ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 r+ 洒落にならない怖い話

三百六号室 r+4154

更新日:

Sponsord Link

あの日は晴天。キャンプには絶好の日和だった。

遠足だなんだと子供たちが騒ぎ立てる中、俺たちは先生の指示に従いバスに乗り込んだ。目的地に着くと、登山が始まった。

山道の途中、急な岩肌が現れた。その岩場には数本の鎖が垂れ下がっていた。先生が順番に鎖を使って登るよう指示を出した。子供だった俺たちは、ちょっとした冒険気分でそれに従った。

岩場の途中に置かれた花瓶が気になった。「ここで誰かが亡くなったのかもしれない」と思ったが、深く考えることはなかった。大人になった今思うと、子供だった俺たちには、あの岩場が実際よりも急に感じられただけだったのだろう。先生たちは軽々と登っていたから、たいした場所ではなかったのかもしれない。

岩場を登りきると、先にあった開けた場所で弁当を広げた。みんなで食べる弁当は格別だったが、山登りはまだ続くようで、先生の「まだまだ登るよー」の声に子供たちの不満が漏れた。疲れたし、早く終わってほしかった。

だが、先生たちはそれを予想していたのか、用意していた苺の飴を配り、「頑張ろうね」と励ました。俺たちは素直に「はーい!」と応じた。子供だった俺たちは、本当に単純で素直だった。

やがて、山道の先に白い建物が見えた。「やっと目的地だ」と思ったが、先生はその手前で「ここで整列して」と言い出した。どうして建物の中ではなく、ここで立ち止まるのか疑問に思ったが、すぐに理由がわかった。建物の中での注意事項や日程の説明をするためだった。

説明が終わると、ようやく建物に向かった。割り当てられた部屋に荷物を置き、中を見回した。施設自体が古びていたせいか、部屋の中は薄暗く感じた。蛍光灯は点いていたが、どこか頼りない光だったのを覚えている。

キャンプ初日はカレー作りで終わった。飯盒でご飯を炊き、管理人さんが持ってきた材料でカレーを作った。味の記憶は薄れてしまったが、飯盒の底に残ったご飯で食べたカレーがやけに美味しく感じたことは覚えている。

夜になると、男女別々の部屋で就寝することになった。しかし、部屋割りの関係で、女子2名が先生たちと同じ部屋で寝ることになった。部屋数自体は足りていたが、1つだけ「使ってはいけない部屋」があったからだ。理由はわからなかったが、先生たちはその部屋を避けるよう指示していた。

この夜、俺の身には何も起きなかった。ただ静かに眠りについた。しかし、そうではない者もいた。そのことを俺が知ったのは、翌日のオリエンテーリングのときだった。

翌朝、俺は同じ部屋の仲間たちを起こし、布団を片付けて点呼を取った。

朝食も自分たちで作った。何を作ったのかは覚えていないが、用意された材料を使っていたことは覚えている。

朝食後、先生たちは昼過ぎに行うオリエンテーリングの準備に向かった。その間、俺たちは自由時間をもらった。施設には竹馬やタイヤブランコが置いてあり、それを使って遊ぶ者たちもいた。俺もその輪に加わろうとしたとき、別のグループから小さな悲鳴や驚きの声が聞こえた。

「きゃあ!」「うわっ!」そんな声の中心には、二人の女の子がいた。気になって近づくと、彼女たちは昨晩の出来事について話していたようだった。

話を聞いてみると、件の「使ってはいけない部屋」に関する出来事が明らかになった。建物に入ったとき、部屋割りを確認する中で、1つだけ余る部屋があることにみんな気づいていた。その部屋を見て、女の子たちは「ここが自分たちの部屋になるかも」と期待していたらしい。しかし、先生に尋ねると、こう言われたという。

「二人っきりだと危ないからね」

その説明はどこか妙だった。だって、みんな同じ建物に泊まっているのに、なぜ二人っきりだと危険なのか?

さらに先生はこんな話をしたそうだ。

「昔、ここで殺人事件があってね。被害者の顔が、その余った部屋のロッカーに入っていたんだよ。頭だけは見つかったけれど、身体は未だに見つかっていないんだ。」

恐ろしい話だった。その話を聞いた彼女たちは納得したように見えたが、夜になって恐怖は現実となった。彼女たちが寝ていた部屋の隣、つまり「使ってはいけない部屋」から物音が聞こえてきたという。

「ガタン、ガタン」――そういった音が響いていたらしい。先生たちを起こそうとしたが、なぜか全員ぐっすり眠っていて目を覚まさなかった。結局、彼女たちは目を閉じて朝を待つしかなかったという。

この話を聞いた俺たちもさすがに背筋が寒くなった。けれど、不思議なことに、昨晩俺たちは夜遅くまで起きていたが、そんな音は一切聞こえなかった。だから俺は、彼女たちが夢でも見ていたのではないかとそのときは思った。だが、彼女たちの寝ていた隣の部屋が「件の空き部屋」だったという事実が、どこか引っかかっていた。

