中編 ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

三白眼の女【ゆっくり朗読】4700

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霊感のない俺が、だいぶ前に体験した話。

498 :本当にあった怖い名無し:2015/06/23(火) 03:03:54.91 ID:RdZHUr5Z0.net

大学時代の先輩から飲み会に誘われた。

なんでも経営者とか個人事業主が多い飲み会らしい。

俺はこっちに上京したばっかりの新入社員で、慣れない一人暮らしをはじめた頃だった。

俺は大学の先輩に上京してきたことを電話で話し、それから何度か会うようになっていた。

それでちょっとこっちになじんできた時に飲み会に誘われた。

実は先輩、ネットワークのビジネス(MLM)をやってて、久々にあって二、三回目に誘われたんだが、俺には絶対にむかないのでていねいに断った。

先輩は「そっか」くらいでそれ以上の勧誘はなし。それからも先輩とは普通に会ってた。

そして上に書いた飲み会のお誘いがあった。

もしかして何かの勧誘かな?と思って、聞いてみると先輩は「違うよ(笑)俺も友達に誘われただけ」とのこと。

先輩いわく、その友人はネットワークビジネスとは関係ない人だそうだ。

「ただいろんな人がいるし、いろんなこと聞けるんじゃないか」という興味で参加しようと思ったらしい。

そこに俺も誘われた。

なんでも俺と年齢的に大差ない二十代くらいの経営者が多いらしい。

そういう世界もあるんだな、と俺も興味津々で参加した。

で、その飲み会の席。行ってみると十人程の男女がいて、確かにみんな若い。

四十代なんてパッと見いなかった。

で、男連中に混じって女がいたの。仮にこれを幸子と呼ぶ。

第一印象は痩せててちょっと不健康そうに見えた。

皆が皆知り合いじゃないから、飲み物頼んでみんな自己紹介。

みんな「これから会社を設立する」とか、「この会社経営してます」「税理士の勉強してる」とか。

初めて知ったが、先輩も会社立てたいと話してた。

俺はというと、あんまりお金、とか自分の会社、って考えたことなかったから、

「上京したてで、IT系の会社に勤めてます」ってありのままのことをいった。

そしたら誰かが「IT系?なんて会社?」って聞くの。

俺も聞かれてポロリと答えた。

すると何人かから「おおー」とかいう声がもれた。

俺が勤めてる会社はいわゆる大手の企業。

新人だし全然威張れないんだけどさ。ただ名前が知れてる。

そんな感じで自己紹介していき、その幸子の自己紹介になった。

なんと、幸子はすでに自分の会社をもった女社長だった。

それを聞いて俺は素直に感心した。

あとでわかるんだが、幸子の歳は二十代後半。

そして、今、この席にいる大半は幸子の知人らしい。

みんな「さっちゃん」と愛称で呼んでいた。

そして全員の自己紹介が終わってから、談話タイム。

俺なんかは人見知りだし、緊張しっぱなし。しばらくすると、幸子が俺の前に来た。

「はじめまして。幸子です」

「こちらこそ、はじめまして。坂江です」

みたいな感じで話し始めた。

「幸子さん、会社持ってるってすごいですね」

「そんなことないですよー。坂江君は、○○に勤めてるなんてすごいじゃないですかー」

地声なのか作ってるのか、幸子は可愛らしい声をしていて、なんとなくキャバ嬢とかってこんな感じにしゃべるのかなあ、と思った。(実際は行ったことはないけど、イメージで)

「坂江君、今度ご飯食べに行こうよ」とか、「SNSやってますか?」「アドレス交換しよう」とあれよあれよと話を持っていく。

ますますキャバ嬢っぽいなあ、と思ったが、幸子の見た目は、黒髪&黒い服のせいか地味だし、痩せてて不健康そうだからあんまり色気はないんだよね。

で、幸子の会社っていうのが、かなり特殊な世界。

アート系で、体に絵を描くとかいうそういう事業。

俺はそんな世界は知らなかったし、ただただ感心した。

そして俺の従姉妹で美大に行ってる奴がいて、絵画専門でデザイン系の会社に行きたくてもパソコン知識無しで就職に困ってると聞いていたので、その話をしたら、幸子は「仕事紹介するよー」と言ってくれ、会社の名刺ももらった。

