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オレンジ色の悲鳴 rw+2,472

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小学五年のとき、一度だけ、花の悲鳴を聞いたことがある。

そんなことを、つい最近まで忘れていた。

思い出したきっかけは、Amazonプライムで昔の『探偵!ナイトスクープ』を観たことだった。四つ葉のクローバーの声が聞こえるという少女が出てきて、それを見ているうちに、ずっと沈んでいた記憶が急に浮かんできた。

あの年、実家の前の道路が拡張されることになり、庭の一部が削られることになった。

母はそれほど気にしていなかった。道路との境目にはチューリップや水仙が咲いていたが、きちんと作った花壇ではない。昔、余った球根を適当に埋めたら、毎年勝手に芽を出すようになったものだった。

少なくとも、その日までは、自分もあの花に何の思い入れもなかった。

工事の日、学校から帰るとランドセルを玄関に放り投げ、そのまま外へ飛び出した。

ショベルカーが庭を壊すところを見たかったのだ。

ヘルメットをかぶった作業員たちが行き来する中、ショベルカーのアームが低い音を立てて動いていた。鉄の爪が地面に食い込むたび、土の塊が持ち上がる。乾いた土とちぎれた草の匂いが、むっとした風に混じっていた。

花も一緒だった。

チューリップも水仙も、土ごと掘り返され、根をむき出しにして転がっていく。

それを、何とも思わず眺めていた。

オレンジ色のチューリップのすぐ脇に、ショベルカーの爪が入るまでは。

女の悲鳴がした。

耳を塞ぎたくなるほど大きな声だった。

反射的に周りを見た。

誰も振り向いていない。

作業員たちはそのまま動いていた。近所の人が何人か見物していたはずだが、騒いでいる人はいなかった。

もう一度、チューリップを見た。

花弁が揺れていた。

その瞬間、なぜそう思ったのかは今でも分からない。

あの花が叫んだ。

そう思った。

次に気づいたときには、ショベルカーの前へ飛び出していた。

作業員のおじさんが慌てて機械を止めた。鉄の爪が地面の少し上で止まり、その下でオレンジ色の花が揺れていた。

何を言ったのか、細かいところまでは覚えていない。

たぶん、「これ、移動させたい」と言ったのだと思う。

口に出した途端、急に恥ずかしくなった。

さっきまで花が掘り返されるのを面白がって見ていた子どもが、一輪のチューリップを助けたいと言っている。

けれど、おじさんは笑わなかった。

「いいよ」

そう言って、少し待ってくれた。

自分はしゃがみ込み、チューリップの根元を両手で掘った。根を切らないように土ごと持ち上げ、工事にかからない庭の端へ運んだ。

別の作業員もスコップを持ってきて、近くに残っていたチューリップを何本か掘り起こしてくれた。

それらを並べて植え直した。

夕方の風が吹くと、花が一斉に揺れた。

そのときは、それで助けられたと思った。

その夜、夢を見た。

姿は何も出てこなかった。

暗いところで、女の声だけがしていた。

昼間のような悲鳴ではない。

耳元で何かを繰り返し囁いている。

何を言っているのか聞き取ろうとすると、声が少し遠ざかる。諦めると、また耳のすぐそばまで戻ってくる。

それを何度も繰り返した。

朝、目が覚めてすぐ庭へ行った。

植え直したチューリップは、全部しおれていた。

昨日まで開いていた花弁が垂れ、茎も力を失っていた。一本だけではない。移したものは全部だった。

根元の土を少し触ると、黒ずんだ根が見えた。

それ以上は触らなかった。

母に何か言ったかどうかは覚えていない。

ただ、その日から花に近づかなくなった。

何十年も経った今でも、自分では花を植えない。

花屋の前を通ることはできる。人から花をもらうこともある。

ただ、土に植えるのだけは嫌なのだ。

理由を聞かれても、あの話はほとんどしたことがない。

自分でも、子どもの頃の思い込みだったのではないかと思っている。

工事の音を悲鳴と聞き違えただけかもしれない。

植え替え方が悪くて、チューリップが枯れただけなのかもしれない。

夢については、なおさらだ。

だから、ずっと忘れていた。

『探偵!ナイトスクープ』を観るまでは。

四つ葉のクローバーの声が聞こえるという少女を見ながら、あの日のことを急に思い出した。

ショベルカー。

オレンジ色の花。

あの悲鳴。

そして、夜の囁き。

そこまで思い出したところで、もう一つだけ、記憶が戻ってきた。

翌朝、枯れたチューリップを見に行ったときのことだ。

しゃがんで根元を触ったあと、立ち上がろうとして、土の下から声を聞いた。

笑い声だった。

長い間、自分はそれを夢の続きだったと思っていた。

でも、違う。

そのとき自分は、もう起きていた。

それを思い出してから、花屋の前を通るときは、なるべく足元を見ないようにしている。

花を見るのが怖いからではない。

店先の鉢植えの前を通ると、ときどき土の中から聞こえる。

あのときと同じ女の声が。

今度は、何を言っているのか分かる。

「ここじゃない」

[出典:913 :本当にあった怖い名無し:2019/12/21(土) 00:23:34.70 ID:9xfrE0vi0.net]

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