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クイゴン r+5118

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広島県の奥深い山々には、奇妙な伝説がいくつも語り継がれている。

そのうちのひとつに、「クイゴン」と呼ばれる存在の話がある。かの「ヒバゴン」のような怪物ではないかと囁かれているが、その姿は何かが少し違う。物語の舞台は御調郡久井町の山中。この地域で語られるクイゴンの話を、久井町の地元住民から聞いた。

彼らによれば、クイゴンの姿は「小さなキングコング」や「お猿さんの怪物」に似ているという。特に特徴的なのは、クイゴンが人々のお弁当や畑の作物を狙うという噂だ。何とも人間臭い行動をとるが、昔からの言い伝えに寄ると、侮辱の言葉や「バカ」といったひと言を口にすれば、容赦なく追いかけてくるというのだ。

山中で迷い込んでしまった子供たちが、ふと軽い気持ちでそのような言葉を口にした瞬間、低い唸り声が耳元で響き、後ろを振り返ると、奇妙な影がこちらに向かってくる。小さな頃、そんな話を真顔で語る大人たちに囲まれて聞かされた子供たちは、夜眠れなくなったという。

その話を裏付けるかのように、町内には「庚申原」と呼ばれる場所があり、そこには今もひっそりとした古い墓が残っている。久井町の地元民は、昔この庚申原に「猿をまるで自分の子供のように可愛がり、一緒に暮らしていた老人がいた」と話す。

この老人はまさに「山の長老」として猿たちに慕われ、猿たちは死後もその墓前に訪れ、敬意を表していたという。毎年春の命日には、彼らの子孫にあたる猿たちが山から下り、墓前に集う。庚申原の木々の間に座り込み、猿たちが集う様子を見た者は、まるで古の山神が蘇ったような気分になるという。久井町の人々はこの山の猿たちに手を合わせ、穏やかな春の光の下、ひっそりと敬意を払うのだという。

それでも、クイゴンにまつわる奇妙な噂が絶えない。

興味深いことに、この地域にある「宇根山」という山は、古くから人々に「捨てられた者たちの眠る場所」として知られている。地元の民俗学者たちによると、「宇根山」の「うね」という言葉には、古代の儀式や祭礼的な意味合いが込められているとされ、霊的な噂が絶えない。

この山には、数多くの地蔵や小さな祠が点在し、毎年霊を見たとか、怪異を体験したという話が途絶えない。町の老人たちは、宇根山にまつわる「ヤマンバ=山姥=捨てられた老人の生き残り」という話も少なからず耳にしており、山姥とクイゴンの関係を考えた時、背筋が寒くなると言う。

また、古い伝承をたどっていくと、実はクイゴンという存在が「猿の化け物」ではなく「人間だったのでは?」という説も浮かび上がってくる。かつて宇根山には姥捨ての風習があり、年老いた者がそこで終焉を迎えるという習わしがあったとされる。

そのため、ある老人がクイゴンの噂の発端になったのではないかと囁かれている。その老人は、捨てられた後も奇跡的に生き延び、野生の猿と共に暮らすようになったのではないかというのだ。月日が流れるうちにその姿は猿と見間違うほどに変わり果て、やがて「クイゴン」として町の伝説に定着した可能性もあるという。

今から二十五年ほど前、まだクイゴンの伝説が日常に溶け込んでいた時代、町の人々は自分たちの周囲にいる何者かに対して、見えない緊張感を抱いていた。

比婆郡でヒバゴン騒ぎが巻き起こり、世間が一時的に騒然とした時期、久井町の人々もその騒ぎに感化されて「そう言えばこの辺にも何かそんなものがいた」というような、古い記憶を呼び起こした。こうして、クイゴンの存在はますます色濃く語り継がれ、いまや山間の神秘として、山の中でひっそりと生き続けているのではないかと信じられている。

だが、それはあくまで伝説にすぎない。地域の者たちの話を聞く限り、実際にクイゴンが猿でも人でもない、幻のような存在として今なお山奥で暮らしているのかどうかは分からない。ただ、久井町の人々はその存在を完全に否定することはない。春の山奥、かすかな風にのって古い言葉が聞こえてくるという。クイゴンは今も、山中のどこかで「おにぎり」を手にして、穏やかな顔で人間を見守っているのではないかと、静かに話す地元民もいる。

広島の山間にひそむこの伝説は、幻のように曖昧だ。しかし、それこそが山に生きるクイゴンの本質かもしれない。

[出典:557 名前: あなたのうしろに名無しさんが…… 03/12/05 14:56]

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