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接続済みの人生 rw+2,458-0212

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正直、最初は母親に無理やり連れて行かれたと言ったほうが近い。

自己啓発の集まりだと聞いた時点で帰りたかったが、親戚が最近通い始めたらしく、「若い人も来たほうがいい」と半ば強引に予定を押さえられた。場所は地元の公民館の和室。六畳ほどの狭い部屋に座布団が円形に並べられ、十人ほどの年寄りが静かに座っていた。

『家城の杜』と呼ばれていた。正式名称はもっと長いが、誰もそれを口にしなかった。中心にいたのは柔らかな声で話す五十代の女性と、その弟だという男。宗教ではない、心理学の研究会だと説明された。

内容は当たり障りのないものだった。「言葉は現実を形づくる」「他人の話を自分事として受け止める」そんな話に、参加者たちは深く頷いていた。違和感はあったが、害はなさそうだと思った。

空気が変わったのは、話題が「時間」に移ったあたりからだ。

女性は穏やかなまま言った。

「時間は人ごとに流れが違います」
「人生は、選び直すことができるんです」

弟が続けた。

「過去は固定されていません。接続次第で、再構成できます」

誰も驚かない。むしろ当然のことのように頷いている。その空気の中で、俺の名前が呼ばれた。

「一番若い方、試してみませんか」

逃げ道はなかった。中央の座布団に座らされ、目を閉じさせられた。何かの音源が流れ、断片的な人生の話が読み上げられる。戦後に商売を当てた女の話、重い病気を乗り越えた男の話。やがて、俺自身の話へと移っていった。

どこからが誘導で、どこからが自分の記憶だったのか分からない。

途中で、障子の向こうから強い光を感じた。目を閉じているのに昼の眩しさが分かる。開始は十八時だったはずだ。だが確かに昼の光だった。

終わった時、窓の外は夕焼けで、隣の老婆が「日が長くなりましたねぇ」と笑った。

帰宅後、母に何時に終わったかと聞いたら、「お昼過ぎには帰ってきたじゃない」と言われた。

そんなはずはない。開始は夕方だった。

スマホの履歴を見ると、十五時台にコンビニで決済している記録があった。レシートも財布に入っている。だがその時間、俺は公民館にいたはずだ。

さらにおかしいことがあった。

俺は一人暮らしだと思っていた。だが部屋の郵便受けには、母名義の公共料金の明細が届いていた。しかも住所は実家のままになっている。管理会社の名前を思い出そうとしても出てこない。契約書も見当たらない。

母に電話すると、「何言ってるの、あんたはずっと家にいるでしょ」と言われた。

だが俺の目の前には、確かにワンルームの台所がある。

アルバムを開いた。子供の頃の写真だ。写っているのは俺だが、背丈も体格も記憶と違う。俺はずっと健康で、学校も休まなかったはずだ。だが写真の裏には「入院明け」と母の字がある。

母に尋ねると、「あんたは小さい頃、ずっと病弱だった」とあっさり言われた。

違う。俺は健康だった。風邪すらほとんど引かなかった。

翌日、通帳を記帳した。見覚えのない振込があった。七万円。振込人は俺自身になっている。二週間後の『家城の杜』参加費。

申し込んだ記憶はない。

親戚に連絡すると、「次も楽しみだね」と言われた。「この前は上手に接続できたみたいよ」とも。

「何を接続したんだ」と聞くと、笑ってこう言った。

「あなたの健康な時間、少し分けてもらったのよ。おじいちゃん、最近すごく元気でしょ」

その言葉を聞いた瞬間、膝が震えた。

最近、たしかに体が軽い。寝不足でも平気だ。だが昨日から、知らない咳の癖が出始めている。胸の奥が、じわりと重い。

スマホに新しい写真が増えていた。公民館の和室で、円になって座る年寄りたち。その中央に座っているのは俺だ。だが表情が違う。目の奥が、まるで他人のようだ。

その写真を拡大すると、円の外側にもう一つ座布団がある。そこに、若い男が座っている。

見覚えのない顔だ。

だが、どこか自分に似ている。

二週間後の予定表には、すでに印がついている。俺の字だ。

そして、カレンダーのその日付の横に、見慣れない一文が書き込まれていた。

「次は、受け取る番」

俺はいつ書いた。

それでも、行かなければならない気がしている。確かめるためではない。

足りない部分を、埋めるためだ。

最近、夜になると知らない老人の記憶が浮かぶ。戦後の闇市の匂い。果物の木箱。畳の上に置かれた大金。

それが懐かしい。

もしそれが俺のものではないとしたら。

俺は誰の人生でできている。

あるいは。

今ここでこれを書いている俺は、本当に最初の俺なのか。

机の上には、座布団が一枚置いてある。

持ち帰った覚えはない。

その縁に、小さく名前が縫い込まれている。

俺の名前だ。

だがその下に、もう一つ、消しかけの文字がある。

読めない。

読めないはずなのに。

それが、次に座る人の名前だと、なぜか分かっている。

[出典:1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2013/03/11(月) 07:32:16.67 ID:HjlMjMvL0]

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