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金縛り実況録画 r+1365

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奇妙な体験だった。振り返ると、あの日の記憶は今でも鮮明に脳裏をよぎる。

金縛り。その言葉自体はありふれているし、多くの人が経験する現象だという。一般的には「脳の錯覚だ」と説明される。実際は眠っているだけなのに、脳が覚醒していると錯覚することで、体が動かないように感じる――そんな話だ。俺もその説を信じていた。信じていた、あの日までは。

だが、俺には一つの疑問があった。もし金縛りに遭っている最中の自分を第三者的な視点から観察したらどう見えるのだろうか。体が動かないという状態がただの錯覚なら、外から見れば単に寝ているだけのはずだ。逆に、何か異常が起きているなら、それも記録できるはず。そう考えた俺は、ビデオカメラを使って検証することにした。

方法はシンプルだった。寝る前にカメラをセットし、翌朝映像を確認する。それだけのことだ。だが、当然ながら都合よく金縛りに遭うわけもなく、計画を始めてから二ヶ月ほどは空振りの日々が続いた。

そして、その「夜」がやってきた。

疲れているわけでもなく、いつもと変わらない夜だった。俺は期待せずにベッドに入った。感覚的に四時間ほど眠った頃、突如として体の奥底から嫌な感覚が襲ってきた。あの金縛りの前兆だ。次の瞬間、意識が覚醒し、体が動かなくなった。ついに、その時が訪れたのだ。

興奮と冷静さが入り混じる。目的はただ金縛りに遭うことではない。その状態をできる限り長く維持し、カメラに記録させることが肝要だった。短時間では映像を見返した際、どの瞬間が金縛りだったのかわからなくなる可能性が高いからだ。

俺は冷静を保ちつつも、動こうとする努力を続けた。手を動かそうと試みたり、意識的に緊張を保ったりと、奇妙な集中を持続させる。結果、五分ほど経過したところでついに限界を迎えた。これ以上は無理だ。次の段階に進むしかない。

この日の計画にはもう一つ、重要な実験が含まれていた。それは「金縛り中に叫んだらどうなるか」を確かめることだった。自分が叫んだと思っている時、本当に声が出ているのか。それとも脳内の錯覚に過ぎないのか。そんな疑問を晴らすため、俺は最後の力を振り絞った。

「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!」

全身全霊で叫ぶ。自分では確かに声を出せた感覚があった。しかし、叫び終えた直後、気力を使い果たし、そのまま意識を失った。そして気づけば朝になっていた。

翌日、体は妙にだるかった。

だが、仕事が終われば昨日の映像を確認できるという期待感があった。金縛りの記録、そしてあの叫び声が映像にどう残っているのか。それを確認することが、俺の頭を支配していた。

仕事を終え、帰宅。PCにカメラを接続し、フォルダを開いた。だが、ここで最初の違和感に直面する。保存されているはずの映像ファイルが異様だったのだ。通常は【通し番号.拡張子】という形で保存されるはずなのに、フォルダ内には意味不明な名前のファイルが無数に並んでいた。

例えば、【ssggggg34333333333333】や【B9めn項sSもp懺れ履水】など。拡張子もなく、もちろん再生はできない。中には数百MBの大きさのファイルもあり、内容が気になったが、何をどうしても開けなかった。

仕方なく、正常に表示されているファイルを確認する。更新日時から見て、一番新しいファイルが昨夜の映像に違いない。再生を開始すると、画面には自室の映像が映し出された。ベッドの足元の斜め上から撮影しているような構図。布団の中で寝ている俺が映っている。

最初は何の変化もないため、早送りをする。だが、ここでまた異常に気づいた。映像の総時間が四時間少々しかない。通常なら七時間以上あるはずなのに、三時間分が欠けているのだ。それでも金縛りの時間帯を探すべく、再生を進める。

動画の三分の二を過ぎたあたりで、異変が起きた。布団の中で寝返りを打つ俺の姿が映っていたのだが、その動きが突然止まった。右手を空中に浮かせたまま、画面全体が静止してしまったのだ。しかし、再生時間は進み続けている。画面の中で動いているのは、経過時間を表す数字だけだった。

これが金縛りなのか?想定外の展開に、心臓がバクバクと高鳴る。

やがてさらなる異常が映し出される。布団の中、俺の足元から何か黒いものがゆっくりと現れ始めたのだ。気づかないほど緩やかな動きだったが、それは明らかに俺の体の一部ではなかった。

黒い影。その正体が次第に明らかになる。髪の毛、額、そして逆さまの顔――。

その顔が視界に入った瞬間、全身の血が凍りつくような感覚が走った。

布団の中から、逆さまの人間の顔がゆっくりと這い出してきている。信じがたい光景に目を見張るが、恐怖で体が動かない。映像の中の俺も硬直したまま、まるでその顔を迎え入れているかのように微動だにしない。

顔はさらに布団の中からせり出してくる。髪は黒く、目は虚ろで生気を感じない。それでもカメラのレンズ越しに、まっすぐこちらを見つめているように見えた。その不気味な姿に、俺は映像を止めるべきだと頭では理解しているのに、手が動かない。画面に吸い寄せられるように、ただその顔の進行を見守るしかなかった。

顔が半分以上布団から出た頃、耳障りな音が聞こえ始めた。金属の軋むような「ミュンミュン」という音に続き、「ピシ」「バシ」といった破裂音が断続的に響く。まるで映像の中で何かが壊れ、現実との境界線が崩れていくようだった。

その時、ふと直感が閃いた。「このまま見続けたら、本当に何かがおかしくなる」。あの顔が完全に布団から出てしまったら――その時、俺の身に何が起こるのかを考えるだけで恐怖に押し潰されそうだった。

だが、停止ボタンを押すことができない。まるで映像が俺を支配しているかのようだった。体の自由が利かない。起きているのに金縛りに遭っているような、そんな異常な感覚に襲われた。

再生時間は終わりに近づいていた。しかし、俺はその終わりを願っていた。頼む、このまま動画が終わってくれ。そう願う気持ちと裏腹に、画面はさらに異常を極めていく。

布団から這い出してくる顔は、まるで俺の恐怖を楽しむかのように動きを遅め、じわじわと姿を現していく。そして、再生時間が残り数秒を切ったその瞬間――画面の端から何者かの手が伸び、カメラのスイッチを押して録画を停止させた。

信じられないことに、それは「俺」の手だった。

映像の中に現れたのは、無表情の俺だった。布団で寝ているはずの俺が、カメラの前に現れ、静かに録画を停止する。その姿を見た俺は、もう恐怖と混乱が限界に達し、その場で気を失った。

次に気づいたとき、俺はデスクに突っ伏したまま朝を迎えていた。

PCのモニターには、あの不気味なファイルたちがそのまま残っていた。昨夜の出来事は、どうやら夢ではなかったらしい。

だが、もうあの動画を再生する気には二度となれなかった。恐怖心に駆られ、俺は全てのファイルを削除し、カメラも処分した。それでも、あの映像に映っていた出来事が頭から離れない。あの時カメラの前に現れた「俺」は一体何だったのか。そして、布団の中から現れたあの顔は何だったのか。

さらに不可解なのは、それ以降、一度も金縛りに遭っていないということだ。それまでは定期的に訪れていたあの現象が、まるで途絶えたかのように、俺の元から姿を消した。

あの夜、俺が見たものは何だったのか――

(了)

[出典:744:投稿日:2013/02/22(金)21:36:45.29ID:UqHBPBbG0]

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