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先輩の家族【ゆっくり朗読】3400

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俺の職場での話。

俺の職場の先輩は面倒見がいいし、仕事もスゲーってほどじゃないけど、確実で取引先からも指名で仕事が来たりする。

ただ、ちょっと困ったとこは異様に家族のことを大切にしてること。

奥さんや娘さんのことを話し出すと止まらなくって、休日明けなんかは家族となにをやった、どこへ行ったってことを写真を見せびらかして話してる。

それだけならいいお父さん、で済むんだけど問題は奥さんと娘さんが既に他界されてること。

それ以外は本当に頼りになる人で、仕事にも支障がないからみんな触らないようにしてすごしてる。

で、いつぞやの忘年会のこと。

その年は割とデカイ仕事が成功したこともあって、忘年会はかなり豪勢だった。

先輩もいつになく上機嫌で普段は絶対にしない深酒をして、終いには歩くどころか、いすに座ってるのもままならないことになってた。

そんな状態だから一人で返すわけにもいかないけど、先輩は家族が待ってるからと、帰るといってきかない。

しかたなく社長命令で俺ともう一人の同僚で送っていくことになった。

同僚は下戸で車に乗ってきていたので、その車で先輩のうちまで行くことになった。

本当は同僚だけが送っていけといわれたのだけど、見捨てられずついていった。

先輩はどっから見ても酔いつぶれてるってのに、いつの間にか持ち帰りを頼んでて、それをしっかり抱えてたのを覚えてる。

先輩の家につくと、当たり前なんだけど家の中は真っ暗。いくらか回復してた先輩は「もう寝ちゃってるなー」といって笑った。

お茶くらい出すからというのを、とっくに日付も変わってるしと断っていると……

『トタタタタタ……ガチャ』

玄関が開いた。

「なんだー、起きてたのか。お土産あるぞー」と、どこか嬉しそうな先輩。

真っ暗な家に入っていく先輩に俺らは、それじゃといって車に乗り込んだ。

車の中でガチガチ震えてる俺ら。

「……なあ、先輩は、なにと住んでるんだ?」

今でも先輩は、誰も写ってない奥さんと娘さんの写真を見せてくれる。

(了)

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