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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

二回目の夕刻 n+

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中学三年の頃の話をしようと思う。

もう十年以上前のことになるけど、あの瞬間の気味の悪さは今も抜けない。

仲の良い五人組でつるんでいた。クラスはそれぞれ違ったけど、学校が終わるといったん家に帰り、塾までの時間を潰すのに誰かの家に集まるのが習慣だった。マンガを回し読みしたり、テレビでアニメを観たり、お菓子を分け合ったり……ただの他愛もない時間だった。

その日もいつものようにAの家に集まった。二階の六畳の和室、畳の匂いがほのかにする部屋だった。ふすまを閉め切って、僕は床に寝そべってマンガを開き、隣ではSがポテチをばりばりと食べていた。テレビの前に陣取ったAとKとYは、放課後アニメに夢中になっていたと思う。時間は夕方五時頃、ちょうど夕飯の支度の匂いが家の外から漂ってくるような、そういう時間帯だ。

いつのまにか、Yが部屋を出て行った。ふすまが開いて閉じる音がしたのを覚えている。たぶんトイレだ。場所は一階。僕自身、その瞬間の記憶がはっきりしていない。だけど、一人いなくなったのは確かで、それがYだったことも間違いない。

――そして、Yが戻ってきた。

ふすまがガラリと開いて、Yが「ただいま」と言った。
それに対して、寝転んでテレビを観ていたAが「おう」とぞんざいに返した。
何気ないやり取り。普段通りのこと。

だが、間髪入れず、もう一度ふすまが開いた。
同じ調子でYが「ただいま」と言った。
同じ調子でAが「おう」と答えた。

……二回目。

空気が一瞬止まったように感じた。
全員が顔を見合わせて「え?」という表情になった。意味がわからなかった。
けれど、妙なことに、僕らはすぐには怖がらなかった。むしろ、何か面白い遊びに巻き込まれたような、そんな子供じみた興奮があった。SとKが同時に叫んだ。

「二回目!」

思い出しても、その瞬間の顔つきは奇妙だ。全員が妙に愉快そうで、息を弾ませていた。僕もマンガを置き、呼吸を止めて事態を見つめていた。

だが考えてみれば、ふすまを二度開けるにはわずかでも時間がかかるはずだ。一度閉じて、再び開ける、その間が。けれど、そんな余裕はなかった。二度目の「ただいま」は、一度目のすぐ後に重なるように起きた。

Aもはっきり二度見ている。横目でちらっとYを見て返事をしたのが、一度ならず二度続けて。
ただ、不思議なのは、僕やS、Kが自分の動作を「繰り返した」とは感じなかったことだ。マンガを二度同じコマから読んだかもしれないし、ポテチを二度同じように口に運んだかもしれない。でも自覚はなかった。意識に残らないほど自然に、出来事が二重に起こったのだ。

僕らは騒いで盛り上がった。笑い合い、面白がり、まるで珍しい手品でも目撃したかのようだった。
だが、その夜一人で布団に入ると、ふと背筋が冷たくなった。あれは何だったんだろうと考えると、血が引くような怖さに襲われた。幽霊とは違う。もっと根本的に、世界の仕組みがおかしくなったような、そんな怖さだった。

一番気にしていたのはY本人だった。翌日、顔を合わせると「あれは本当にわからない」とか「確かにふすまを二度立て続けに開けた」と繰り返し口にしていた。困惑しているのが伝わってきた。

さらにYはぼそりと言った。
「最初に開けた時、なんか部屋の雰囲気がちょっと暗かった気がするんだよな」

僕は息を呑んだ。確かにそれは手がかりのように思えた。でも、言葉にはしなかった。妙に触れてはいけない気がしたからだ。他の四人も同じだったのだろう、それ以上話題にせずに忘れたふりをした。

年月が過ぎ、五人はそれぞれの道を歩み、今ではほとんど連絡も取っていない。
けれど、ふとした瞬間にあの場面を思い出す。ふすまが二度続けて開き、同じ言葉が重なる瞬間。世界の継ぎ目がわずかにほころんで、別の流れが重なったような……そんな感覚。

あのとき確かに、僕たちは二度目の夕方を過ごしてしまったのだ。

[出典:469 :あなたのうしろに名無しさんが……:02/10/15 02:00]

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