ネットで有名な怖い話・都市伝説・不思議な話 ランキング

怖いお話.net【厳選まとめ】

短編 r+ 奇妙な話・不思議な話・怪異譚

異世界パスタ r+1213

更新日:

Sponsord Link

個人的にオカルトや非科学的なことはまったく信じていないが、五年ほど前に一度だけ不可解な経験をしたことがある。その話を書いてみる。

この経験の後、ふと思い出してインターネットで調べてみたら、オカルト板系のまとめサイトに似たような体験談が載っているのを見つけた。ただし、そこに書かれていた話ほど怖くはなく、緊迫感もない。

京都で就職して十二年が経った2007年頃のこと。私は京都人ではなく、京都の地理にようやく慣れてきた頃だった。京都人は住所で位置を特定しない。豊臣秀吉の町割りで作られた四百年前の通りの名前を使って場所を特定する。たとえば右京区は地図では左側にあり、左京区は右側にある。他府県の人間からすると奇妙だが、これが伝統として『自然』に根付いている点が、この町の不思議さを感じさせる。

町そのものは、高層建築が景観保護の観点から規制されているとはいえ、ビルなどは普通の建物が立ち並び、中小都市のような印象しかない。一般の建物に古都の雰囲気を感じさせるものはほとんどないため、伝統と現代の普通さが入り交じる、アンバランスな『古都』という印象だった。この町は土地が細分化されているため、一つ一つの建物が基本的に小さい。

大きなファミリーレストランなどはほとんど中心部には存在しない。そのため、外で仕事を終えた後に食事を取る時は、基本的に『カフェ』や『喫茶店』に行くことにしていた。ファミレスがほぼないからだ。他にあるのは小規模な牛丼屋のチェーン店かカフェ・喫茶店くらいだ。

京都には驚くほど多くのカフェがあり、有名店も多い。

たとえばイノダコーヒーやスマート珈琲店などがあるが、どの店舗も軽食やコーヒーには力を入れている。私は外回りの帰りに、近くのお気に入りの喫茶店で食事をすることを楽しみにしていた。喫茶店には少しこだわりがあり、それが趣味でもあり、仕事の中でのささやかな楽しみだった。

その日は烏丸通にある喫茶店に行った。それなりに古い店で、昼食が美味しいと評判の店だった。何度も訪れており、店の人にも顔を覚えられていた。いつも通り扉を開け、店員に席へ案内してもらう。だが、その日はいつもの曜日にシフトに入っている女子大生のアルバイト店員がいなかった。そのアルバイト店員は結構可愛く、何度か会話をしたこともあった。別に下心があったわけではないが、その日いないことを少し残念に思った。

メニューを見ると、いつもと違う新しいメニューが載っていた。『サーモンと水菜のクリームパスタ』というもので、なかなか美味しそうに見えた。それを注文すると、見たことのない店員が料理を運んできた。その味は悪くなかった。特に水菜のシャキシャキ感が際立っており、クリームソースに混ぜずに上からふりかけるようにしたのが正解だと感じた。もしクリームに混ぜていたら、あまりクセのない水菜は存在感を失っていただろう。
食事に満足し、食後にコーヒーを飲んでからレジで会計を済ませる。レジにいたのは顔なじみの若い男性店員だった。軽く雑談を交わし、「新メニュー、美味しかったよ」と伝えると、「なかなか好評です」という返事が返ってきた。確かに味が良かったため、好評になるのも納得だった。そう思いつつ店を後にした。

それから一週間後、またその喫茶店を訪れた。

今回はいつもの女子大生アルバイト店員もシフトに入っていた。そして、前回食べた『サーモンと水菜のクリームパスタ』を再び注文しようとしたが、メニューにそれが載っていなかった。あれほど美味しかったメニューが好評なのに消えるのは不思議に思ったが、もしかすると材料が入手できなかったのだろうかと考え、代わりに別のメニューを注文した。

食事を終えて会計をする際、前回と同じ男性店員に「水菜とサーモンのパスタはどうなったの?前回好評だって言ってたよね」と聞いてみた。すると、その店員は少し困ったような笑顔を浮かべながら、「あー、それ、聞かれるの四人目です。うちはそんなメニュー出してないんですけどね」と答えた。その言葉を聞いた瞬間、私は笑うどころではなかった。一週間前の出来事が全否定された形だったからだ。

結局、その謎は解けないままだった。

店員は「違う店のことじゃないですか?」と笑いながら言ったが、私が来店した店を間違えるはずがない。さらに、そのメニューについて尋ねた他の三人も、この店に頻繁に訪れている常連客であり、一見客ではなかった。店を間違える可能性は非常に低い。

不可解な店側のいたずらではないかという、不合理な考えも浮かんだが、正直なところ、それほど怖いわけでもなく、損害を受けたわけでもなかったため、私はそのまま記憶の片隅にしまい込んでしまった。

その後、暇な時にオカルト板のまとめサイトを読んでいると、『異世界』『異空間』『時空のおっさん』といった話題があることに気づいた。特に異世界や異空間に迷い込んだ人の話は、苦労して脱出したり、怖い目に遭ったりするケースが多い。『時空のおっさん』系の話に至ってはホラーに近いものもある。

それに比べて、今回の自分の経験は極めてミニマムなものだった。喫茶店の中だけ何かが違うという程度の話であり、正直つまらない異世界の話かもしれないと思ったくらいだ。『サーモンと水菜のクリームパスタ』が異世界の食べ物だったのだろうか……と、冗談半分に考えてしまう。

(了)

[出典:712 :リラックママーク2:2012/10/07(日) 12:12:31.08 ID:HNFPJxRm0]

Sponsored Link

Sponsored Link

-短編, r+, 奇妙な話・不思議な話・怪異譚
-

Copyright© 怖いお話.net【厳選まとめ】 , 2025 All Rights Reserved.