そんな感じで、幸子とその場で予定を決めて、また会うことに。

しばらくすると、女の子(以後和子)が一人飲み会に遅れてやってきた。

その和子を見て幸子が「和子久しぶりー」と声をかけて和子も「元気だった?」と返した。

聞くと、二人は高校時代か何かの同級生。

和子は色白で編集業をやっていると言った。幸子の隣に和子がそのまま座ってガールズトークを始めた。

恋人の話で、和子は前の彼氏にフラれて引きずってるとのこと。

「幸子は、あの彼氏とどうしたの?」

「むこうが浮気したから別れたのー、彼氏募集中ー」

そんな会話をしていた。

この飲み会でも大半が男だし、すぐ出会いありそうだよなー、と俺は思っていた。

そのうちみんな酒も回ってきて、男ばっかりだからか、話がだんだん下ネタになってきた。

驚いたのは、幸子はノリノリでそういう話をすること。

ハプニングバーに行った話とか。そのとき俺はそれがなんなのか知らなかったが、幸子が教えてくれた。

俺は地味な印象の幸子の意外な一面を見て、ぎょっとしたが、幸子を知ってる人はそんな話を聞いても驚いてなかった。

なんかだんだん、幸子と今度会う約束なんてしなけりゃよかったかなー、と思った。

そんな感じでその飲み会はお開き。

途中まで誘ってくれた先輩と、帰りの方角が一緒の、飲み会で会ったばかりの宮地さん(経営者)と一緒に歩いていた。

先輩はいろんな人と知り合え、テンション上がってた。

「いやー、宮地さんとも知り合えて、ほかの人たちもすごい人ばっかりで(笑)今日はすごく、ためになりました!坂江はどうだった?」

「みんな面白い人ですね。特に幸子さんとか、ああいう話好きなんですかねー」

「あー幸子?ここだけの話、あいつ男遊びがすごくてな。前に結婚の話もあったのに、なんか彼氏ともうまくいかないしな」

「そうなんですか?おとなしそうなんですけどねー……」

「でも今は年収ン千万円あるから、結婚しなくても大丈夫だよな」

俺&先輩……絶句……

それを聞いてますます幸子に会うのが嫌になった。

なんか色々住んでる世界が違うなって思った。

駅に着いて、そこで宮地さん、先輩と別れた。

そんな感じだったけど、幸子と約束しちゃったし、従姉妹のこともあるし、やっぱりまた会って話をしよう。

別に幸子と付き合うわけじゃないんだし、ただ知人としてならいいだろうって思って、その日は寝た。

で、次の次の週くらいの金曜日。会社帰りに幸子との待ち合わせの場所に行った。

待ち合わせ場所は駅前広場で、すごい人だった。

俺は少し落ち着ける場所にいくと、幸子に《◎◎駅前広場にいます》って内容のメールをした。

すると幸子からすぐに電話がかかってきた。

「坂江くーん、今△△駅なんだ、ごめん、あと十五分くらい時間かかる」って電話。

俺も「了解ー」みたいな感じですぐ終わったんだけど、幸子の電話の声にノイズみたいな音がしたんだよね。じじじじ、みたいなさ。

でも周りもうるさいし、騒音か電波の関係かなあ、くらいにしか思わなかった。

ただ切れる直前に「あ~」っていう子供みたいな声がしてビクッとした。

それもあっちの電車のアナウンスかなって思った。しばらくすると幸子から「◎◎駅についたよ、どこら辺にいる?」って電話が来た。

その電話でもノイズがするんだ。でもさっきのとはちょっと違った。

さっきのはラジオとかのジジジ……っていう、機械の音みたいだったんだよね。

でも今度のはくちゃくちゃっていう、口をくちゃくちゃしてるみたいな音がしてさ、その間にまた子供みたいな声がするんだ。

「きゃふ」とか、機嫌のいい赤ん坊に近い声がする。

「坂江君、どうしたの?」

幸子にそう言われて、俺はあわてて返事をした。

場所を言ったら、俺が今いる場所に幸子が来てくれることになった。

そしてまた電話が切れる直前「あ~」って声がした。

