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エレベーターの男 r+3860

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これは、松本君(仮名)から聞いた話だ。

当時、松本君は十三階建てのマンションに住んでいた。九階に部屋があり、仕事から帰ると一息ついてそのままくつろぐのが習慣だった。ある蒸し暑い土曜の夜、何か軽く飲もうと思い立って冷蔵庫を開けたものの、酒の肴になるようなつまみがないことに気がついた。どうにも物足りなくて仕方がなくなり、松本君はしぶしぶ夜中に近くのコンビニまで出かけることにした。

服に着替えるのが面倒だったため、パジャマのままマンションを出ることにする。もう夜も遅いし、マンションからコンビニまではほんの数分、通りにはほとんど人も見当たらないだろうと高を括っていた。

部屋を出てエレベーターのボタンを押すと、表示灯がひとつ上の十階に止まっていることに気づく。しばらくボタンを押して待っていたが、なぜかエレベーターはなかなか下に降りてこない。どうやら、十階から誰かが乗り込んでいるようだった。時間のせいもあって少し不審に感じながら、松本君は静かなエレベーターホールで耳を澄ました。外からは虫の鳴き声だけがかすかに聞こえてくる。

ようやくエレベーターが九階に到着すると、扉の向こうにひとりの人物が見えた。男だろうか──真っ黒なロングコートを着こみ、深く帽子をかぶっていて、顔はほとんど見えない。松本君は一瞬、ゾッとするような寒気を感じたが、すでにエレベーターを止めてしまっている以上、乗り込まないわけにはいかない。かすかに「こんばんは」と声をかけたものの、その男はまったく無視して壁に寄りかかったまま動かない。

あまりに気味が悪くて、松本君は目を合わせないよう、そっけなく横を向いてやり過ごした。エレベーター内には自分と男、二人だけの静寂が漂い、男の荒い息遣いだけがかすかに聞こえる。それは、背後にぴったりと張りついているかのような近さに感じられた。

エレベーターはゆっくりと下降し、数字が順にカウントダウンされる。やがて一階に着いたとき、男は突然ドアが開くや否や勢いよく飛び出し、松本君にぶつかってそのまま闇に消えていった。ぶつかられた肩に少し痛みを感じつつも、松本君は怒りを覚えたが、気を取り直してさっさとコンビニに向かった。

数分ほど歩いて行きつけのコンビニにたどり着くと、店内の明るい照明に緊張がほぐれ、いつものように手早くつまみを選んでレジに持っていった。しかし、レジの店員が彼の顔を見て、ぎょっとした表情を見せたのだ。松本君が「どうかしましたか?」と尋ねると、店員は慌てて目をそらし、「い、いえ、なんでもありません」とだけ答えた。もやもやした気分を抱えつつも、買い物を済ませてマンションへ戻った。

部屋に戻り、玄関の鏡に映った自分の姿にハッとした。ぶつかられた左肩が真っ赤に染まっていたのだ。まるで血がべったりと付着しているかのように、鮮やかな赤がパジャマにしみ込んでいる。慌ててパジャマを脱ぎ、肩を確認したが、どこにも傷や痛みはなかった。それでもう一度鏡を見て、あの男がぶつかったときに付いたのではないかと気づく。エレベーターの薄暗い照明と黒いコートに隠れていたため、血に気がつかなかったのだ。

恐怖と不快感を拭いきれないまま、松本君はせっかく買ってきたつまみを食べる気にもなれず、冷蔵庫にしまうとそのまま床に就いた。

そして二日後のことだった。休日の午後、くつろいでいると、インターホンが鳴る。覗き穴から見ると、相手は警官だった。パジャマ代わりのラフな格好のままドア越しに応対すると、警官が言うには、このマンションで殺人事件が起こり、犯人が逃走中とのことだった。警官は続けて「二日前にこのマンションで不審な人物を見かけませんでしたか?」と尋ねた。

松本君の背筋に冷たいものが走った。エレベーターに乗っていたあの男が頭に浮かんだが、警官に事情を説明して関わるのが嫌だったこともあり、「いえ、その日は留守にしていました」と嘘をついた。警官は一礼して次の部屋へ向かい、松本君は改めてゾッとした。もしエレベーターの中で何かあれば、自分も襲われていたかもしれない。

数日が経ち、またいつものようにテレビをつけると、ニュースであの殺人事件についての続報が流れていた。画面のアナウンサーが、犯人が逮捕されたことを告げ、犯人の顔写真が映し出された。松本君はその瞬間、思わず息を呑んだ。画面に映っているのは、あの日インターホン越しに自分に話しかけてきた警官と同じ顔だった。

松本君はあの日ドアを開けていたら、自分も今ここにいなかったかもしれないと笑ったが、その笑いはどこか引きつったものだった。

これが松本君の語った話だ。

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