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短編 奇妙な話・不思議な話・怪異譚 n+2025

忘れられた八人目 n+

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中部の山奥で育った。

家々は杉林のあいだから顔をのぞかせ、夕暮れには獣の声が近いのか遠いのか分からないほど反響した。子どもの数は少なく、同じ年に生まれたのは八人だけ。全員が男子だった。

学校では否応なくいつも一緒だった。誰かの机にカエルを放り込んで教師に叱られたり、川のほとりで秘密基地を作ったり。田舎にありがちな閉じた日常のなか、それでも八人で集まれば退屈を忘れられた。誰が欠けても輪が崩れる。だから互いに監視するように、常にまとわりついていた。

……今、あの八人のうち五人が壊れてしまった。

最初におかしくなったのはTだった。大学を出て地元に残り、雀荘に入り浸るようになった。夜通し麻雀牌をかき混ぜ、明け方にはそのまま職場に顔を出す。目の下に隈を溜めて、それでも笑いながら「ツモった」とつぶやいていた。ある日、牌を握ったまま机に突っ伏して、そのまま二度と起き上がらなかった。

次はY。妻に逃げられ、酒ばかり飲むようになった。酔って田んぼに落ち、泥にまみれた姿を見たことがある。怒鳴りながら「皆だって同じようになる」とわめいていた。数年後、やはり突然いなくなった。

残りの三人の事情は細かく語ることもできない。ただ「病んだ」としか言えない。精神を病む、という言葉では追いつかない。影に引きずられたように、心が形を保てなくなったのだ。

八人中五人。半分を超えている。確率にすれば異常すぎる。

集落の誰もが薄々分かっていたことだ。あそこは少しおかしい。婚姻の相手は限られていたし、血の流れは濁り、閉じられた山の空気が長い時間をかけて人間の芯を蝕んでいったのかもしれない。

だがそれだけでは説明がつかない。子どもの頃の記憶に、どうしても抜け落ちた空白がある。八人が一緒にいたはずの夜、名前を呼び合った声が耳の奥にこびりついているのに、その場面だけがどうしても思い出せない。真夏の、じっとりとした夜気のなか、誰かが「来いよ」と言った気がする。その先に足を踏み入れたのか、それとも立ちすくんだだけなのか。

今も考える。壊れた五人と残った三人。境目は何だったのか。生まれか、環境か、偶然か。それともあの空白の夜のことが――。

自分は仕事を抱え込みながら、忙しさに追い立てられ、まるで目に見えない手で後頭部を押されるように暮らしている。いつか自分も「ポン」と消えるのではないか。仲間たちがそうなったように。

ふと気づいた。八人でいたはずなのに、記憶のなかで顔が七つしか浮かばない。誰が欠けているのか、どうしても思い出せない。あの集落には、もともと八人などいなかったのではないか。

……それなら、いったい誰が数を合わせていたのだろう。

[出典:324 :クランツ ◆Xgg113Pc:02/05/14 21:57]

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