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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

供え物を蹴った夜 n+

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中学の頃の話だ。

いや、正確に言えば、俺の弟のまわりで起きた出来事を、後から断片的に聞かされ、そしてなぜか俺自身も巻き込まれるように記憶の底に焼き付いてしまった……そんな話だ。

あの頃、弟は高校に上がったばかりで、やたらと友達の輪を広げようとしていた。よく俺の部屋に来ては「兄貴、聞いてくれよ」と話を持ってきた。だがその日だけは、言葉を選びながら、いつもと違う声色で話していた。笑いながら軽くあしらうこともできなかった。

弟の友人にAというやつがいた。顔立ちは整っているが、やけに調子に乗りやすく、誰かを小馬鹿にしては場を盛り上げるようなタイプだったらしい。弟は苦手だと口にしていたが、なぜか行動を共にすることが多かったそうだ。

ある晩、弟とA、それからBとCという同級生二人、計四人で、地元で有名な心霊スポットに行こうという話が持ち上がった。噂になっていたのは古い踏切で、十数年前、女が深夜に列車に轢かれたことから「出る」とされていた場所だ。

結局その日は、弟は部活か何かの用事で行けず、残ったA・B・Cの三人で出かけた。夜の八時頃には目的の踏切に到着したという。田舎町の外れ、街灯もろくにない。線路脇に手向けられた花や小さな缶ジュースがあり、それがかえって「ここで人が死んだのだ」と実感させる。

Aは、そんなものを前にして笑い出した。
「なんだよこれ、邪魔だな!」

BとCが慌てて止めたらしい。けれどAは止まらない。花を踏みつけ、蹴り飛ばし、あげくの果てに供物を散らしたという。二人は顔を引きつらせて黙り込んだが、結局何も起こらなかった。夜気に包まれた線路は静まり返り、ただ虫の声と遠くの車の音だけが聞こえていた。

「ほら、何も起こんねえじゃん!」
Aはそう言って笑い、満足した顔で帰った。

――翌朝。

弟は教室に入ると、異様なざわめきに気づいた。普段はうるさい連中が口を閉ざし、青ざめた顔で固まっている。BとCの姿はある。だがAがいない。

「なあ、Aは?」と弟が訊くと、二人は声を震わせて答えた。
「……A、死んだんだ」

冗談だと思った弟は、鼻で笑ったという。
「なに脅かそうとしてんだよ」

その時、隣にいた女子が小さく囁いた。
「黒板、見て」

弟が振り返ると、そこにはチョークで荒々しく書かれた文字があった。
「今日は自習です 来た生徒は順に校長室に来ること」

黒板の文字の乱れ具合、教室を包む空気、BとCの蒼白な表情――弟はすぐに、笑ってやり過ごせる状況ではないと悟った。

やがて担任が教室に入り、弟の名を呼んだ。校長室へ来い、と。

校長と担任が並んで座っていた。開口一番、担任が言った。
「Aのことは聞いたか?」

弟は曖昧に頷くしかなかった。
「……亡くなったそうだ」
校長が口を開いた。
「今朝早く、警察から連絡があった。場所は……あの踏切だ」

「事故ってことですか?」
弟が問うと、二人は顔を曇らせた。

「事故といえば事故だろう。ただ、どうも腑に落ちない点がある」
担任の声が低くなる。
「Aは……踏切の真ん中で土下座をしたまま轢かれたらしい」

弟は言葉を失った。

目撃者がいたという。犬の散歩中の人だったらしい。最初は何か動物が線路に入ったのかと思った。だがそれは人間で、しかもぴたりと頭を下げ、手を前について動かない。やがて警笛と轟音。列車は減速する間もなく、Aを轢き潰した。

――なぜ土下座を?

弟は話を聞きながら、自分が昨夜行けなかったことに、理由のわからない安堵を覚えたという。同時に、あの場にいたBとCの心境を思い、背筋が冷えたとも語っていた。

奇妙なのは、そこで話が終わらないことだ。

後になって弟がぽつりと付け足した。
「担任、あの瞬間のこと、妙に詳しく知ってたんだよな」

警察が公にしないはずの証言を、どうして担任が知っているのか。BやCが直接聞いたとしても、詳細に語ることはないはずだ。

弟はこうも言った。
「担任の顔、どこか見覚えがあると思ったんだ。あの踏切で、前に花を供えてた人を見かけたことがあるんだよ……背中だけだったけど、同じ雰囲気だった」

それを聞いたとき、俺は言葉を失った。
供え物を蹴り飛ばしたA。
それを止められなかったBとC。
そして翌朝、土下座の姿勢で轢かれたA。

ひとつひとつの出来事が点で繋がり、やがて線になる。

俺は弟に「担任のことは誰にも言うな」と釘を刺した。
ただ、それを口にした途端、妙な圧迫感に襲われた。あの時点で、すでに何かに見られていたような気がする。

今も夜更け、窓の外で電車の音が響くと、無意識に耳をふさいでしまう。
土下座をしたまま動かずに列車を迎えたA。その姿は、今も脳裏から消えない。
だが、本当に「A」だけが轢かれたのだろうか。

線路に散らばる花や供物が夜風に揺れる光景を思い浮かべると、どうしても別の顔が浮かんでくる。
あの担任の、青白く照らされた横顔が。

[出典:521 :本当にあった怖い名無し 警備員[Lv.3][新芽]:2024/12/11(水) 16:32:17.38ID:j79/icw90]

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