赤ん坊が喜んであげる声にしか聞こえなくなってしまった。

しばらくして幸子到着。

その時もちょっと地味目なワンピース姿。

髪の毛をクリップで挟んで上にあげていた。そして化粧薄めできた。

誰だかわかんなかった(笑)当たり前だけど子供なんか連れていない。

嫌な感じがしたけど、気を取り直して、すぐに適当な居酒屋にいった。

幸子がメニュー表を見て食べ物を選んでいるあいだ、さっきのことが気になってついついジッと見つめてしまった。

幸子はそれに気づいたのか、こっちを見て微笑んだんだけど、なんか寒気がしたよ。

痩せてるし、照明はうす暗い&顔はニキビで肌荒れしてるし、目はギョロギョロしてる。

さっきの変な声のこともあるし、早く話を終わらせて帰ろうと思って、従姉妹の話をとりあえずしてみた。

従姉妹にどんな仕事がもらえるかとか、そういう話。

アルバイトとしての簡単なイベント参加みたいな仕事……は渡せるかもしれない。

でも会社の中心事業は特殊な絵を描く系で、それをやってもらうには講習を受けてもらうとか。

その講習が一講座、二時間で六万くらい。しかも初級から上級とか何段階かある。

とてもじゃないけど、まだ学生の従姉妹にはきついんじゃないかと思った。

「従姉妹は一応美大生だし、そこまでやらないとまずいのか?」

と聞いたが、絵の具の種類が特殊で、しかも限られた時間で《人間の体に描く》のだから、講習に出てもらわないと困る……とのことだった。

幸子はその講習を教えに全国飛び回ってるんだってさ。

それ以外にも書いて欲しいという依頼があればもちろん出張する。

「この間は〇〇県いったんだー」とその時の写真をみせられた。

幸子はしょっちゅうそういった写真をfacebookとかに載せてる。

ほんとに住む世界がちがう。

従姉妹の就職決まるかなーなんて思っていたが、そんな感じで、現実は甘くないなと思った。

「とりあえず従姉妹に聞いてみるよ」といってこの話は終了。

 

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すると幸子は俺のことをいろいろ訊き始めた。

「坂江君、彼女いるの?」

「今いないよ」

「好きな人はいる?」

「うーん特に……」

みたいな流れ。

「坂江君って○○に勤めてるんだっけ?○○って良さそうだよね。坂江君は、結婚願望あるの?」

「今は全然考えてないよ」

と俺がきっぱりと否定すると、今度は自分の話をしだした。

「私、学校卒業したら、すぐ結婚して、今頃は子育てしてるつもりでいたのに。誰か嫁にもらってくれないかなー」

前の飲み会で和子との会話の時も、そう言っていた。

「昔は男の人に食べさせてもらえばいいと思っていた」

「イケメンのお金持ちと結婚したい」

「玉の輿に乗りたい」

と幸子の発言は婚活女そのものだった。

「でも幸子さん、結構いろんな人と付き合ってきたんじゃないの?キャバクラとか務めたことあるのかなーとか思っちゃった(笑)」

と冗談っぽく俺がいうと、幸子はちょっと得意げに昔のことを話しだした。

テ〇クラやってたこと、本当はいけないんだけどテ〇クラで知り合った男とあっていたこととか、お金稼ぐために成人映画に出ようと思ったとか、もういろいろ話しだした。

黒歴史満載、おいおい大丈夫かよって感じ(笑)

そんな時、また「きゃふ」って声がした。

それだけだったんで気のせいかもしれないけれど、一気に怖くなっちゃって、辺りをキョロキョロみまわした。でも子どもがいる様子がなかった。

すると幸子がものすごい低い声で妙な話をしてきた。

「私、結婚すると思ったって言ったでしょ、それはね、お腹に赤ちゃんができたから。でも相手が結婚できない、おろせと言われたからおろしたんだよ。私は仕事の時、いつも憎んでる……」

