ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 r+ 怪談

死者の通り道r+1223

更新日:

Sponsord Link

これは、母から聞いた不思議な話だ。

曽祖父が亡くなったのは、母が高校生の頃のこと。九十八歳という当時としては稀な長寿を誇り、背筋をぴんと伸ばした威厳ある老人だったという。しかし、老衰には勝てず、床に伏すようになり、母の祖母が近所に住む曽祖父の看病に通っていた。

曽祖父の死期が近いと囁かれる中、祖母の判断で母は曽祖父の最期の床には近づけなかった。その日、学校から帰宅した母は自室で畳に仰向けになり、何とはなしに過ごしていた。居間の柱時計が一時間ごとに「ぼーん」と低く響く音が聞こえる。ふと、時間を確認しようと机の上の置時計を見上げた、その瞬間――。

身体が動かなくなった。視線だけが自由で、他はまるで石膏で固められたよう。金縛りにあったと気づくと同時に、曽祖父のことが脳裏に浮かんだ。「おじいちゃん…まさか…」そんな思いを抱いた刹那、曽祖父の家がある方角の壁から、突如として白い馬の首が現れた。

それは単なる幻覚ではなかった。白い馬は壁を抜け、堂々と母の部屋へ入ってきた。その馬には、全身真っ白な着物に三角頭巾をつけた人物が跨っている。幽霊――いや、何かもっと重々しい存在のように見えた。続けざまに白い馬が次々と現れ、いつしかその数は六頭になった。

白い衣装をまとった幽霊たちは静かに部屋を進む。そのたもとは風もないのに揺れ、白一色の光景が異様な現実感をもって迫ってきた。そして、一番後ろの幽霊がふと母の方を振り向いた。その顔に、母は息を呑む――それは曽祖父だった。

曽祖父の目には、感情らしいものが何も浮かんでいない。ただ、じっと母を見つめるだけだった。そしてやがて視線を前に戻し、集団はゆっくりと進んでいく。母は首だけを辛うじて動かせるようになり、その行き先を追った。

彼らが向かう先には、ぽっかりと開いた灰色の穴があった。その穴は渦巻き状で、どこまでも深く吸い込むような気配を漂わせている。母は確信した――「おじいちゃんは亡くなったのだ」と。その瞬間、金縛りは解け、幽霊たちは灰色の穴の中へ消え去った。

その夜、曽祖父の訃報がもたらされた。亡くなった時刻は、母が金縛りにあっていたのと全く同じ時間だったという。

この話には後日談がある。

母が友人と金縛りの体験談を語り合ったとき、友人の夫が頻繁に金縛りにあうという話題になった。その夫は親戚が亡くなる際、必ず「穴」に吸い込まれる様子を目撃するというのだ。母が自分の体験を話し、さらにその「穴」を絵に描いてみせたところ、友人の夫も「これだ」と声をあげたという。

二人の証言は一致していた。死者を迎え入れる「穴」。その存在が何を意味するのか、答えは誰にも分からない。ただひとつ確かなのは、そこに向かう白い影たちの光景は、深い恐怖と畏怖をもって記憶に刻まれたということだ。

(了)

[出典:785: 本当にあった怖い名無し:2010/05/16(日) 18:50:34 ID:/rhVV16S0]

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, r+, 怪談

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2025 All Rights Reserved.