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六体半のお稲荷 r+3,924

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卒業まで、もう数えるほどの日しか残っていなかった頃のことだ。

学年主任の皆藤先生が、ぽつりと口にした「この中学校の怖い話」を、いまだに忘れることができない。

あのとき教室にいた同級生の顔を思い出すと、誰もが無理に笑って誤魔化していた。だが、先生の目だけは笑っていなかった。あれは嘘や脅しではない。重い現実を引き渡すように、淡々と語られていたのだ。

――ここからは、聞いたままを一人称で書き残しておく。

***

うちの中学はできて十数年ほどの新しい学校だった。校舎もグラウンドも整然としていて、まだどこか病院のように白々しい匂いを漂わせていた。
皆藤先生は、ちょうどその学校が建てられた年に赴任してきたらしい。教師人生のスタートを、ここで切ったのだという。以来ずっと勤め続け、やがて学年主任になった。

先生が最初に不気味さを覚えたのは、赴任して数日後だった。

四月の朝、誰よりも早く登校し、校舎の鍵を開けるのが日課だった先生は、昇降口へ向かう途中で足を止めた。
校庭の片隅にある池に、赤や白の鯉が何匹も浮かんでいる。全て、ひっくり返っていた。

「不良が毒でも入れたんじゃないか」

そう思って、すぐに業者を呼び調べてもらったが、毒も病気も確認されなかった。原因不明の大量死。新しい学校での出だしとしては、嫌に不吉な幕開けだった。

その不安は、数日後には確信に変わった。

ある朝、いつものように登校した先生は、屋上から外壁を伝って水が滴り落ちているのを見た。水道管の破裂かと思い、屋上へ続くドアを開けようとしたが、錠前を外しても扉はびくともしない。
不審に思い、後から来た腕力自慢の先生二人を呼んで、三人がかりで押した。

その瞬間、どっと水が流れ込み、三人は階段を転げ落ちた。屋上に溜まっていた大量の水が、一気に噴き出してきたのだ。

原因は、屋上の貯水タンクが夜のうちに破損し、屋上全体が貯水槽のようになっていたらしい。建てられたばかりの校舎でそんな不具合が起きるのは奇妙だった。

それで終わればただの事故だ。しかし、不気味なことは次々に続いた。

数週間後、学校の裏手に広がる湿地帯で水死体があがった。
発見したのは朝練をしていた野球部員。ボールを探しに湿地へ入り込み、泥の中に沈んでいた男性を見つけた。

警察の調べによれば、その男性は近所に住む初老の住人で、酒に酔い、駅からの帰り道に学校を近道しようとしたらしい。だが湿地で足を取られ、そのまま溺死したのだという。

さらに、夏にはもっと深刻な出来事が起きた。
プールで授業中に女生徒が溺れて亡くなったのだ。

プール開きの際には神主を呼び、お祓いを済ませていた。それでも事故が起きた。さすがに異常を感じた校長は、知り合いの女性霊能者を呼ぶことにした。

その日、霊能者は校門をくぐるなり蒼ざめ、低い声で告げた。

「この学校が建てられる前に、お稲荷さんのお社があったはずです。まず、それがどこに移されたのか調べてください」

誰も知らなかった。校舎が建っているのは、もともと小高い丘で、それを削って湿地を埋め立て、グラウンドを作った土地だった。

地主の老人に話を聞きに行くと、確かにそこには小さなお社があったという。自分は土地を譲る際に、必ず丁重に移転して祀ってほしいと建設会社に頼んだ。
しかし元請けは下請けに任せ、下請けは「元請けがやったと思った」と言い、結局そのまま取り壊してしまったことが判明した。

霊能者は、さらにこう言った。

「そのお社には七体のお稲荷さんが祀られていました。陶器の小さな像です。今も学校のどこかに埋もれているはずです。すぐに探し出してお社を建て、祀り直しなさい。これまで四度、水にまつわる出来事が起きています。あと三つ、大きな惨事が起こるでしょう」

半信半疑のまま、先生たちは探し始めた。すると、信じがたいことに、次々と陶器の稲荷像が見つかった。

校門脇の地面を掘ると、白い顔の狐が泥にまみれて出てきた。
野球部のグラウンドからも出てきた。
さらに、職員室の応接セットを動かすと、その下からも転がり出た。

まるで意図的に「見つかるように」配置されていたかのように、七体の稲荷像は散らばっていた。

しかし、七体すべてを揃えることはできなかった。六体半――最後の一体は割れており、残りの半分はどうしても見つからなかった。

校長が霊能者に相談すると、こう告げられた。

「それはお稲荷さんの警告です。もし七体すべて揃えば、あなた方は今回の出来事を忘れてしまうでしょう。けれども半体足りないのなら、忘れずに祀り続けるはずです」

以来、校舎の裏手に小さなお社が建てられ、六体半の稲荷像が今も祀られている。

皆藤先生は、窓の外に見える林を指差しながら言った。

「ほら、今もあそこにあるんだ。ただな、七体目の半分は、いまだに見つからないままなんだ」

教室に沈黙が落ちた。
卒業を目前にして、まるで呪いのような記憶を背負わされた気がした。

もし、この話を他の学年の生徒も聞かされていたとしたら……。
あるいは、誰かが最後の半身を見つけてしまったら……。

そう考えるだけで背筋が冷たくなる。

今となっては、その市も合併で消え、中学校も別の名前に変わってしまった。だが、あのお社は、今でも林の中にひっそりと残っている。
そして、最後の半身だけが、まだ校舎のどこかで息をひそめているのだ。

――あの日、先生の目が笑っていなかった理由を、今ならわかる気がする。

[出典:648 :本当にあった怖い名無し:2007/06/21(木) 22:30:56 ID:nmdMEMew0]

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