その時の幸子の顔がすごく怖かった。三白眼で、俺を睨み付けてきてさ。

俺はここまででもすっかり怖くなったが、その後、幸子が言った言葉がすごく怖かったんだ。

幸子はそこまで言うと、突然立ち上がってトイレの方に行ってしまった。

もう俺は怖くなって震えていたよ。

あの子どもの声って、まさか幸子の……

俺は霊感とか何もないはずなのに、そうとしか思えなくなった。

しばらくするとトイレから、幸子が戻ってきた。

「坂江君、どうしたの?」

会った時のふつうの幸子だった。

「さっきの続きなんだけど、私の婚期は三十五歳ぐらいだって、占い師に言われてさあ」
俺は、「???さっきの話は本当なの?」と恐る恐る聞いた。

「さっきの話??」

少し話したんだけど、どうも幸子はさっきの話を覚えていないらしい。

もう怖くなって、ごめんちょっと疲れて気分が悪いとか言って、早々に帰った。

幸子に「近いから、うちに泊まる?」と言われたがていねいに断った。

もうその日は怖かったよ。そして従姉妹には結局仕事を紹介しなかった。

後日、先輩と宮地さん、そして和子のメンツと俺の知らない数人で飲んだんだ。

幸子は仕事でこれなかったらしい。もちろん幸子が来るなら行かなかった。

そこで久しぶりに会ったみんなと、この間の幸子のことを話したんだ。

もちろんオブラートに包んでさ……

席立つ前の、最後の言葉も言わなかった。

幸子のことだが、話を聞いて思ったんだが、結構人に恨まれている気がする。

テ〇クラから始まり、男を取っ替え引っ替え、幸子がふるフる。

人の彼氏や夫を取ろうとする、男にお金を払ってもらって当然だと思っている。

男が飯代を払わないと、悪口を言う。

幸子が今の仕事の技術を教わった親会社から仕事を盗って、独立などまた自分の会社の子が独自に仕事をとってくると、どこで仕事をとったのか、とか、会社を通せ、金よこせと、すごいらしい。

子どもをおろした件ははっきりとはわからなかったが、そういうことがあっても不思議じゃない、とのこと。

金にも男にも貪欲な幸子は、実は周りからあんまり良く思われてないらしい。

ただ表面上は交友関係が広いので、幸子のまわりに集まってるのはみんな暇つぶしとか人脈とかお金目当てなのかな……

最後に。

《*妊婦さんのおなかに絵を描く》という幸子の会社の事業のこと。

和子によると、幸子は同級生で妊娠した人がいると、相手が例え体調が悪いからしなくていいと訴えても、強引に、出張してでもやろうとするらしい。しつこいので、妊娠しても誰も幸子には言わないようにしているらしい。

出張にすると高額出張費用が加算される、宿泊費交通費は別だったと思う。

あの飲み屋で幸子が立ち上がる前に言ったこと……

「仕事だから、ニコニコしてるけど、幸せな家庭をいつも憎んでる。私がああなるはずだったのに。相手が幸せなら幸せなほど、憎い。だから私はいつも呪いをかけている、お腹に触れるたび、死 ね と……」

俺はこれを聞いて震えが止まらなかったんだ。

あの時の幸子、この世の人間の姿とは思えなくてさ。

この話をこの前、美大の従姉妹にしたところ、みんな知らないうちに幸せの絶頂でスキだらけの時に、こうして呪われてるかもしれないと従姉妹は言ってた。

人の念ってすごく怖いと思ったよ……

結局幸子とはそれ以来あっていません。

従姉妹は結局進学して、大学院に行きました。今また就活シーズンだそうです。

(了)

*管理人註belly paint 赤ちゃんの健やかな成長と安産を願い妊婦さんのおなかに絵を描く《ベリーペイント》は、マライア・キャリーがTwitterで披露したことから日本でも知られるようになりました。

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