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送り番の夜 rw+2,266

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子どもの頃、ひい爺さんからよく昔話を聞かされた。

山奥の村で育った人だった。焚き火の明かりに照らされると、壁に映る影が妙に大きくなった。声よりも、その影の動きのほうが記憶に残っている。

ある夜、爺さんは煙草をくわえたまま言った。「送り番のことは、話さんほうがいいのかもしれんな」

送り番は、村で死者を墓に運び、埋める役目だった。三軒ごとに一組を作り、順番に務める。断ることはできない。理由は聞いたことがない。

その村では、死者の口に鬼灯をひとつ入れる習わしがあった。慰めだとも、道案内だとも言われていたが、子ども心にも、あれは封じるためのものだとわかった。

ある年、五十を過ぎた百姓が首を吊った。土地の裁きに負け、畑を失ったのが原因だと噂された。訴えた相手が、ちょうど送り番の組に入っていた。

葬式は済み、夜、三人で墓所へ向かった。月はなく、提灯ひとつの明かりだけが足元を揺らしていた。穴を掘り、桶から遺体を取り出したとき、手が滑った。死体が頭から穴に落ちた。

どさり、と重い音。

続いて、ぽん、と乾いた音がした。

鬼灯が、口から飛び出していた。

誰も拾わなかった。腹から土をかけ、顔は最後に埋める。それが決まりだった。

雲が切れ、月明かりが穴の底を照らしたとき、死者の目が開いていた。まばたきもせず、ただ眼球だけがゆっくり動いた。

三人のうち、ひとりを探すように。

見つけた瞬間、喉の奥から声が出た。

「お前が送り番か」

それだけだった。恨みも呪いも言わない。ただ確認するような声だった。

三人は逃げた。寺に駆け込み、夜明けまで戸を閉めた。爺さんは、その声が何度も耳の奥で繰り返されたと言った。

夜が明けて墓所に戻ると、遺体は昨夜のままだった。目だけが開いている。誰も、生きていたとは言わなかった。誰も、死んでいるとも言い切らなかった。

訴えた男は、その日から姿を見せなくなった。捜したが見つからない。村はやがて口を閉ざした。

半年後、猟師が山で首を吊った死体を見つけた。誰のものかは、はっきりしなかった。腐敗が進み、顔は判別できなかったという。

ただ、口の奥に赤い実が見えたとだけ、猟師は言った。

それが鬼灯だったのかどうか、確かめた者はいない。

爺さんは最後に、「作り話と思うならそれでいい」と言った。焚き火の向こうで影が揺れた。影は、爺さんよりも背が高く見えた。

私はあの夜、布団の中で目を閉じられなかった。

鬼灯は封じるためのものだと思っていた。だが、もし違うのなら。

死者が口を開いたとき、誰がそれを受け取るのか。

送り番は死者を送る役目だと教えられた。けれど、本当に送られているのはどちらなのか。

三軒ごとに一組。順番は回る。

爺さんの家も、その一軒だった。

そして今、私の家も三軒のうちに入っている。

夏になると、庭に鬼灯が実る。

赤い実を見るたび、ぽん、と音がする気がする。

あれは弾ける音ではない。

口の奥で、何かが移る音だ。

[出典:474 :本当にあった怖い名無し:2012/06/05(火) 00:12:40.90 ID:g7GCb+yj0]

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