短編 怪談

僧侶の亡霊~八鉦まかしょ・シャン、シャン、シャン【ゆっくり朗読】1400

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あれは俺がまだ七、八歳の頃だった。

550: 本当にあった怖い名無し 2010/07/09(金) 18:12:27 ID:jK+xYIsE0

正確な時節は覚えていないが、おそらく冬だったような気がする。

ちなみに当時の俺は怖いものが極端に駄目で、映画学校の怪談とかで泣く位に駄目だった。

当然夜が嫌いで、部屋が真っ暗だと怖くて寝れないビビり小僧だった。

幸運だったのは、俺は三人姉弟の末っ子で、三人とも同じ部屋で寝ていたことである。

さておき、夜も更けた頃、ふと遠くから聞こえてくる音に俺は目を覚ました。

いや、今となっては音で目を覚ましたのかその時偶々目が覚めてしまったのかはわからないが。

それは何かの金属のような音だった。

――シャン

――シャン

――シャン

音は、外から響いていた。音は、幾重にも重なって聞こえる。

当時の俺にはちょうどタンバリンの音に聞こえた。

それだけならなんということはないのだが、その音は、段々と近づいているような気がした。

――シャン

――シャン

気のせいではなく、間違いなく近くなっていた。正体不明の音に俺は怖くなった。

泣きそうになって寝ている姉を起こそうと思ったが、恐怖で身体が硬直していて声も出せなかった。

――シャン

――シャン

およそ二秒おきに、断続的に鳴る音は、明らかに近づいている。

音は、家のすぐ傍まで来ていた。俺は窓の外を覗こうかと一瞬思う。

『シャン!』

しかし、家の前で一際大きく鳴り響いた音に、俺はおののいて布団を頭から被った。

――シャン、シャン、シャン……

離れていく音が聞こえなくなるまで、俺は布団の中で震えていた。

その日、怖くていつ眠りについたか覚えいていない。

翌日起きて、同じ部屋で寝ていた姉にその話をしても、そんな音は聞いていないと言う。両親に訊いてみても、答えは同じだった。

だが誓ってもあれは夢などではなかった。

「シャン」という音が耳から離れず、俺はそれから数日寝るのが怖くなって姉の布団に潜り込んだりしていた。

……ここまでなら良かったのだが。

 

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数年後、俺はまた恐怖することになる。

俺は上述した恐怖体験のことなど忘れ、小学校高学年になっていた。(中学一年だったかも)

で、その当時流行っていた某少年誌の漫画がある。

妖怪とか霊とかが出てくる漫画だ。

姉がコミックスを買っていたので、俺もよく読んでいた。

で、その漫画の何巻目かに、とある妖怪の話がある。

錫杖を持った僧侶姿の亡霊の集団がいて、一人が成仏すると、誰かを殺して集団に取り込んでしまうのだとか。

迷惑な亡霊だなぁと思いながら、俺は話の終わりにある妖怪の説明コーナーに目を通していた。

すると、なんと目撃証言があるという。本当にいたらマジ怖いなおい、と思いつつも、興味津々に読む。

目撃された地名を見た瞬間、俺は半笑いで固まった。

《山口県徳山市》

錫杖、集団の亡霊。タンバリンの、重なった音。

それらのキーワードが、俺の眠っていた記憶をよみがえらせた。

『シャン!』

顔がサーッと青くなって、あの時の、あの音が、耳に響いた気がした。

その時の戦慄は今でもはっきり覚えている。

もし、あの時窓の外を覗いていたらと思うと……

考えただけでも、未だに寒気がする。

補足

562: 本当にあった怖い名無し 2010/07/09(金) 18:57:44 ID:jK+xYIsE0

『シャン』書いた者ですが補足。

投下したし記念に調べなおしたらみウィキさんに載ってて笑った。

山口県徳山市(現・周南市)では、僧侶の姿の七人ミサキが鐘を鳴らしながら早足で道を歩き、女子供をさらうという。そのために日が暮れた後は女子供は外出しないよう戒められていたが、どうしても外出しなければならないときには、手の親指を拳の中に隠して行くと七人ミサキの難から逃れられたという。

マジ洒落にならん。寒くなってきたぞおい(笑)

 

563: 本当にあった怖い名無し 2010/07/09(金) 19:02:31 ID:0jQakCAUO
>>562
なんか霊柩車が通る時にも親指隠すよね。

それ位、縁起が悪い事なのかな?

 

565: 本当にあった怖い名無し 2010/07/09(金) 19:09:27 ID:jK+xYIsE0
>>563
そうみたい。
数年前にウィキで調べたときはのってなかった気がするんだけど……
改めて恐怖。

俺の住んでた所以外にも、伝承とか伝わってる県はあるらしい。
いまさらながら寝るのが怖い。

関連話

⇒ 七人みさき

⇒ 七人坊主

追申

八鉦(やっしょう)七道者による金叩(かねたたき)・八柄鉦/八丁鉦とも。

まかしょ ⇒ 江戸時代、白頭巾に白衣を着け、寒参りの代行をするといって江戸市中を巡り歩いた願人坊主。子供に天神像を刷った紙を撒いたので、子供らが「まかしょ、まかしょ」とはやしたことから由来する。

(了)

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