえば男。当時スタジオにいたのも男二人だが、どちらとも声質は明らかに違う。
無意識にひとり言をつぶやいたということでもなさそうだ。
三人で首をひねりつつ、結局は原因不明の雑音ということで決着した。
まあ番組について大きな支障が生じたわけでもないので、社内的にもせよ問題になるような話ではないのだけど、やはりいい気はしない。
その番組の二人とは今でも付き合いがあるが、あれはなんだったのだろうと未だに話題になる。
オマケの話
音楽・放送業界の技術者の間で有名な話として、
「深夜など誰もいないスタジオや静かな屋外でマイクを入れておくと、何の音もしないのに録音装置やミキサーのメーターがふわっと動いたり、人の話し声が録音されたりすることがある」
というのがある。
マイクは色んな音を拾う。人間の耳に聞こえなくても音……というか空気の振動……を発するものは身の回りにもあり、人間に聞こえないだけでマイクには拾われている。
一般に人間の耳に音として感知できるのは20ヘルツから20,000ヘルツの周波数の空気振動で、それ以外の空気振動は音として感知できない。
しかし完全密閉され内部では音を発するものがないスタジオでそういった現象が起こることはまず考えられない。
だから技術者の間では、霊的な何かではないかと言う人も多い。
誰もいない空間に向かって犬が吠え立てることがあるが、人間には感じられなくとも動物や機械には感知できる何かが存在する…そういう現象なのではないか。
(了)