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行ったはずの場所 rw+4,317

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出張で一〜二週間ほど地方に滞在する仕事をしている。

休みの日には、ネットで調べた遊歩道や山歩きコースを歩くのが習慣だ。登山というほど本格的なものではなく、私服に運動靴で行ける範囲の場所を選ぶ。人の少ない森の中で、風に揺れる木々の音を聞きながら歩く時間が、何より好きだった。

一年前、新規店舗の応援で十日間の出張が入った。準備作業が一段落し、開店二日前に一日だけ休みをもらえたので、例によって近くの山を探した。

朝八時ごろ、山裾にある運動公園に着いた。人工の渓流沿いに整備された森林遊歩道があり、展望台まで片道二時間ほどと書かれていた。春先で、湿った落ち葉が靴底に貼りつく。空気は冷たく、雨上がりのような匂いが残っていた。

一時間ほど歩いたころ、道の雰囲気が変わった。踏み固められた遊歩道ではなく、けもの道に近い。原因はすぐ分かった。途中に、何も書かれていない矢印だけの木の看板があり、それに誘われて本道を外れていた。

ただ、道そのものははっきり続いていた。迷っている感覚はなく、そのまま進んだ。湿った岩場を手を使って越え、小川をまたぎ、「そろそろ戻るべきか」と考え始めたころ、突然、十段ほどの石段が現れた。

登ると、狭い広場に神社があった。

周囲は高い木々に囲まれ、日差しはほとんど届かない。それなのに、その神社だけが妙に新しかった。一抱えもある石造りの鳥居は表面がすべすべしており、平成二十何年とだけ彫られている。寄贈者も、社名もない。

社殿も新築同然で、木の香りが残っていた。格子の奥には酒樽や米俵、鏡が見えるが、額は暗くて文字が読めなかった。自然石をくり抜いた手水舎には澄んだ水が溜まっていたが、枯葉が浮いていたので、手を軽く清めるだけにした。

不思議だったのは、社務所が見当たらないことだ。灯籠はあるが、狛犬はいない。案内板もなく、祭神も分からない。それでも無下にするのは気が引けて、二礼二拍手一礼だけ済ませた。

その後は何事もなく本道に戻り、展望台まで行ってから下山した。ホテルに戻り、開店準備を終え、出張も無事に終わった。

一年後、同じ店の一周年記念で、再びその土地に行くことになった。今回は二日間だけで、最終日の午前中に少し時間が空いた。あの山のことを思い出し、もう一度登ってみることにした。

遊歩道は変わらない。ただ、前回見た矢印の看板はなくなっていた。それでも、記憶を頼りに脇道へ入った。道の形も、石段の位置も、間違いようがない。

だが、石段を登った先にあったのは、まったく別の神社だった。

鳥居は木製で、黒ずんでいる。狛犬は苔に覆われ、手水舎は雨水溜めで乾ききっていた。小さな社務所があり、全体に朽ちかけた印象だ。新しい石の鳥居も、艶のある社殿も、影も形もない。

同じ場所のはずだった。

違和感が拭えず、下山後にホテルでスマホを確認した。前年の出張時の写真フォルダを探したが、山の写真が一枚も残っていない。展望台で撮ったはずの景色も、神社の鳥居もない。

歩数アプリを見ると、その日の移動距離が異様に短かった。山を往復したはずなのに、運動公園を少し散歩した程度の数字しか記録されていない。位置情報の履歴も、公園周辺で途切れていた。

写真を消した覚えはない。設定も変えていない。

気になって帰宅後に調べたが、あの場所に新しい神社が建った記録はなかった。古い神社についての情報も見つからない。そもそも、あの脇道自体が公式の地図には載っていなかった。

仕事の都合で、もうあの店に行くことはない。あの山に登る理由もない。

ただ、最近になって、スマホのバックアップに見覚えのない一枚の写真が混じっていることに気づいた。暗い森の中、石段の下から鳥居を写した写真だ。画質は荒く、拡大しても文字は読めない。

撮った記憶がない。

その写真の位置情報は、私がその土地にいなかったはずの日付を示していた。

(了)

[出典:http://toro.2ch.sc/test/read.cgi/occult/1417618340/]

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