これは、ある掲示板で話題になった恐ろしい出来事だ。
投稿者が小学生だった頃、近所にある古びた寺に通い詰めていたという。寺には七十歳くらいの温和な住職が住んでいて、彼は境内に遊びに来る子どもたちを見守り、時にはお菓子までふるまってくれる優しい存在だった。投稿者も友人のタカシと共に、放課後になるとよくその寺で過ごしていた。寺は地域の集会所としても使われ、住職は町の人々から深く信頼されていた。
ある日、住職が投稿者とタカシに「おもしろいものがある」と言って、小さな人形を見せてくれた。それは赤い和服に白い顔、ぼさぼさの髪をした、人形にしては不気味なほど年老いたように見える造形だった。髪は薄汚れ、かつては鮮やかだった和服も今では色褪せて、古びた様相をしていた。住職が人形の頭を掴むと、不気味な声で「……ぁ……ぃぎ……ぃぃ」と呻いたのだ。驚く投稿者たちを見て、住職は愉快そうに笑い、人形の喉や膝を押して、さらにいろいろな鳴き声を出させた。その音色には苦しげな響きがあり、どうやら関節を強く押すと特に激しい声をあげるらしかった。
その人形の奇妙な性質に最初は面白がっていた投稿者だが、次第に心に不快感が積もっていく。住職は毎晩その人形を弄んで「夜はもっといい声で鳴く」と、まるで悪趣味な儀式のように扱っていた。投稿者は気味の悪さを覚えるようになり、寺から足が遠のいていったが、タカシは住職と人形に執着し続け、頻繁に寺を訪れていた。
それから一年後、住職が病で亡くなった。住職の甥が寺を引き継ぎ、大掃除の折に寺に預けられていた霊的なものを整理し始めた。その中には例の人形も含まれていた。住職の甥が処分を決めていたその人形を、タカシは欲しいと言い張り、結局持ち帰ってしまったのだ。
後日、タカシの家に遊びに行くと、例の人形がクローゼットにしまってあることが分かった。タカシは興味を失ったかのように見えたが、タカシの家では家庭の問題が深刻化していた。彼の父親は働かず、酒に溺れては家庭内暴力を振るう男で、タカシの顔には絶えず痣が絶えなかった。数日後、タカシの父親が急死する。葬儀でタカシの姿を見かけず、心配になった投稿者は彼の家を訪ねた。
家に到着すると、家の明かりが消えており、呼び鈴にも反応がない。不安に駆られた投稿者は無断で家に上がり、タカシの部屋の前で異様な音に気づいた。(ドンドンドン)という鈍い音に混ざって、苦悶のうめき声のようなものが聞こえてくる。静かにドアを開けると、タカシが無表情のまま何かを布で包んだ小さな物体に拳を打ち下ろしていた。その物体からは呻き声のようなものが漏れ出ており、よく見るとあの人形だった。タカシは投稿者を一瞥すると無言でニヤリと笑い、人形に「いい声で鳴くようになった」と言ってさらに拳を振り下ろす。
しかし、その人形の顔は以前と違っていた。前は長い白髪で老女のような顔だったのに、今は黒い短髪になり、顔の輪郭は男のように変わっているのだ。不審に思った投稿者がタカシに尋ねても、タカシはそれを無視し、人形を拳で殴り続けた。その低く苦しげな声がいつまでも部屋に響く。タカシが憑かれたように人形を痛めつける姿に恐怖を感じた投稿者は、急いで部屋を後にした。
その後、タカシは母親と共に引っ越してしまい、投稿者は二度と彼と会うことはなかった。
二十年の時が流れ、投稿者は偶然、呪物に詳しい人物から「呪いの人形」に関する話を聞く。それは殺した相手の魂を人形に閉じ込め、永遠に苦しめ続けることができるというものだった。あの人形が本当にそのような呪物だったかどうかはわからない。ただ、住職の死後、人形の姿がタカシの父親に似た姿に変わったこと、そしてあの部屋で響いていた呻き声が今でも耳にこびりついて離れないという。それを思い出すたびに、背筋が凍る思いがするのだという。
(了)
[出典:http://toro.2ch.sc/test/read.cgi/occult/1438447220/l50]