これは、信じてもらえないと思うんです。
でも聞いてくれるだけで嬉しい。俺みたいなのが、こういう話をしたところで笑われるか、病人扱いされるか、まあそのへんだってのは分かってるんですけど、それでも、どこかに吐き出したいと思ってしまったんです。聞いてもらえるだけで救われる。
昔から変なものがよく見える体質だったんですよ。
家ではラップ音が四六時中鳴るし、天井裏からは誰かの話し声みたいなのが漏れてくるし、夜になると布団の隙間から誰かが覗いてる気配がする。誰にも信じてもらえなくて、夜眠るときは小さい人形を抱いて寝てました。あれが無いと本当に怖くて、眠れなかったんです。親も笑って取り合ってくれなかった。
それで、自分でなんとかしようと体を鍛え始めた。
筋肉をつければ、幽霊が襲ってきても殴り倒せるんじゃないか、そんな子どもみたいな発想。でもこれが案外効いたのか、見た目はバケモノじみた体つきになって、その頃から変な現象がぴたりと止んだんです。不思議なくらい、何も起こらなくなった。
大人になって社会に出たけれど、仕事が合わなくて心を壊してしまい、しばらくニートになった時期がありました。
時間だけはある。ふと、昔見たあれらの現象が何だったのか、今の自分なら正面から向き合えるんじゃないかと思ったんです。どうせなら全国の心霊スポットや神社仏閣を巡ってみよう、と軽い気持ちで車を走らせ始めました。
恐山も行きました。あそこは本当に、良かった。あの世とこの世の境目って、本当にあるんだなって感じさせてくれるような空気で、硫黄の匂いに包まれて、駐車場で一晩寝てもぜんぜん平気だったくらい居心地が良かった。神の懐に入ってるような安心感があった。
でも、ぜんぶがそういう場所ばかりじゃなかった。
本当に、何かと出会ってしまったんじゃないかと思う出来事が二つあります。ひとつは岩手、もうひとつは広島。まずは岩手から話しましょうか。
遠野市ってありますよね。昔話や妖怪の話がいっぱいあるところ。
その中に「カッパ淵」っていう場所があるんです。観光地なんですけど、まあ正直言って何も無い田舎道で、自転車道が整備されてるくらいの山間部。のんびりしてて気持ち良かった。
で、そこをぶらぶらして、そろそろ帰ろうかって時に見つけたんです。
潰れかけの祠。小さな屋根のついた木の箱が道端にあって、雪で潰されたのか、半壊して扉が半開きになってたんです。
最初は、お地蔵さんでも祀ってあるんだろうなと思って、中をのぞいた。
でも、覗いた瞬間、なぜか猛烈に吐き気がこみ上げてきた。胃の中がぐるんとねじれて、手足の力が抜けていく感覚。中にいたのは……何か、像みたいなもの。エビス様の小さい置物にも見えたけど、形が明らかにおかしい。高熱で溶けかけたような、笑ってるようで怒ってるような、見てはいけないものっていうのは、たぶんこういうものを言うんだと思った。
俺はかなりグロ画像にも耐性があるつもりだったんです。
ネットの陰惨な映像や写真も、平気だった。でもこれは違った。目が拒否する。脳が拒否する。見ていたら本当に倒れると思った。
慌てて祠の扉をそっと戻して、しばらく地面に座り込んでました。
しばらくしたら吐き気もおさまってきて、体も動くようになってきた。もう一度見てみようかとも思ったけど、あれは、二度と見てはいけないと思った。写真に撮るなんてもってのほか。どうせ写らないだろうけど。
その像が祀られてた意味も、どうして誰も管理してないのかも、分からない。
ただ、あれは人が祀ったものじゃない。祠の形だけ人間が作ったけど、中身は違う。あれを祀っているんじゃなく、封じてるんだ。……今では、そんなふうに思ってる。
さて、もうひとつの話は広島、尾道。
ここも神社仏閣が多くて、坂の街として有名ですよね。俺も観光がてら、千光寺に寄ってみたんです。ゲームで見たことある景色もあって、楽しかったですよ。陽が落ちるまで歩き回って、夜になって適当なビジネスホテルに飛び込みで泊まった。まあ、よくある古いタイプのホテルです。
風呂に入って、ベッドに横になってたら、どこからかチリンチリンと風鈴の音がしたんです。
十月の終わり、寒くなってきた頃だったので、風鈴なんか風情を通り越して寒気がする。ふざけてるなって思いながら最初は無視してたんですけど、どうにも耳障りで眠れない。
不思議なことに、その音は部屋のどこか、はっきりと「空中」から聞こえてくるんです。
窓を開けても聞こえない。廊下では鳴ってない。でも部屋に戻ると鳴ってる。しかも壁でもない。テレビでもエアコンでもない。空気の中に音源があるような……そんな気味の悪さ。
最初のうちは慣れたふりして無視しようとしたんですけど、
あまりにしつこくて、寝入りばなに二〇秒ごとに「チリン……チリン……」って鳴られると、もう眠れるもんじゃない。疲れてたはずなのに、全然眠れない。
諦めてホテルを出て、車の中で寝ました。
朝、フロントには何も言わずチェックアウトしました。言ったところで「は?」って顔されるだけだと思ったから。
全国のスポットを巡って、明確に「これは変だ」と思ったのはこの二件だけです。他にも妙な気配とか、誰もいないはずの影とか、そんなのはざらにありました。でもあれほど身体に来たのは、あの祠と、あの風鈴だけ。
信じるか信じないかは、もちろんおまかせします。
ただ、遠野のカッパ淵の近くにあるその祠、今もあるかどうかは分かりませんが、Googleストリートビューじゃ見えないところにあります。たぶん、あの像は今も、そこに……。
[出典:55 :本当にあった怖い名無し:2021/11/14(日) 16:27:44.51 ID:+jAEfwSv0.net]