俺の生まれ育った町は四国の田舎町で、俺が小さかった頃はまだ旧い風習や考えが残ってた。
389 :本当にあった怖い名無し:2011/06/06(月) 11:13:19.38 ID:r56vx3RrO
例えば、幼馴染みに双子がいるんだけれど、それを年配の人は《忌み子》として嫌っていたり、五感や身体に障碍がある子を、《欠け子》と呼んだりしていた。
つまり、普通には生まれてこなかった子を忌み嫌う風習があったということだ。
こう書くと大変失礼で、お怒りになられる方は多いと思う。
今ではほとんどないらしいが、昭和の終わりまではあったと思う。
町自体がかなり小規模なこともあり、そういう子が生まれるとすぐに噂は広まる。
迫害を受けるようなことはなかったようだが、後ろ指さされたり、遠ざけられたりということはあったようだ。
となると、そういう子は生みたくない。
そこで、妊婦さんに《普通の子》 を生んでもらうための、あるまじないがあった。
それが、この地域に伝わる《被猿》という風習だ。
これは、妊婦さんのいる部屋や病室に木彫りの猿を置き、《忌み子》や《欠け子》の基になるとされる陰の気(災い)を、代わりに被ってもらうというもの。
簡単に言えば身代わりだ。
昔は、障がい児が生まれたり災害があると、それを神や悪霊、呪いなど、目には見えないものに無理矢理結び付けていた。
《被猿》もまたそういうものだろう。
しかし今思えば、そういった風習が1990年代まで日本に残っていたのはすこし怖い。
話が逸れたが、役目を終えた《被猿》は土深くに埋められる。
燃やすと空気に混じって災いが飛散するからダメ。
どこかに封じても、誰かが持ち出すかもしれないからダメ。
水の中は神聖な場所だから、土の中が一番らしい。
ある日、祖母に聞いてみた。
「土に埋めても、土から災いがやって来るんじゃない?」と。
「確かにね。でも、土は長い時間を掛けて災いを薄めてくれる。だから一番いいんだ。でもね、忘れちゃいけない。命は土に還り、花を咲かせたりして循環するだろ?災いも同じだ。決して消えるわけじゃない」
《被猿》は掘り起こされないために、決まった場所にまとめて埋めない。
つまり、今俺の足下にも埋まっているかもしれない。
そう考えるとほんのり怖い。
(了)