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短編 r+ 怪談

閉ざされたフロアr+1117

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これは、数年前にアルバイトしていた工場で実際に経験したという男性から聞いた話だ。

その工場は四階建ての古びた建物で、稼働しているのは一階と二階のみ。三階と四階は倉庫として使われていたが、十数年前に施錠されたまま放置され、鍵も紛失したという。社員たちも「触るな」と暗黙の了解でその上階に触れることはなかった。倉庫の中に何があるのか、誰も覚えておらず、ただ朽ちるに任されていた。

ある日、普段使用しているエレベーターが故障したため、隅に埃をかぶっていた貨物用エレベーターが使われることになった。それは数十年動いていなかったにも関わらず、電源を入れると不気味なほど静かに動作を始めた。機械の調子を見た社員が何気なく呟いた。「三階と四階のボタンもあるのか…まぁ、押しても動かんだろうがな」。

その言葉を耳にしたアルバイトの学生たちは、全員同じことを考えた。「このエレベーターなら、上に行けるかもしれない」と。誰もが、普段禁じられたフロアへの探検心を抑えられなくなった。

休憩時間、社員がいなくなったのを見計らって、彼らはジャンケンで探検者を決めることにした。結果、四階はA、三階は語り手の彼に決まった。小さな懐中電灯を手にし、二人はエレベーターに乗り込む。重い鉄の扉がゆっくりと閉まり、暗闇が全身を包み込んだ。

まず三階で止まる。ゆっくりと開く扉の隙間から流れ込む冷たい空気。鼻をつくカビの匂い。彼は一歩を踏み出すのをためらったが、Aが背中を押す。「じゃ、気をつけてな」。その瞬間、扉が閉じ、エレベーターは音もなく四階へ向かっていった。

フロア全体はがらんどうだった。埃の積もった机や乱雑に積まれたコンテナ、剥がれかけの「禁煙」の張り紙、古びたエアコンが目に入った。手探りで照明のスイッチを探すも見つからず、彼は壁伝いに歩き始めた。窓にたどり着いたとき、外が妙に明るいことに気づく。月明かりだと思ったが、妙に強い光だった。窓辺には一つ、てるてる坊主が吊るされている。それはどこか人間の顔のようにも見え、不快な寒気を覚えた。

その後、Aが戻ってきて、彼らは何事もなく二階に帰還した。探検の成果を仲間に話すが、特に目立つ発見もなく、会話は盛り上がらなかった。

しかし、仕事を終えた帰り道、Aが突然立ち止まり言った。「月、出てなかったよな」。その言葉で彼も気づいた。そう、あの夜、空に月は出ていなかったのだ。それならば、あの窓際の光は何だったのか。まさか工場の外灯? だが、それにしては窓の内側からの光のように見えた。

さらに決定的だったのは、その後、二人が工場を振り返ったときだった。三階と四階の壁を見上げた彼らは愕然とする。どのフロアにも、窓など存在していなかった

そのことに気づいた瞬間、二人は口を開けたまま固まった。説明のつかない違和感が次第に恐怖へと変わり、体の芯を凍りつかせる。「なんで、窓があったんだ…?」振り返る気にもならず、彼らは逃げるようにその場を去った。

その日を境に、彼は工場で働く気力を失い、すぐに辞めたという。Aも数週間後に姿を消した。今でも工場の三階と四階がどうなっているのか知る者はいない。ただ、思い返すたびに彼は、あの窓辺のてるてる坊主が何を象徴していたのか考えずにはいられないのだと言う。

(了)

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