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中編 r+ ヒトコワ・ほんとに怖いのは人間

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俺は霊感のある人間じゃない。

幽霊を見たこともなければ、心霊スポットに行って鳥肌が立ったこともない。怪談話を聞いても、せいぜい「雰囲気あるな」と思う程度で終わる。

だから今でも、自分が特別な体質だとは思っていない。
それでも、あの夜に聞いた声だけは、どうしても現実だったとしか言いようがない。

大学を卒業してすぐ、俺は上京した。就職先は都内の中小企業で、知り合いもほとんどいない。ワンルームに荷物を運び込み、生活の段取りが少しずつ整い始めた頃、大学時代の先輩から連絡が来た。

飲みに行こう、という誘いだった。
その先輩は、昔マルチ商法まがいの仕事をしていたことがある。俺も一度勧誘されたが、きっぱり断ったらそれ以上は何も言ってこなかった。だから今回も、何か裏があるのではと身構えた。

だが先輩は電話口で笑って言った。
「違う違う。俺も友達に誘われただけ。若い経営者が集まる飲み会なんだってさ」

興味本位で参加することにした。
会場には十人ほどが集まっていた。確かに皆若い。起業準備中だとか、すでに会社を持っているとか、そんな話が飛び交う中で、俺だけが新卒の平社員だった。場違いな感じがして、グラスを持つ手が落ち着かなかった。

その場にいたのが、幸子だった。
痩せた体に荒れた肌。黒髪を無造作にまとめただけで、華やかさとは程遠い。だが彼女は女社長で、参加者の多くは彼女の知り合いらしかった。「さっちゃん」と呼ばれ、自然と輪の中心にいた。

不意に、彼女が俺の前に立った。
「今度、ご飯行こうよ」
声だけが妙に幼く、甘かった。名刺を渡され、流れで会話をした。従姉妹が美大に通っているという話をすると、「仕事、紹介できるかも」と言われた。断る理由もなく、なんとなく連絡先を交換した。

二週間後の金曜。
駅前で待ち合わせていると、幸子から電話がかかってきた。少し遅れるという連絡だった。その時、初めて違和感を覚えた。

通話の向こうで、ジジジ……というラジオのような雑音が混じった。
切れる直前、「……ああ」と、子供の声のような音が耳に残った。
人混みの中だったし、気のせいだと思った。

だが、もう一度電話が来た。
今度は、くちゃ、くちゃ、と何かを噛むような音が混じる。その隙間から、「きゃふ」と赤ん坊の声が聞こえた。

背筋が粟立った。
周囲を見回したが、誰も気にしていない。俺だけが音を聞いているようだった。

現れた幸子は、地味なワンピースを着ていた。
痩せた顔に、不釣り合いなほど大きな目。視線が落ち着かず、ぎょろぎょろと動く。それだけで、嫌な予感が膨らんだ。

居酒屋に入り、仕事の話をしたが、内容は高額な講習費や意味不明なビジネスモデルの話ばかりだった。途中から、彼女自身の愚痴に変わった。彼氏、結婚、玉の輿。感情が唐突に跳ねる。

その時、また聞こえた。
「きゃふ」
耳元で弾むような声。周囲のざわめきの中でも、はっきり分かった。

思わず顔を上げた俺を見て、幸子が低い声で言った。
「……私ね、赤ちゃんができたことがあったの」

空気が変わった。
「結婚すると思ってた。でも、堕ろせって言われた」

笑っていた顔が歪んだ。白目が目立ち、口元だけが引きつる。
「だから、幸せそうな家庭が憎いの。仕事でお腹に絵を描くたびに思うの。死ね、って」

耳の奥が冷えた。
言葉が、内側に貼りつく感覚。

幸子は立ち上がり、トイレに消えた。
その瞬間、耳元で赤ん坊の泣き声が炸裂した。
「ぎゃあああ……」

思わず顔を伏せた。
誰も反応しない。聞こえているのは俺だけだった。

戻ってきた幸子は、何事もなかったように笑った。
「ねえ、三十五歳くらいで結婚できるって占い師に言われたんだ」

さっきの話を覚えていない様子だった。
俺は耐えきれず、体調不良を理由に店を出た。泊まっていけと言われたが、断った。

それきり、幸子とは会っていない。
後になって、彼女に関する噂を聞いた。人の男を奪う。金をせびる。妊婦に執拗に腹の絵を描かせたがる。恨まれているのに、本人は気づかない。

今でも、電話が鳴ると身構える。
雑音の向こうに、本当に人がいるのか、確かめずにはいられない。

[出典:498 :本当にあった怖い名無し:2015/06/23(火) 03:03:54.91 ID:RdZHUr5Z0.net]

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