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赤い水着の男の子 r+999

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小学二年生の時に体験した、今でも忘れられない不思議な出来事を語ろうと思う。友人たちにも何度か話したことがあるが、みんな怖がるだけで、その謎を真剣に考えてくれた人はいない。

当時、家族で毎年のように海水浴に出かけていた。千葉県に住んでいたこともあり、行き先は九十九里浜か茨城の大洗が定番だった。その年は九十九里が混んでいるという情報を聞きつけた父の提案で、茨城の大洗に行くことになった。

浜辺に着くと、すでにどこを見ても人だらけだった。お盆休みの時期で行楽客が集中するのも無理はない。僕には七歳下の赤ん坊の弟がいたため、父はビーチパラソルを立てるのに忙しく、母は弟の世話に追われていた。そのため、僕は一人で退屈そうにしていた。すると父が、「あそこの潮溜まりで遊んでこい」と指差した。

指差された先には、30メートルほど離れた浜辺に引き潮でできた浅いくぼみがあり、そこに向かって歩いていった。その小さな潮溜まりにつくと、足を水に浸して遊んでいるうちに、大きめのカニを見つけた。実際には子どもだった僕には大きく見えただけかもしれない。僕は生き物が好きだったので、何とかしてそのカニを捕まえようと奮闘した。しかしカニは素早く、何度も逃げられてしまった。

カニと格闘していると、同じくらいの年齢に見える地元の男の子が現れた。赤い水着を着て、日焼けして真っ黒なその子は、「何してるの?」と話しかけてきた。僕は「カニがいるんだ」と答え、再び潮溜まりに目を戻したが、カニはいつの間にか姿を消していた。

二人でカニを探したが見つからず、諦めかけた時、その男の子が「うちに来ない?」と言った。その言葉を聞いて、地元の子だと思った僕は「いいの?家はどこ?」と聞いた。彼は少し離れた場所にある海の家を指差し、「あっち!」と言った。そして僕はその男の子の後をついていった。知らない土地で友達ができたことがとても嬉しかった。

海の家に近づくと、営業中でお客さんも何人かいる様子だった。正面から入るのかと思いきや、男の子は「こっちだよ」と言い、海の家の隣にある小さな脇道へ入っていった。そこは少し薄暗くて、不気味な感じがした。細い道を進むと、海の家の裏手にある勝手口のような小さなドアにたどり着いた。男の子は「ここから入れるんだよ」と言ってドアを開け、中に入った。

ドアの向こうには畳の部屋がいくつかあり、座布団が端に積み上げられていた。団体客が泊まるための部屋だろうか。そこには誰もおらず、妙に静かだった。いつの間にか男の子はフランクフルトを持っていて、「食べなよ」と僕に手渡してくれた。

本来なら知らない人からもらったものを食べるべきではないが、ここで断るのは失礼だと思い、二人で畳の部屋でフランクフルトを食べた。どんな話をしたかは覚えていない。ただ、食べ終わった後に「この部屋でかくれんぼしない?」と男の子が提案したことだけは鮮明に記憶している。

僕たちは、かくれんぼをすることになった。どちらが隠れるかをジャンケンで決めたのだが、勝ったのか負けたのかは覚えていない。結果、僕が隠れることになり、男の子が目を伏せて数を数え始めた。

僕は迷わず隣の部屋に進み、押入れの中に隠れることにした。本当は二階に上がろうかとも思ったが、それはさすがに失礼だと思いやめた。押入れの中に入ると、すぐ隣には布団が積み重なっていて、体を縮めてそのすき間に無理やりもぐり込んだ。狭い押入れの中は蒸し暑く、汗がじわじわと噴き出してきた。

「もういいよ!」と押入れの中から叫び、男の子が僕を探し始めるのを待った。しかし、時間がたってもまったく見つけに来る気配がない。暑さに耐えきれなくなった僕は、もう一度大きな声で「もういいよ!」と叫んだ。それでも反応はなく、ついに我慢できなくなって押入れの扉を開けた。

そっと忍び足で最初の部屋に戻ったが、男の子の姿はどこにもなかった。もしかして僕が隠れている間にどこかへ行ってしまったのだろうか?よその家で一人だけ残されるのも気まずかったので、案内された勝手口から出て、薄暗い道を抜けて海の家の正面側へ出た。

浜辺を見渡しても、赤い水着を着たあの男の子の姿はどこにも見当たらなかった。仕方なく、最初の潮溜まりまで戻った。そこに腰掛け、溜まった海水に足を浸していると、さっき捕まえ損ねたカニが再び姿を現した。今度こそ、と意気込んでカニを捕まえようとしたその時、後ろから男の子の声がした。

「なんだ、ここにいたんだ。みっけ!」

振り返りたかったが、カニを捕まえることに集中していた僕は、男の子に目を向けず、声だけで答えた。「これ捕まえてから!」と。男の子は「海の方に行こうよ」「遊ぼうよ」と誘ってきたが、それも断り、カニを捕まえることに専念した。

