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コンサートチケット r+1152

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以前、コンサートホールでアルバイトをしていたことがある。そのときの話を少ししてみようと思う。

最初に任されたのは、来場者の数を計算するチケットチェックの仕事だった。わたしたちはもぎったチケットを集め、枚数を数えて主催者に報告する。この作業が案外楽しかった。ほとんどが女性スタッフで、雑談しながらチケットを整理するのは退屈しない。わたしは事務机に積み上がったチケットの山を両手で崩しながら束を作っていくのが好きだった。

ある日、その中に水分を含んで膨れ上がり、ボロボロになったチケットが混ざっていた。インクがにじみ、席番号がかろうじて読み取れる程度。そのときは、特に気にせず作業を続けた。

コンサートホールのアルバイトでは、演奏中にホール内に入ることもある。正直なところ、演奏を無料で聴けるのが目当てだった。わたしの仕事は、ホールの二重扉の近くに座り、体調不良のお客さまをロビーに案内したり、不正録音を見つけたら主催者に知らせることだった。ただ、実際に何かトラブルが起きることはほとんどなかった。

その日、わたしはシューベルトの四重奏を聴きながら勤務していた。ゆったりとしたアダージョの楽章に入ったとき、低音を基調とした旋律に混じって「ピン、ピン」という高音が聴こえてきた。最初は舞台のきしみ音かと思ったが、その音は次第に大きく、鋭くなっていった。鼓膜に痛みが伝わるほどの音に思わず耳をふさぎ、下を向くと、足元に透明な液体が一筋流れているのが見えた。

ホールの構造上、液体は舞台に向かってカーブを描くように流れていく。その源をたどると、黒髪を短く刈り込んだ二十歳くらいの女性と目が合った。青い照明の下、大きな瞳が印象的だった。不思議な状況にもかかわらず、わたしはなぜか恐怖を感じなかった。

その後も、わたしは濡れたチケットを何度も見つけるようになった。どれも膨らんでおり、同じR側の座席番号が記されていた。だが、演奏中のホールに入っても、あの女性の姿を見ることはなかった。

半年ほど経ったある日、わたしはロビーでチケットもぎりの仕事をしていた。リハーサルの音が響く中、「ピン、ピン」というあの音が突然聴こえた。そして、あの女性が現れた。髪型はおかっぱに変わっていたが、前髪が濡れているのがわかった。水滴がぽたぽたと落ち、カーペットの上で跳ねて「ピン」と音を立てていた。

その瞬間、わたしは恐怖よりも妙に納得してしまった。「やっぱり濡れているんだ」と。でも、後から考えると、なぜカーペットで水滴が跳ねるのか、なぜあの音がするのか、と疑問が次々と浮かび、じわじわと不気味な気分になった。

勤務中、ロビーのカーペットには透明な水滴が残っていることがあった。その水滴は触るとねばりけがあり、モップで拭き取ろうとしても跡が消えない。マネージャーに相談したが、彼にはその跡が見えていないようだった。その事実に気づいたとき、わたしは本気でこのバイトを辞めたいと思った。

最後に、あの水の匂いについて触れておきたい。なんとも表現しがたいのだが、淋しく、かすかな匂いだったように思う。安っぽいホラー小説のようになってしまったが、これはわたしが体験した実話だ。あの女性は一体何者だったのか。答えはわからないままだが、こうして文章にして少しだけ気持ちが整理できた。おやすみなさい。

(了)

[出典:2009/07/22(水) 02:31:49 ID:+r78dEHF0]

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