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山の神と師の声 r+1,894

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射撃場で出会ったあの日から、あの人はずっと私の「師匠」だった。

実の父とほぼ同じ年齢で、子どもはいるけれど、どうやらアウトドアには全く興味がなかったらしい。だからなのか、私のことをやけに気に入り、懐に入れてくれた。
そこから始まった北海道行き。エゾ鹿を狙っての猟だ。だが、どうにもおかしい。私が通る時には影も形もないくせに、数分後に仲間が通ると見晴らしのいい場所に鹿がぽつんと立っている。二年続けて同じ調子だった。

最初は「運のないやつ」などと軽口を叩かれていたが、二年目の終わりには「運から見放されたやつ」に格上げされた。笑いながらも、内心では苛立ちが募る。
そんな私を見かねて、北海道に移住して悠々自適に暮らしていた師匠が「僕がガイドしてやる」と声をかけてくれた。だが、その時の私は意地になっていて、「いや、自力で一頭くらいは」と断ってしまった。

翌年、師匠は糖尿病の合併症で急に弱ってしまった。
冬の避寒でこちらに戻ってきたとき、会いに行った。顔色はぼんやりと霞み、輪郭が揺れて見えるほどだった。
別れ際、あの人は言った。
「元気になるから! そしたら北海道に連れて行ってください!」
以前は「遊びにおいでよ」だったのに、その時だけは、私を連れて行ってほしいと言った。その声を聞きながら、もう会えない気がした。
予感は的中し、六日後、北海道の自宅に無理やり戻った翌朝、あの人は亡くなった。

葬式に参列した私は、そこで奇妙な事実を知る。師匠は、ある有名なカルト宗教の高位にいたという。あの人は雑談の中で教祖を笑い、私の悪口にも同意していたのに……。頭がくらくらした。会場に響くお題目の反復は、洗脳の儀式のようだった。

葬儀からしばらくして、師匠の愛銃が遺品として私の手に渡った。そこから、不思議な夢を見るようになった。夢の中で師匠は助手席に座り、蝦夷鹿やヒグマの習性、山の地形、射撃の注意点を語ってくれる。まるで実地のガイドのように。

その冬、私は一人で北海道へ渡った。
小樽から道東へ移動し、猟を始めたが、三日間で一頭も姿を見ない。国道脇の疎林にはうじゃうじゃいるのに、合法で安全な場所には一切いない。
三日目の夜、夢の中にまた師匠が現れた。助手席から道を指し示し、林道の影や沢の水場を教えてくれる。

翌日、初めて入った山間地で、何の気なしにハンドルを切り、細い林道へ入った。二キロほど走ったところで、昨夜の夢と全く同じ光景が目の前に広がっていることに気付く。沢の水が溢れた水たまりまで一緒だった。
無意識のうちにブレーキを踏み、エンジンを止め、ライフルを手に川沿いの茂みに入った。覆いを外し、弾を装填する。
茂みの切れ間から河原を見ると、鹿が一頭、水を飲んでいる。
落ち着いて一発。水面に衝撃波が立ち、鹿は崩れるように倒れた。

歩み寄ろうとしたとき、左にもう一頭。距離は二百メートルほど。何気なく撃つと、信じられないことに命中した。
その瞬間、耳元で師匠の声がした。
「やっと獲れたね。おめでとう」
涙があふれた。
続けて、「二頭は大変だよ。でも手伝うよ」と笑う声が聞こえた。
その声に導かれるようにして、私は効率的に解体し、冷やし、精肉を終えた。二時間足らずで百三十キロ級二頭を処理できたのは、今も破られない記録だ。

その後、猟は不思議なほど順調になった。翌日はヒグマとも遭遇したが、百メートルの距離で一発しか装填していなかったため撃たなかった。樹の陰からこちらを半分だけ覗く巨大な顔は、笑っているようにも見えた。

その晩、また夢に師匠が現れた。
「あんたが獲れなかったのは、守護が強すぎて山の神様と反目してたんだ。美人だしさ。でも、私が仲を取り持ったからもう大丈夫。撃つときは命をもらうことを謝ってから引き金を引きなさい」
夢の中で、私はまた泣いた。

師匠のライフルは今も愛用している。銃身は焼き切って交換したが、その重みは変わらない。
思えば最初の北海道でも、至近距離に鹿が立っているのに、私はまるで見えなかった。その後、高熱と嘔吐で数日間うなされ、記憶はほとんど残っていない。
あれは山の神様に肘鉄を食らったのだと、今では思っている。

師匠、あなたはきっと幽霊になって、あの日も、今も、私の隣にいる。

[出典:139 :本当にあった怖い名無し:2011/06/23(木) 01:42:28.71 ID:gOq/Edhn0]

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