オリエンテーリングが始まった。内容は単純で、日没までに先生たちが設置したスタンプを集めるだけ。スタンプの場所は、配られた紙の裏に謎解き形式で記載されていた。俺にとっては退屈なイベントだったが、他の連中はそれなりに楽しんでいるようだった。うちの班も最初は張り切っていたが、次第に飽きが出てきた。そんな中、班長がぽつりと言った。

「沼の方に行かない?」

班の皆もこれに賛成した。スタンプの大半を押し終わっていたし、何よりみんな気分を変えたかったのだろう。

沼への道は細く、獣道のような荒れた道だった。俺たちは歩き続け、ようやく沼にたどり着いた。他の班の子たちの声も聞こえたので、どうやら人気のスポットらしかった。

沼は濁った水をたたえ、どろりとした独特の雰囲気を放っていた。深さもわからず、不気味だった。俺たちは水に触れる気にもなれなかった。その理由の一つは、前日の話だった。「身体の見つかっていない死体がある」という話が頭をよぎったのだ。

沼の周囲には壊れた傘や作業靴が転がっていた。俺たちは怖いもの見たさで辺りを見回したが、結局何も見つからなかった。「やっぱり何もないか」と言い合い、俺たちはオリエンテーリングに戻った。

その夜、キャンプファイヤーが行われた。木を何段か積み重ねただけの小さな焚き火だったが、当時の俺たちにはそれが特別に見えた。火を囲みながら笑い合い、二日目の夜はこうして終わりを迎えたかに思えた。

しかし、そうではなかった。

キャンプファイヤーが終わり、俺たちは部屋に戻った。寝る準備を整え、後は横になるだけというタイミングで、俺は急にトイレに行きたくなった。消灯時間が過ぎてしまうと恐くて行けなくなるのはわかっていたから、急いで部屋を出た。

トイレは古びていて、蛍光灯ではなく豆電球が薄暗い光を放っていた。壁や床はどこかくすんでいて、端の方には黒ずんだ汚れが目立つ。個室の扉には無数の傷があり、全体的に不気味な印象だった。俺は用を済ませると、手洗い場で手を洗った。そのとき鏡を見上げると、斜めに大きなひびが入っていた。それが妙に恐く感じた。

部屋に戻ると、班の一人が「俺もトイレに行きたい」と言い出した。みんなで「一人で行け」と冷たく返したが、そいつは「恐いから誰かついてきてくれ」と頼み込んだ。俺は「まだ廊下の明かりもついてるんだから、さっさと行ってこいよ」と言って促した。

その言葉を聞いて、そいつはしぶしぶ部屋を出て行った。だが、しばらくしても戻ってこない。廊下の明かりが消え、消灯時間が訪れても姿を見せなかった。心配になった班の仲間たちが「様子を見に行ったほうがいいんじゃないか」と俺に言ってきた。

俺がそいつをトイレに送り出した手前、見に行くしかなかった。廊下は真っ暗で、非常灯が一つだけ頼りない光を放っていた。トイレは部屋を出て右の突き当たりにある。一本道だから、行き違いになることはあり得ないはずだ。

だが、トイレにたどり着いても、そいつの姿はなかった。廊下で待っても戻ってこなかったし、手洗い場にもいない。残るは個室だけだった。

俺は恐る恐る、個室の扉を一つずつノックしていった。

「いるのか?」と声をかけながら。

ノックを返してきたのは、最後の個室だった。安心して「早く出てこいよ」と言うと、中から声が返ってきた。

「出てもいいの?」

しかし、それはそいつの声ではなかった。その瞬間、恐怖が全身を駆け巡り、俺は動けなくなった。何も言えない俺に、再び個室の中から声が響いた。

「出てもいいの?」

恐怖に耐えきれず、俺はトイレから逃げ出した。廊下を駆け抜け、自分の部屋へ戻ろうとした。だが、目の前にある部屋の札には「三百六号室」と書かれていた。

俺の部屋は「二百三号室」のはず。だが、俺は階段を上った覚えも、角を曲がった記憶もない。何故ここにいるのかわからなかった。

そのとき、背後に「何か」がいる気配を感じた。誰かが立っている、そんな雰囲気があった。だが、足音も気配の出所もわからない。ただ背筋がぞくりとし、全身が震えた。

隣の部屋から悲鳴が響いた。続いて先生たちの驚いた声や女子の泣き声が聞こえた。その瞬間、背後の気配が消えた。

俺は我に返り、自分の部屋に戻った。中に入ると、トイレに行ったはずの奴が普通に座っていた。思わず問い詰めた。

「どこ行ってたんだよ! トイレまで探しに行ったのに!」

そいつはきょとんとした顔で答えた。

「え、ちゃんとトイレ行ってたぞ?」

トイレと部屋の間には一本道しかない。俺が通ったはずの道を、そいつも通っていたはずだ。嘘をついているようには見えなかった。

では、俺はあのときどこを歩いていたのだろう?

そして、「出てもいいの?」と答えたあの声は、何だったのか……?

(了)

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, r+, 洒落にならない怖い話

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2025 All Rights Reserved.