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境界線の綱引き r+3,049

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知り合いから聞いた話が発端なんだけど――

いや、そもそもそいつもどこで仕入れたのかは言わなかったから、話半分に聞いてほしい。けれど、あのとき感じたあの感覚が、ただの思い込みで片づけられるかというと……今でも、少し疑わしい。

「世の中には境界線がある」

そう言われたとき、最初は笑ってた。けれど、それは目に見える境界ではないと言う。物理的な線じゃない。こちら側と、あちら側とを分ける、意識の裏に薄く存在する、白くて細い、曖昧な線。

あちら側に傾きすぎると、ある日ふいに引きずり込まれる。逆に、こちら側にしっかり根を張った人間には、あちら側の影は一切届かない。見えないし、感じもしない。けれど被害にも遭わない。

じゃあ、霊能力者ってなんなんだよ、と訊いたら「綱渡りをしてる人」なんだそうだ。境界の上に、危ういバランスで立ってる。ほんの少しでも重心が狂えば、あちらに落ちる。だから職業にしてる奴は、命知らずか恐れ知らずしかいない。

自称霊能者の中には、最初から嘘をついてるくせに、そのまま境界の上に誘導されて、そのまま落ちてしまうのもいるんだってさ。怖い話をして笑いをとってるうちに、気づいたら自分が「話の中」になってるやつ。ザラにいるらしい。

俺はといえば、毛先だけ境界線に触れてる、程度の人間らしい。

あちらに手を突っ込んでるわけじゃない。けれど、「いるのはわかる」。
見えはしないが、確かに「気配」はある。背筋を這い上がる感覚、へその裏から首筋まで、ざわざわと、まるで静電気をなすりつけられるような違和感。

慣れてる感覚だ。嫌な感じではあるけれど、もう何度も経験してきたから、日常のノイズみたいなもんだった。

ただ――一度だけ。全身が硬直するような、本当に「ヤバい」と思ったことがあった。

当時住んでた家の学区内に、いわくつきの空き家があった。瑕疵物件ってやつだな。事故があったとか、自殺とか、何かがあったらしいけど、詳しくは知らない。子どもたちの間では肝試しスポットで、行こうとして怒られるのまでがワンセットになってた。

俺はその家の前を通るたびに、ゾワッとする感じがしてたから、わざわざ通勤路を変えるくらいだった。でもある日、違った。あのときの感覚は、いつもの背筋だけじゃなかった。頭の奥、眼球の裏、爪の間にまで嫌なざわめきがあった。

その日を境に、町全体が変わった気がした。

道を歩いても、鳥肌が収まらない。昼でもだ。公園の芝生から、コンビニのレジ前、信号待ちの交差点まで、常に何かがすぐ後ろにいるような気配。耐えかねて病院に行ったが、異常なし。脳も、血液も、ストレス値も、問題ない。

「これって、まさかな……」と、連絡をとったのが、あの境界線の話をしてくれた知人だった。おもしろがって、「遊びに行く」と言ってきた。

けれど、当日になってメールが届いた。
「ごめん、行けない。つーか行きたくない」

ファミレスで会ったとき、そいつは真顔で言った。

「町全体が、幽霊屋敷になってる」

最初は笑ったよ。バカ言えって。けど、言ってることは妙に具体的だった。

「通りを歩くだけで、引っ張られそうになる」
「神社の結界が割れてる」
「道の角ごとに“向こう側”のやつが立ってる」

それから数日後、近所の子どもが「夜に空を歩く人を見た」と言い出した。
別の日には、町内会の老人が、神社のご神体――鏡が割れていたのを見た、と言っていた。

少しずつ、「現実の外側」が町を包み込んでいくようだった。

本気で、引っ越しを考えた。実際、ひと月後には町を出た。幸運にも無事だった。けれど、あの町には、あの家には、今も人が住んでいるらしい。信じられなかった。

あの場所は――綱引きをしている。向こうとこちらで、縄を引いてる。誰かをこちらから連れていこうとするものと、それを引き留めようとする何か。誰がどちらかなんて、わからない。

俺が感じる、あの背筋をなでる鳥肌は、どうやら「警告」らしい。第六感の一種。それが必ずしも悪いものではない、という話も聞いた。

虫が目の前を飛んだとき、思わず目で追ってしまうように。無害かもしれないし、有害かもしれないけれど、無視はできない。

で――あの町だ。

友人曰く、あの町には「縁を結ぼうとする」奴がいた。しかも、積極的に。あちら側の存在が、こちら側の人間に手を伸ばすには、何かしらの縁が必要らしい。だから彼らは、触れてくる。気づかせようと、名前を呼び、視界に入り、夢にまで出てくる。

それが悪霊ってやつらしい。

一方的な縁。肩をぶつけてくるチンピラのような、質の悪い干渉。

普通の霊は「忘れられたくない」という想いで、縁を保とうとする。けれど、悪霊は違う。目的と手段が入れ替わっている。
彼らは、自分の存在を感じさせるために、人間を壊そうとする。

人為的に生まれた噂話――口裂け女のような都市伝説――あれらも「呪詛」だという。人間が語り継ぎ、怯え、信じることで、形を成していく妖怪。ネット上で日々量産されている、名もなき怪物たち。

「この話を読んだ者は……」なんて書き出しは、つまりそういうことだ。
読んだ瞬間、名前も知らない何かと、小さな縁が結ばれる。

そしてそれを気にする人間ほど、近づいてしまう。境界線に。

問題は、自分がその「どこに立ってるか」なんだ。
こちらに足を置きつつ、毛先が向こうに触れているような俺みたいな人間は、ごまんといる。日本という国は特にそうだ。神仏が日常に溶け込みすぎていて、見えないものを信じやすい。

でも、信じることと引きずられることは違う。

あの日、俺が感じたあの感覚。あれは、境界線のロープに、指先が触れたような瞬間だったのかもしれない。ロープの先に、何者かの手があったのかもしれない。

引き返せたのは偶然だった。今も、あの町では綱引きが続いているのだろうか。
真ん中の線を、誰かが越えるのを待ちながら。

[出典:748 :本当にあった怖い名無し:2020/07/13(月) 17:02:12.82 ID:KmfkXDdr0.net]

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