中部の山奥で育った。
集落は杉林に囲まれ、家々は互いの屋根を確かめ合うように斜面に貼りついていた。夕暮れになると、獣の声が山に反響して、近いのか遠いのか分からなくなる。音の距離感が狂うあの感じは、今でも体が覚えている。
子どもは少なかった。同じ年に生まれたのは八人だけだった。全員が男子だったというのも、あとになって思えば妙だが、当時は誰も気にしなかった。気にする余裕がなかった、というほうが正しいかもしれない。
学校では、否応なくいつも一緒だった。教室でも、帰り道でも、遊び場でも、八人で一つの塊だった。誰かがいなければ、自然と探した。理由はなかった。ただ、揃っていないと落ち着かなかった。
誰かの机にカエルを放り込んで教師に叱られたり、川のほとりで秘密基地を作ったりした。田舎にありがちな閉じた日常だが、八人で集まれば退屈は消えた。誰が欠けても輪が歪む。だから互いに監視するように、常にまとわりついていた。
七人になると、妙に不安だった。
理由は分からない。数を数えていたわけでもない。ただ、視界の端で何かが足りない気がして、胸の奥がざわついた。八人そろうと、その感覚は消えた。安心するというより、ようやく元に戻る、そんな感じだった。
……今、あの八人のうち五人が壊れてしまった。
最初におかしくなったのはTだった。大学を出て地元に戻り、雀荘に入り浸るようになった。夜通し麻雀牌をかき混ぜ、明け方になるとそのまま職場に顔を出す。目の下に濃い隈を溜め、それでも笑いながら「ツモった」とつぶやいていた。ある日、牌を握ったまま机に突っ伏し、そのまま二度と起き上がらなかった。
次はYだ。妻に逃げられ、酒に溺れた。酔って田んぼに落ち、泥にまみれた姿を見たことがある。怒鳴りながら「みんな同じになる」とわめいていた。その数年後、何の前触れもなく姿を消した。
残りの三人については、細かく語ることができない。語ろうとすると、頭の中で何かが引っかかる。ただ「病んだ」としか言えない。精神を病む、という言葉では足りない。影に引きずられたように、心が形を保てなくなった。
八人中五人。半分を超えている。
確率にすれば異常だ。偶然で片づけるには、あまりにも揃いすぎている。集落の誰もが、薄々分かっていた。「あそこは少しおかしい」と。
だが、それを言葉にする者はいなかった。
子どもの頃の記憶をたどると、どうしても抜け落ちた空白がある。八人が一緒にいたはずの夜だ。真夏の、じっとりとした夜気の中で、名前を呼び合った声だけが耳の奥にこびりついている。
「来いよ」
誰かがそう言った気がする。その声が誰のものだったのか、思い出せない。足を踏み入れたのか、立ちすくんだのか、その先が丸ごと欠けている。思い出そうとすると、胸の内側が締めつけられ、数を数えたくなる。
一、二、三……
いつも、八で止まっていた。
今も考える。壊れた五人と残った三人。その境目は何だったのか。生まれか、環境か、偶然か。それとも、あの夜のことが関係しているのか。
自分は今、仕事を抱え込み、忙しさに追い立てられて暮らしている。何かに遅れまいとして、後頭部を押されるような感覚がある。ふとした拍子に、何かを忘れている気がして立ち止まることがある。
そのたびに、数を数える。
気づいたのは最近だ。八人でいたはずなのに、記憶の中で顔が七つしか浮かばない。名前も声も、七人分しか思い出せない。誰が欠けているのか、どうしても分からない。
本当に、八人いたのだろうか。
あの集落には、もともと七人しかいなかったのではないか。そう考えると、少しだけ楽になる。壊れた五人という数も、説明がつく気がする。
だが、そうすると、別の疑問が残る。
子どもの頃、なぜあれほどまでに八人でいようとしたのか。七人だと落ち着かなかったのは、なぜなのか。
……それなら、いったい誰が数を合わせていたのだろう。
[出典:324 :クランツ ◆Xgg113Pc:02/05/14 21:57]