ついにカニを追い詰め、ガシッと捕まえることに成功した。嬉しくなって振り向き、男の子にカニを見せようとしたが、そこには誰もいなかった。

急にいなくなってしまった男の子に対し、「これで怒っちゃったのかもしれない」と僕は思った。カニを見せればきっと機嫌を直してくれるだろうと考え、海の家へと走った。

今回は勝手口ではなく、正面側から入ることにした。海の家の前では、若いバイトの男性がお客を呼び込んでいた。その隣には若い女性のバイトスタッフもいて、僕が手にしていたカニを見て「きみ、それどうしたの?」と話しかけてきた。

僕は「あっちで捕まえました」と答え、そのついでに「あの、ここの男の子と遊んでたんですけど」と続けた。しかし、「ここの男の子」という言葉だけでは彼女には伝わらなかったらしく、「どんな子?」と詳細を聞かれた。

赤い水着を着ていて、同じくらいの年齢で、と説明すると、その女性スタッフは奥にいた中年の女性を呼び、「ちょっと来てください」と伝えた。その女性にも同じ説明を繰り返すと、彼女は驚いた表情で何度も「赤い水着の子?」と聞き返してきた。

その様子を見て、海の家のスタッフたちがざわざわと騒ぎ始めた。さらに、奥から店主らしい日焼けした中年の男性が現れ、「何があった?」と尋ねた。先ほどの女性スタッフが「赤い水着を着てたらしいんです」と繰り返すと、その男性も信じられないという様子で「本当か?本当なのか?」と僕に詰め寄ってきた。

そこで「さっき一緒に遊んだ子です」と写真を指して伝えると、店主は深刻そうな表情を浮かべ、「写真の子はおととし海で亡くなったんだよ」と話した。その言葉を聞いた瞬間、全てが静まり返り、僕は言葉を失った。

海の家の店主にそう告げられた瞬間、僕は全身に鳥肌が立った。信じられないという気持ちと、自分が経験した出来事が全く説明できないことへの混乱が、頭の中をぐるぐると駆け巡った。

「亡くなった」と言われても、僕にとっては、さっきまで一緒に遊んでいたあの男の子の姿があまりにも鮮明だった。声も表情も、僕を勝手口から案内してくれた仕草まで、全てが生きている人間そのものだったのだ。

すると店主が、「ここから入ったって言ってたな?」と確認してきた。僕はうなずき、案内された勝手口まで彼らを連れて行った。そこには、僕が通った薄暗い細道が確かにあった。そして、勝手口の小さなドアを指差し、「このドアから入りました」と説明した。

その時、店主が周囲の若いスタッフに向かって、「普段ここは鍵をかけてあるはずだろ?」とぼそっとつぶやいた。その言葉を聞いた僕は、「いや、さっきここを開けましたよ」と言いながら、再びそのドアを両手で開けてみせた。ドアは音もなく開き、僕が先ほど入った時と同じように、畳の部屋が奥に広がっていた。

「この部屋でかくれんぼをしました」と話すと、海の家の中年の女性が小さく「あの子はやっぱり…」と言いながら、急に泣き出した。その様子に僕はひどく驚いた。泣き声は次第に周囲の空気を重苦しくさせ、僕の胸には何とも言えない嫌な感覚が広がった。

店主は僕の肩に手を置き、しゃがみこんで僕の目を見ながらこう言った。「写真の子はな、おととし、この海で亡くなったんだよ」と。

僕はその言葉を聞きながらも、その事実をすぐには受け止められなかった。目の前で泣いている女性や、周りの大人たちの真剣な顔を見ても、実感が湧かない。ただ、言われた言葉の重さに耐えられなくなり、気がつくと涙がこぼれていた。

その時、あることに気づいた。僕がその家に入った時、畳の上に足跡はついていなかった。僕自身は素足で砂浜を歩き、そのまま裏口から上がりこんだはずだ。それにもかかわらず、畳には僕の足跡しかなかったのだ。

「なんでだろう…」と思いながらも、何が何だか分からなくなってきた。泣き続ける女性を見て、これ以上ここにいたくないと思い、「もう帰りたい」と父親にせがんだ。その後、両親の元に戻ったが、今度は両親の反応にも違和感を覚えることになる。

父に「遊び疲れたのか?」と聞かれた僕は、「もう十分遊んだよ」と答えようとしたが、浜辺の様子を見て違和感を覚えた。僕が離れていた間、時間がほとんど経っていなかったのだ。持ち物や遊具は来た時のまま置かれ、弁当にも手がつけられていなかった。

僕の感覚では、少なくとも一時間か二時間は経過していたはずだった。それなのに、現実には数分しか経っていないかのような状態だった。

一瞬、もう一度海の家に戻って確認しようかとも思った。しかし、泣いていた女性や店主の話を思い出すと、再び訪れる勇気は湧かなかった。嫌な空気を感じた僕は、早くこの場所を離れたかった。

父に「早く帰ろう」と何度もせがみ、結局その日の昼過ぎには車で家に帰ることになった。

車の中でふと手元を見ると、捕まえたはずのカニがどこにもいなかった。どのタイミングで逃げてしまったのか、全く覚えていない。それを見て、僕は何とも言えない虚しさを感じながら、車の窓越しに海を見つめていた。

(了)

[出典:40 町田の小粒 2011/04/03(日) 20:42:39.79 ID:xYZ1y8hY0]

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