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変身する母 r+3408

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これは、かつて同僚だった山田さん(仮名)から聞いた話だ。

彼の母親には、ごく普通の日常に奇妙な異変が混じり込む「特別な日」が年に一度ほど訪れるという。

母親はどこにでもいるような小柄で丸顔の中年女性だそうだ。近所の八百屋で立ち話をしていれば誰もが振り返ることもない、そんな「普通」の人だという。しかし、その「特別な日」になると、彼女はまるで全知全能の存在に近づいたかのような能力を発揮する。山田さんは子どもの頃、その日の母親を「ウルトラの母」と呼んで兄と共に畏敬の念を抱いていたそうだ。


その日は決して事前に分かるものではない。ただ、朝目覚めた瞬間から母の挙動が変わるのだという。
例えば、家族がそれぞれ学校や仕事に出かける準備をしている間、母親は何の前触れもなくその日の天気を分単位で予測し始める。「10時15分から30分間だけにわか雨が降るよ。だから自転車はやめておきなさい」と言ったように。その予言は百発百中だ。

さらに不気味なのは、家族が抱えている秘密や小さな嘘が、その日に限ってすべて見破られてしまうことだという。山田さんが学校でこっそりサボっていたこと、兄が友人と少し危ない遊びをしていたこと、そんな些細な隠し事までまるで手に取るように暴かれてしまう。

日常生活でもその能力は顕著だ。家の中に紛れ込んだ蚊や蜘蛛の存在にすぐ気付き、瞬時に駆除する。運転中は、まるで道路状況が頭に浮かんでいるかのように信号が全て青のルートを選ぶ。「話しかけよう」と思った瞬間には既に返事が返ってくることも珍しくない。

小学生の頃は、その日の母親を誇らしく感じた。どんなに遠い場所で怪我をしても、母親は正確なタイミングで現れ、手当をしてくれたからだ。しかし、高校生になると事情は変わる。兄は友人たちと悪ふざけをしようとするたび、母親からポケベルで呼び出される始末。山田さん自身もデートがバレてしまい、「ウルトラの母の日」はただの憂鬱な日となった。二人はその日を回避するために登校日なら放課後すぐ帰宅し、休日なら家に籠るようになった。


ある年、家族全員が「ウルトラの母」の能力を目の当たりにした事件が起きた。
隣家で夫婦喧嘩が激化し、父親が仲裁に入った。その場で隣の旦那が逆上し、包丁を振り回したのだ。修羅場の空気が凍りつく中、母親が現れた。包丁の一撃を紙一重でかわし、相手の動きを完全に見切っていたらしい。瞬く間に掌底で顎を打ち抜き、旦那を失神させた。

その光景を見て、山田さんはこう確信したという。「ウルトラの母なら範馬勇次郎にだって勝てるかもしれない」と。


能力の発現には一定の法則性があるようだった。年に一度ほど現れるその日が、ある年は六月で、翌年は四月か五月にずれ込むことがあった。逆に半年後にもう一度訪れることもある。その間隔の理由は分からないが、母親の性格や態度に変化はなく、エスパーのような能力だけが突如として現れるのだという。

現在もその「特別な日」は訪れているらしい。その日を迎えるたびに、山田さんは軽率な行動を慎むように心掛けているという。

彼は最後にこう語った。「あの日の母さんは、ただの人間じゃない。何かに『なっている』んだ。でも、それが何かは誰にも分からない。ただ、あれは俺たちの知る母さんではないことだけは確かなんだよ」

山田さんの目には、どこか懐かしさと恐怖が入り混じったような光が宿っていた。

(了)

[出典:672 :本当にあった怖い名無し:2016/07/24(日) 10:22:18.43 ID:eebuVqDZ0.net]

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