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耳鳴りの正体 r+1,697

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数か月前、俺が体験した話をさせてくれ。

場所は、うちの会社が持ってる某県の山奥にある研修施設。ガテン系の職種で、社員数もけっこう多い会社なんだが、研修のたびに使われるこの施設、どうにも妙な噂が絶えない。

戦国時代の有名な合戦場が近くにあって、周囲は木々に囲まれた鬱蒼とした山中。研修施設の中心にある三階建ての宿泊棟――これがまた、やけに陰気で古めかしいコンクリの建物で、社員の間じゃ「出る」って噂になってる。

話はだいたい似たようなもんで、「二階の窓の外を誰かが横切る」「三階の部屋にお札がベタベタ貼ってある」「髪の長い女が夜な夜な歩いている」など。
どれも一見ありがちな与太話だけど、妙に具体的で、語る奴の顔が真剣すぎるのが引っかかっていた。

中でも気味が悪いのは、宿泊棟の一階にある資料室。業務中に亡くなった社員の遺品が、何かの「教養」として展示されているんだが、あれはどう見ても祀ってるというより……封じてるようにしか見えない。

去年の秋、その研修施設で三泊四日の研修が組まれた。
各営業所から代表者が一人ずつ集められて、法改正や書類の新様式なんかを叩き込まれる会だった。
うちの営業所からは、たまたま俺が手の空いていたってだけで送り出された。

泊まるのは、噂の宿泊棟。
三階建て、築四十年。まるで廃校か、閉鎖された病院のようなコンクリートの箱。無機質で、窓は小さく、やたら天井が低い。圧迫感がすごい。

俺が割り当てられた部屋は、大部屋だった。
二十畳ほどの空間に、ベッドが左右の壁に三台ずつ並び、各ベッドの脇に細いロッカー。仕切りはカーテンだけ。
病室みたいだな、と誰かが言って、確かにと思った。
俺は左手側、真ん中のベッドに寝ることになった。

同室になったのは、全部で六人。営業所は違えど、以前顔を合わせたことのある奴もいて、気まずくない程度の顔ぶれだった。
役職も年齢もバラバラだけど、冗談を飛ばせるくらいの距離感。

夜は研修が終われば暇で暇で仕方ない。
山奥だからコンビニもないし、しかも酒の持ち込み禁止って縛りまである。
結局ベッドに転がりながら、どうでもいい話をして時間を潰すことになる。

当然、あの噂も話題に出た。
例の、出るとか出ないとか。
みんな冗談交じりに笑ってたが、笑いながらも少しずつ声が小さくなっていくのが妙にリアルで、誰もが何かしら聞いたことあるらしいのが伝わってきた。

消灯時間になって、俺が「俺、いびきすごいから早く寝た方がいいぞ」って言ったら、他の奴らも「俺も歯ぎしりやばいっす」「鼻笛が……」と次々カミングアウト。
結果的に、六人中五人が「うるさい側」だった。

これはもう、早く寝た者勝ちだということで、全員カーテンを閉めておやすみなさい。
俺はすぐに寝つけるタイプだから、とタカをくくってた。

……だが、今回はなぜか寝つけなかった。

周囲からは、程なくいびきの合唱が始まった。
俺の右隣、入口側にいた後輩からは、宣言通りの鋭い歯ぎしり。
ギチ……ギチギチ……と、耳障りな音がカーテン越しに鳴り響く。
あんなの、冗談抜きで歯が削れるんじゃないかと思うほどの音だった。

しばらく我慢してたが、あまりにうるさくて、枕を頭に被せて音を遮ろうとした。が、無駄だった。

そんな時だった。

ギチギチという歯ぎしりが鳴り続ける中、俺は聞いた。
「うーん……」と、後輩の寝返りの声と、小さな咳払いが、その右隣から。
声と咳は確かに後輩のものだった。

……でも、歯ぎしりは続いていた。

おかしくないか?
歯ぎしりしながら声を出すなんて器用な芸当があるかよ。
そもそも咳き込むってことは、歯を食いしばっていないということじゃないのか?

耳をすませる。
左隣からは、先輩の規則正しい寝息。
ほかの四人はそれぞれのリズムでいびきをかいている。

つまり、俺たち六人は全員、自分のベッドに寝ていたはず。
誰も移動していないし、誰も話していない。

じゃあ、誰が後輩のベッドで歯ぎしりをしていたんだ?

ぞっとして、息を殺した。
音は、まだ続いている。
ギチ……ギチギチギチ……
その音が、次第に俺の耳元に近づいてくるような錯覚さえした。

もう耐えきれなくて、布団を頭までかぶって、ただ震えていた。

……次に気づいたときは、朝だった。

誰かがカーテンをシャッと開ける音で目を覚ました。
みんな普通に起きて、あくびをしたり、携帯を見たり、まるで何もなかったかのような朝。

例の後輩は「〇〇さんのいびき、半端なかったっすよw」とか言ってケラケラ笑っていた。
あの歯ぎしりのことは、口に出せなかった。

水を飲みに洗面所に立ったら、左隣の先輩が顔を洗っていたので、そっと声をかけた。

「先輩、昨日……なんか、音とか聞こえませんでしたか?」

「ん? いやー、お前らすごかったよ、いびきの大合唱でさ」

「すんません……でも、他に、なんか……」

先輩はタオルで顔を拭きながら、少し黙ってからこう言った。

「いや、音は分からん。耳栓してたからな。でも……」
そして、洗面台の一角を指さした。

そこに、長い髪の毛が一本。
濡れて、排水口に絡まって、流れきらずに残っていた。

真っ黒で、まっすぐな髪。
少なく見積もっても六十センチはあった。

「なんで男しかいないのに、あんな髪が……」

先輩はそれ以上何も言わず、タオルを畳んで部屋に戻っていった。

俺は、その髪をしばらく見つめていた。
誰かが冗談で仕込んだにしては、生々しすぎる。
髪の毛は、まるで蛇のように、少しだけ水の流れに揺れていた。

あの歯ぎしりは、誰だったのか。
いまだに、ときどき耳の奥で、あのギチギチという音が鳴る。
たまに、俺のベッドのすぐ隣で。

──いや、最近ではもっと近くなっている気がする。
まるで、すぐ耳元で、誰かが。

……ギチ……ギチギチギチギチ……

[出典:198 :本当にあった怖い名無し:2020/02/03(月) 01:09:19.42 ID:08VTKZ4b0.net]

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